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第五十章『プロジェクトP…1』

蘭領インドネシアの中心、ジャワ島のジャカルタに司令部を置いた第二十六軍司令官

今村均中将は多忙であった。


独立組織のリーダーの一人でオランダの官憲に逮捕拘束されていたスカルノという

人物との面談が終わったばかりである。この時点では、将来彼の夫人の一人となった

日本人女性がテレビである種の人気者になっちゃったりするかどうかはわからない。


司令部スタッフの一人に声をかける。


「あの件の進行はどうだ。その…呼びかけに応じた業者はあるのか?」


声をかけられた中佐が何とも言えない表情で答える。


「はっ…『PーP』でありますね…たくさん来ております。軍医長とも相談の上で

許認可の体制をどうするか検討中であります」


「大至急進めてくれ。兵士達が問題を起こしたりしないようにな」


そう言うと今村は次のスケジュールにかかる前に、疲れた眼を押さえながら

椅子に深く身を沈めた。


『戦闘も大変だが、勝ったら勝ったで後のことの方が気を使うなあ。できるだけのことは

するが占領行政は軍人の手には余る…行政官を早く派遣してもらわんと。それにしても、

あの椿とかいう男は本当に…』


今村は大変と言ったが、インドネシアをめぐる戦闘はあっさりとけりがついていた。


ドールマン少将が率いるオランダ東洋艦隊は軽巡『デ・ロイテル』『ジャワ』『トロンプ』に

オーストラリア海軍の重巡『キャンベラ』、軽巡『パース』を加え、駆逐艦十一隻とともに

日本艦隊に立ち向かった。英東洋艦隊、米太平洋艦隊が歯が立たなかった相手に…

学習能力が無いと言ってしまうのは酷かもしれない。連合軍といっても完全に情報を

共有しているわけではないし、軍人というものは『こうして、ああして、こうなれば

勝てないまでも打撃を与えられないこともない。祖国を守る我らの戦いの意義は

後世必ずや理解されるであろう』てな感じに…特に追いつめられると…なりがちである。


本国がドイツの占領下にあり、ロンドンの亡命政府の他にはインドネシアにしか実体のない

オランダとしては『戦ったという事実』が必要だったのかもしれない。


ジャワ島に向かう輸送船団めがけて突進した東洋艦隊だったが、後方にさがって充分な補給と

休養をとってから進出して来ていた日本空母部隊の艦載機に一撃された。


デ・ロイテル、ジャワ、キャンベラ、パースと駆逐艦三隻が撃沈。ドールマン少将は

戦死した。残りの艦が逃走できたのは午後遅く、遠距離での接触だったこととスコールの

ために空襲が一回だけだったからだ。


オランダ軍の航空戦力は質量ともに日本軍の敵ではなく、ほとんどが地上で撃破された。

その後、空襲と艦砲射撃で砲台や陣地、装甲車両を破壊されたオランダ陸軍も小競り合い程度の

戦闘を行った後、上陸部隊に降伏する。総督の戦闘停止命令によってスマトラ他の諸島も無血で

日本軍に明け渡されることになったのだ。


かくして、『長期不敗体制の確立』はどうだかわからないが、東南アジアの資源地帯は

いちおう日本の手に入り、本土ではその輸送計画策定に追われているという。


今村中将は欧州での駐在武官の経歴もあり国際情勢にも広い視野を持つ将官だった。

その点はフィリピンを担当している本間正晴中将と同じで、外国で占領軍を指揮する資質が

有りとされたのだろう。部下思いでも知られた『仁将』の彼は史実でも大本営の一部から

『甘すぎる』と批判され更迭されるまで良好な占領行政を行った。戦後に戦争犯罪人と

された人々の中には『何故?』と思われる人も少なくないが、その代表格として名前が

挙げられる人物である。


マレーと同じように住民で退去を望む者にはそれを許した。残留を希望すればオランダ系

住民でも抑留などの措置はとらず、従来の仕事に就くことや安全を保障することも通達した。


船舶の手配…降伏した艦船のうち戦闘艦艇を除くオランダ船は退去用に解放した…や

潜水艦などの攻撃を受けないようにする安全海域、日時の設定などやることは山のようにある。

『被支配者』だった現地住民の報復、暴走といったことも押さえねばならないし、

援助を求める自称独立組織の代表やら木材やコーヒーを輸出したいと申し出る業者などで

『進駐軍』…占領という言葉を忌避した…の司令部は門前市をなすといった状態だった。

寝る間もないといった状態の今村がぼやくのも無理はない。さらに…


開戦前、南方への進行が行われる場合に指揮をとることが内定していた司令官級の

顔合わせがあり、今村や本間、マレーの山下達が参謀長格の将官ともども集められた。

その席で初めて噂の『御使い』椿五十郎に会い、いくつかの事項についてレクチャーを

受けることになったのだ。そして椿の助言は大本営によって命令として追認され、いくつかは

『厳命』とまでされていた。


『PーP』…プロジェクトP屋…もその一つであった。

P屋とは軍隊の隠語で『慰安所』…兵士用の売春宿のことである。


つづく








次回は架空戦記ではあまり触れられることのない部分を描こうと思ってます。配慮はしますが、人によっては内容や語り口に不快を感じるかもしれませんので、あらかじめお断りしておきます。よろしく…

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