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第六十九章『征西の艦隊…1』

この章のタイトルは作者がけっこう好きな架空戦記作者、青木基行氏…『亜欧州大戦記』が代表作…の同名の作品とは全く関係ありません。そちらの『征西の艦隊』はこれからってとこで終わってしまいました…架空戦記市場が斜陽になりかかった頃の悲しい思い出です。

インド大陸こそがイギリスを世界帝国に押し上げた原動力であった。人的を含めた資源を

無尽蔵に供給し、同時に巨大な市場でもある。また、地球の裏側の太平洋、中国に

進出するための堅固な足がかりとしてもその価値を存分に発揮してきた。


現在イギリスは太平洋からたたき出され、香港の居留民と連邦の一員たるオーストラリアが

頑張ってはいるが、ヨーロッパ戦線が片付くまで勢力の回復は不可能である。

だが、インドとインド洋を簡単に明け渡すわけにはいかない。


防衛の主力である海軍は、歴戦の提督サマーヴィル大将のもとで戦艦五隻、空母三隻、

巡洋艦六隻、駆逐艦二十二隻の偉容を誇っている。サマーヴィルが常々艦隊の乗組員に

語っていたのは、この艦隊は世界で第二位の戦力を持っている…ということだ。


「一位は?…もちろん英本国艦隊である。米海軍が再建されるまでは日本海軍が僭越にも

第三位の地位を占めるわけだが、最近どうもチラチラとこちらの様子ををうかがっているらしい。

やって来たいというのなら盛大におもてなしをして差し上げようじゃないか。諸君はそれまで

歓迎準備を怠らないでいて欲しい」


もちろんサマーヴィルが本心から楽観していたわけではない。プリンス・オブ・ウエールズを

初めとする英東洋艦隊を葬り去り、米太平洋艦隊を壊滅させた日本海軍が弱敵であるはずがない。


見敵必戦のこころがまえは持つとしても、行動は慎重を期す必要がある。だから日本軍が

ベンガル湾の東端に位置するアンダマン、ニコバル両諸島を占領したときも手を出さなかった。

インドに直接に重大な脅威が迫らない限り自ら攻勢に出るつもりはない…一度日本の空母部隊が

インド洋に進出したときは全艦隊に出動を命じたが、それは短期間の通商破壊戦を行うと

引き返していった。


『だが、こんどは本気のようだな…問題は敵の目標がどこかを早期につきとめられるかだ』


マレーやスマトラ島に潜伏している諜報員や潜水艦からの情報で日本艦隊の規模はある程度

つかめている。アンダマン海に出て来た艦隊には戦艦五隻以上、空母も五隻以上含まれて

いることが確認されていた。さらに後方に船団を伴う別の艦隊も続いているという…


「スンダ海峡を抜けた別働隊もいるようです。規模は確認されていませんが、こいつの目的も

気になりますね」


「日本軍の目標はいくつか考えられる。第一にはビルマの占領だ…現地では反乱勢力による

暴動が多発している。そこに上陸されると手がつけられんことになる」


「東インド…チッタゴンやカルカッタへの攻撃の可能性もあるのでは?ここを押さえられると

ビルマは孤立しますし…」


「しかし、マレーの日本陸軍には目立った動きは見られないということですが…」


「それこそあやしいだろう。『これから攻めていきます』って動きを見せるものかね」


インド防衛軍での議論はつきないが、もっとも重要度の高いカルカッタ近辺に航空隊と貴重な

戦車部隊を集結させるという無難な方針に落ち着く。


「もう一つ可能性がある」


クイーンエリザベス級戦艦『ウォースパイト』の作戦室でサマーヴィルは言った。


「我が軍の注意を北に引きつけたすきにここを狙う…セイロン島だ」


「確かに…セイロンを占領されると南インドが空襲の脅威にさらされますし、なによりインド洋の

航路は東半分が使用不可能になりますな」


「ここを狙うとすれば、おそらく南から来る別動艦隊だろう。戦力を分けたのは敵の失策だ…

我が艦隊は戦力を集中し、セイロン島の航空隊とも協力してこいつを叩く!」


戦訓から空母戦力で優勢が予想される日本艦隊とは自軍の基地航空隊との連携で戦う…これが

サマーヴィルの戦略であった。至極妥当なもので、うっかりこの策にはまれば苦戦、いや大損害を

こうむり敗北を喫することすら充分ありうるだろう…が…


「では、東インドの防衛は…」


「陸軍と空軍にまかせる。別動艦隊をつぶせば敵の戦略は大きく崩れる…我が艦隊を分散させる

愚はおかすべきではない」


1942年七月二十五日、戦端は日本海軍艦載機によるチッタゴンとダッカ…いずれも史実では

後の東パキスタン、さらに後にはバングラデシュの都市…に対する空襲でひらかれた。


第一機動艦隊…旗艦『赤城』以下翔鶴級空母三隻…『翔鶴』は内地で搭乗員の錬成中。

蒼龍級三隻にくわえて、第二機動艦隊から飛鷹級二隻と瑞鳳級二隻が参加している。


龍驤級二隻は魔王艦隊から供与された改翔鶴級『乗鞍』に搭乗員ごと機体を移すため内地に

回航中…その後は新規搭乗員の錬成に励むこととなる。43年夏には『蔵王』『葛城』の

二艦を始め改造空母も数隻就役してくる。艦載機の搭乗員はいくら増やしても、過ぎると

いうことはないのだ。


十隻の空母のうち瑞鳳級は対潛哨戒用の艦攻九機と零戦二十四機を搭載しており、艦隊防空に

専念している。残る八隻から発進した二百八十機の攻撃隊は二手にわかれダッカとチッタゴンを

襲った。


英軍もすでに前日に日本艦隊を発見しており、戦闘機を上げて待ち構えていた…が、それぞれ

二十機足らずのバッファローかハリケーンであり、倍以上の零戦に抗すべくもなかった。

両市の飛行場およびチッタゴンの港湾施設は一撃で壊滅した。


「港には船影無し…か。無理もないな、昨日の偵察機にこちらの動きをしっかり見られてしまった

からなあ」


「えらい高速機でした…噂に聞いてた『モスキート』という奴でしょう。新司偵より速そう

で零戦が全く追いつけませんでした…やはり英軍はあなどれませんな」


「飛行場を叩いたことでよしとしよう。攻撃隊を収容したらいったん後退するぞ。

まだ先は長いからね』


その頃、魔王艦隊の上空にも複数の『高速機』が接近していた。

三段に配置した六十機の零戦によって二機のモスキートを撃墜したものの、艦隊の一部を

視認、報告するのは防げなかった。


『日本艦隊は戦艦二隻を含む…』


英艦隊はセイロン島西岸の沖合を南下している。


「戦艦二隻か…戦闘機がいる以上、空母もいるのは確実だ。セイロン島から東に六百キロ…

明日にはコロンボやトリンコマリーに空襲をかけてくるだろう。防空は基地にまかせるしかない…

航空戦力は強化されているのだな?」


「空軍はカルカッタ重視で渋ったようですが、戦闘機は六十機ほどに増強されています。

半数はスピット・ファイヤーですからジャップの好きにはさせないはずです。

ブレニム爆撃機も四十機はいます…受け身だけにはならないでしょう」


「うむ、敵が空襲にかまければ必ず隙ができる…そこを衝いて、まず空母をつぶすのだ。

戦艦は五対二…ウェールズとレパルスの…トム・フィリップスの仇を射ってやろうじゃないか」


繰り返すが、サマーヴィル提督の作戦は至極妥当なものであった。


つづく





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