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第七十章『征西の艦隊…2』

この時期、日本軍が戦力を向けるべき目標は二つあった。一つはトラック島にかかる

圧力を排除するためにニューブリテン島を占領することである。

だがこの方面はそこでとどまらず後方のニューギニア島のポート・モレスビーや後背地の

オーストラリア本土まで戦域が広がる危険性がある。かなりの長期消耗戦を覚悟しなくては

ふみきれず、日本にはその覚悟ができなかった。


『インド洋にしましょう。占領などを考えない一過性の攻撃ですが、海軍の総力をあげて

できるだけの打撃を与えられれば…アフリカ戦線にそれなりの影響が出るでしょう。

ナチスドイツとの連携を避けるというのが日本の国策ではあるけれど、現実に共通の敵と

戦っている以上ドイツには頑張ってもらう必要があります。インド洋攻撃の効果は間接的な

ものですからドイツとの謀議を疑われにくいと考えられます』


こうして巨大な艦隊がベンガル湾とセイロン島の東にいるわけである。もっとも第三の選択肢

として、むやみに動かずにひたすら戦力拡充に努めるというのもありなのだが…仮に三年後に

アメリカが反攻を開始するとして、その戦力を予想すると…日本の戦力拡充の努力など儚いものに

思えてきてしまうのも確かだ。動けるうちに打てるだけの手を打っておきたいというのが

正直なところだ。


椿の場合はいま持っている強大な力を駆使して、(一応)合法的な破壊と殺戮を楽しんでみたい…

その場合、この時点ではインド洋の方がより楽しめそうだと判断して作戦に賛成したのである。


セイロン島の東二百五十キロの洋上…魔王艦隊、旗艦『みなと』艦橋…


「第一次攻撃隊、発艦を開始します」


『みなと』以下七隻の空母から二百八十機の攻撃隊が飛び立っていく。目標はコロンボ港と

周辺の航空基地…一つずつ着実につぶしていくつもりである。


「電探室より、北東より高速機接近中」


「モスキートか、零戦を上げます」


今回、九隻のうち『あだち』と『かつしか』は防空担当艦として零戦を七十二機ずつ

搭載している。艦隊全体でも八百機の半数以上の四百二十機機を零戦が占める…

敵の基地と艦隊を相手取る可能性が高いことから戦闘機はいくらでも欲しいところである。


「索敵機からの報告はまだないかな」


攻撃隊に先立つ一時間前から十二線、二段の索敵機が敵の姿を求めて飛行中だ。


「一段目がそろそろ先端に届く頃ですがまだ…雲量がかなり多いので発見には苦労するかも

しれませんね…敵艦隊がいたとしてですが」


「南雲さんや小沢さんの方に行ってないとすれば必ずセイロン島の周囲にいるはずだよ。

大陸との間のポーク海峡を抜けて北からくるか、南から回り込んでくるか…」


「対艦兵装の第二次攻撃隊の準備が終わる頃に発見できると最高なんですがね」


「モスキート撃墜!…ですが、直前に無線の発信を確認しています」


「こちらの位置はほぼ特定されたな…いそがしくなりそうだ。従兵、コーヒーを頼む」


先ほどから椿が感じている『いやな感じ』はおわかり頂けるだろう…史実の『あの海戦』と

状況が似てきている…


『そうはさせないが…ね』


第一次攻撃隊が電探のスコープから消えて数分後、入れ違うように接近してくる反応が

捉えられた。


「高速機…さらに後方に編隊…機数四十から五十!…距離八十」


「零戦を追加で上げろ!…いやに早く来ましたな。見込みで発進させていたんでしょうか?」


「かもしれん…空中退避をかねて発進させておく…こちらがセイロンを攻撃するなら

大まかな位置はよめるから、発見と同時に進撃させる…だてに三年も戦争してる

わけじゃないってことだな」


「索敵機より入電!敵艦隊発見…セイロン島の南端ドンドラ岬の南南東三十キロ…

戦艦五…巡洋艦三…駆逐艦十隻」


「ようやく出ましたね。こことの距離は三百キロ…か…第二次攻撃隊準備急げ!」


「空母がいない…?」


空母のこと以外にも何か違和感を感じる…が、まずは十数分後にやってくるセイロンからの

攻撃に対処しなくてはならない。


「零戦は九十機上げました。この距離では英軍戦闘機にはきついでしょう…随伴してなければ

攻撃隊の阻止は容易でしょう」


「参謀長、敵の戦力の全貌がつかめるまで楽観は禁物だよ。それにしても…」


水平線の上空で空中戦が始まったようだ。かすかに長く尾をひく煙が見える…どちらかの

機が撃墜されたのだ。


「敵は高速戦闘機を含んでいます!上空からの一撃で少し混乱させられたようです」


「モスキートの戦闘機タイプか…対空戦闘の用意はできてるな。おっ、ありがとう」


最後のはコーヒーを運んできた水兵にかけた言葉だ。


「はっ、いよいよ『あれ』のお披露目ですな」


「敵爆撃機、五機…接近、ブレニム爆撃機…高度四千。低空から四機ボーファイターと

思われる」


魔王艦隊は空母五隻と四隻を中心に二つの輪型陣をつくっている。敵機は五隻の方…

椿の乗る『みなと』を含む輪型陣をめざして突っ込んでくる。水平爆撃と雷撃の同時攻撃を

行おうというのだろう…が、空中に恐るべき密度で火炎と黒煙が出現した次の瞬間、

バラバラになった航空機の残骸が海面めがけて落下していた。


敵機の針路前方にいた戦艦、防空軽巡、駆逐艦の連裝高角砲三十四基…六十八門が

火を噴いたのだ。ブレニムの次にはボーファイターが、これも一機残らず海面に

たたき落とされた。


この作戦に先立ち、椿は魔王艦隊にアメリカレベルの近接…K信管を配備した。

消費した能力ポイントは一発につき百ポイント…一応未来兵器なので高い…百万発分で

一億ポイントである。残は五百三十二億七千七百六十八万九千五百…


「……輪型陣内には近寄せもしませんでした。K信管は…恐ろしいですなあ」


数瞬の間、艦橋を支配した沈黙をやぶって下西参謀長が絞り出すように言った。

自らの兵器の威力に対する感嘆と、やがておとずれる『これ』を装備する米海軍との

戦いに対する思いが交錯したのだろう。


「K信管があるとはいえ、護衛艦艇は初めての対空戦闘です。見事な射撃でしたな」


うるさがたの松島先任参謀がめずらしくはいた褒め言葉を聞きながら、さめかけたコーヒーに

口をつけたとたん閃くものがあった。


「護衛……巡洋艦が少なすぎる」


「はあ…?」


「発見された敵艦隊だよ。戦艦五隻に巡洋艦が三隻だと?…英海軍は巡洋艦大国だぞ。

世界各地の植民地に対するプレゼンスのために大量に持つ必要があったからだ。

艦隊を組むにあたって、なにが不足しても巡洋艦が不足することだけはないはず…」


松島参謀があとを引き取る。


「つまり、残りの巡洋艦は別にいる…おそらく空母と共に…そういうことですか」


「し、しかし敵艦隊の近辺には…あ、速度差…か」


「長官、第二次攻撃隊の兵装は完了しています。飛行甲板に上げますか?」


「第一次攻撃隊より入電!『コロンボ上空に敵戦闘機約三十、これより突入する』です」


「電探室より、西方より接近中の少数機を捕捉しました」


…椿は考えをまとめる数秒の時間が欲しくてコーヒーをゆっくり飲み干した。


『さあ、どうする?』


つづく








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