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第五十二章『閑話休題』

1942年五月…日本とアメリカが第二次世界大戦に参戦して半年後の

世界情勢をざっと見ておこう。


お隣の大韓帝国は日本と同じような立憲君主国になっていることは以前触れた。

一院制の議会があり、内閣が政治を行っている。日本と経済的に強く結びついており、

皇室間の婚姻なども行われ、少なくとも反日感情が表面に出てくることはあまりない。

軍事的には陸軍が中心であり七個師団、十二万の常備軍が主に北方に向かって備えている。


歴史的に観て半島国家である朝鮮にとり、絶えざる脅威は北にあった。

ときには西の超大国である中国と戦うこともあったが、通常は宗主国としてたてておけば

それほど問題が起きることも無かった。北方の騎馬民族が盛んな時こそ朝鮮民族の災厄の時期で

ある…中国が征服王朝のもとにあるときはその足下に屈従の歳月を送ることになった。

モンゴル軍の支配下で日本侵攻に協力させられたことは歴史上の消せない汚点とされている。


近代ではロシア帝国、ソ連と相手が変わったが北方からの侵略に神経を尖らせていることに

変わりはない。日本とソ連の不可侵条約締結後しばらくしてから、沿海州のソ連軍が減っている

ことを探り出し少しだけホッとしているところである。


日本とは安全保障条約を結んでいるが、片務条約で朝鮮が攻撃を受けたときにのみ日本が

参戦することになっており、現時点では中立国となっている。

日本が米英との戦争で手一杯の間、北の守りは引き受けた…と、すごく恩義せがましく言われ、

感謝の言葉まで要求されたと駐韓大使が怒る一幕もあったとか…


中国では蒋介石の国民党政権が共産党軍との戦いを有利に進めていた。独ソ戦の影響で

共産党軍への支援が途絶えたのが主な理由だが、緒戦の日本の勝利によって、うるさく非難を

繰り返していた米英の圧力が無くなったことも一因であろう。いまの内に大中華を統一、安定

させることができれば欧米諸国ごときにとやかくいわれる筋合いは無い。当分は日本と満州の

資本を利用させてもらおう…といったところで日本とは友好的中立国である。

武器などの製品と引き換えに資源は…中立違反ってなに? という感じで…日本に流れ込んで

きていた。


フィリピンでは空襲により陸の交通網は寸断、海でも小さな漁船以外の船はほとんど沈められ

米軍と比較的訓練の行き届いた一部のフィリピン正規軍がいる『点』以外の地域では

無政府状態に近くなっていた。共産系のゲリラ『フクブラ・ハップ』が支配する地域すら

出てきていた。『見捨てられた』米軍の士気もいつまで維持できるか…


東南アジア唯一の独立国タイは近隣を制圧した日本と協調的な態度を取らざるを得なかった。

自国の安定のためにはマレー地域の混乱は望ましくないこともあって、日本の占領行政を

支援する政策を行っている。


ヨーロッパ勢の植民地として孤立した形の仏領インドシナは共産ゲリラとの戦いに

日本の支援を求めて来た。日本でもこれに応じようかという声もあったが、最終的には

インドネシアからの石油の輸出以外は行わないことになった

椿は言った…歴代の中国の王朝が盛んなときに何度も制圧したが、結果的に必ず追い返されて

いる…インドシナは外国勢力にとって鬼門であるから深入りしてはならない…と。


英連邦の一員で、一千万に満たない人口にもかかわらず多数の精兵を連合国に提供している

オーストラリア、そしてニュージーランドのアンザック諸国には日本から度重なる講和の

打診があった。白豪主義に固まったオーストラリアが応じるわけもなかったが、現時点で

日本軍との最前線にありながら、海軍艦艇の損失を別にすると自国が一度たりとも攻撃を

受けないことの意味を測りかねてはいた。スイス経由で入って来た日本の言い分はごく一部の

者にであったが反響を呼んだ…『両国は経度を同じくしている。同じ太平洋国家として今後百年を

考えれば一日も早い戦いの終結を望む』…


日本の動向を見極めていたソ連は、ようやく極東ソ連軍の大部分を西方に移し反攻の機会を

うかがっていたが、戦車、運送車両、重火器、航空機の絶対量が足りない。米英からの援助が

到着しにくくなってるこの時点でとりうる戦法は人海戦術しかない状態である。


ドイツは…というと、モスクワを占領して達成感を得たというか、輸送能力の限界を

感じたというか、守りは固めてもこれ以上前進する気配を見せなかった。

ソ連軍に立ち直る時間を与えてはまずいとは思っても、人も物も足りないのだ。

ルーマニアやチェコスロバキア、ポーランド、ウクライナなど支配下の国と地域の兵の

練度が上がりドイツ製の兵器が行き渡るまでは攻勢作戦はとれそうもない。

反共帝国たる日本がソ連と不可侵条約を結んだことを…自分のことは棚に上げて…

非難していたが、実際のところどうすることもできないし、米英に打撃を与えた日本を

評価するドイツ国民も多かった。


アフリカへの上陸が予想される米軍、エジプトにへばりついてる英軍にも

対処しなくては…イタ公の尻拭いだが、アフリカを失い『ヨーロッパの

柔らかい下腹』をさらけだすわけにはいかないのだ。

ロンメル将軍のアフリカ軍団に対する補給は最優先となり、補給路を脅かす

地中海の要衝マルタ島の攻略も…戦意に乏しいイタリア海軍の尻を

叩いて実行されようとしていた。


イタリアの状況はほぼ史実通りだが、独ソ戦がドイツ有利な分だけ統領ムッソリ−二にも

まだ余裕があるようだ。


イギリスは依然としてドイツに押されてるとはいえ、持ち前の粘り強さとアメリカの参戦による

戦力上の余裕から戦意は旺盛であった。インド防衛の海上戦力の捻出には苦労していたが

最終的な勝利への確信が高まりつつあった。


アメリカはその無限とも思える工業生産力がフル活動を始め、連合国の巨大な兵器厰としての

姿を現そうとしていた。ただし、太平洋で本格的攻勢に移れる海軍戦力が整うまで、まだ一年は

かかると見られている。


史実と変わってる部分もあるが、全体の流れとしては同じようなものか…だが、これでいい。

『魔王椿』が乗り出すのは、少し違うがなじみのある舞台であることが望ましいからだ。


その他の地球上の参戦していない国と地域は直接、間接に戦争の影響を受けることもあったが、

なにより日々の糧を得るための営みに精を出していた。世界を揺るがす大戦争が起きてること

自体を知らない人々も多いことだろう。


さて、その戦争の真ただ中にいるアメリカ合衆国のハワイ…

太平洋艦隊司令部ではチェスター・ニミッツ司令長官が真珠湾に入港した新型戦艦

『サウスダコタ』から視線を外すと、事務机の上の書類の束を取り上げため息をついた。


「いま太平洋艦隊に必要なのは戦艦より、命中したらちゃんと爆発する魚雷だ…」


つづく



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