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第四十八章『アジアの曙』

ドウリトルの本土空襲からのごたごたが一段落した1942年二月末、

大日本帝国の矛先は東南アジアの欧州列強…ここではイギリスとオランダ…の

植民地に差し向けられることになる。


資源獲得のためだけならば南方作戦は必要がないともいえる。椿の能力ポイントには

まだ余裕があり、戦略物資の出現に要する消費ポイントが意外と低かったこともあって

当面は不足する心配はいらないからだ。そもそも戦争遂行に必要な物資を『戦争を開始

してから占領する予定の土地』で得ようとした史実の計画が絵空事すぎたのだが…


侵攻と占領維持および日本本土への運搬ににかかるコストと時間を計算したら、とても

引き合うものではないのだ。それでもやらざるを得なかった史実の悲惨さは、『開戦百日の

栄光』と形容されるその戦闘経過の華やかさと裏腹に涙なくしてはたどれない。


この世界での南方作戦の主目的は『アジア人による大東亜共栄圏の建設』…ではない!

はっきり言って日本の手に余る。この時点での…平成の日本であってもそんな重荷を背負える

ほどの力も気概もない。将来的なアジア人国家建設のきっかけ、一助になればぐらいに

しておいた方が良い。それにしたって、それなりの責任と負担が生じるのだが…


とりあえずは東南アジアからの敵性勢力の駆逐ということである。ほうっておけば

そこを拠点に通商破壊や航空攻撃を仕掛けてくるだろう。いったん追い出せば、ヨーロッパの

現状からして当分反撃してくることはないはずで、戦線の正面をアメリカとオーストラリアに限定

することができる…大変には違いないけど…


使用する海軍戦力は第一機動艦隊が二航戦の翔鶴、瑞鶴…三航戦の蒼龍、飛龍、雲龍の五隻の空母。

第二機動艦隊の四航戦の龍驤、龍鳳…五航戦の瑞鳳、祥鳳に六航戦の隼鷹が加わる。

一航戦の赤城と天城は開戦以来の酷使と、新造艦にありがちな初期故障が多発しているため

整備にまわされた…搭載機は他の空母が損耗した分の補充にあてられている。


この世界の空母航空隊は『空地分離』がされているのでこうした融通はつけやすくなっている。

空母に所属することで得られる艦および乗員との一体感や航空隊のチームワークといった点は

薄れるが、必要なときに必要な戦力の集中…という原則からすれば分離方式の方が有利だ。


一航戦と雷撃で損傷を受けた飛鷹は、補修の後に鳳翔とともに搭乗員の訓練、育成にあたることに

なっている。米軍の本格的反攻が始まるまでにできるだけ多くのパイロットを準備しておかねば

ならないからだ。


空母の他には、対地砲撃用に戦艦が五隻…扶桑、山城、金剛、榛名、比叡。

巡洋艦八隻、駆逐艦三十二隻、潜水艦十二隻…である。


兵員と物資を運ぶ輸送船舶は百二十八隻、護衛総隊の軽巡二隻に護衛艦が二十三隻…

輸送船の護衛に当たる艦艇は従来の小型旧式の駆逐艦に加え、対潜、対空に特化した

専用艦が続々と就役していた。その艦種の名称は一時『海防艦』が候補になっていたが、

そのものずばりの『護衛艦』の方がわかりやすかろう…ということになった。


上陸部隊は陸軍が英領マレーに三個師団、約五万…この第二十五軍を指揮するのは

椿と同じくらいの巨漢、山下奉文中将である。マレー半島北部に上陸、大英帝国の

極東における最大の拠点シンガポールを目指す。


もう一つの部隊は英蘭両国が領土を分け合うボルネオカリマンタンのパリクパパンに

ある油田と製油所を制圧する。こちらは海軍陸戦第二師団一万一千の兵力である。


オランダ領インドネシアの中心であるジャワ島、最大のパレンバン油田を持つスマトラ島は

その後で攻略することになっている。なにせ台湾より南には占領したばかりのレイテ島しか

拠点がないので大変である。


中国からの情報でイギリスの租借地香港には警備隊程度の兵力しかおらず、海空の戦力は

ほとんどがマレー方面に移動していることがわかっているのでほうっておく。

いずれにせよ中国人の多く住む香港は攻撃しにくいのでこれはラッキーな展開であった。


フランス領インドシナの植民地政府は中立宣言を出して、情勢の推移を息を凝らして見ている

…というか、共産系の独立組織『ベトミン』の活動が活発になり、その対策に追われていて

他人の戦争にかかわるどころではなかった。


二月末、作戦発起を前にして日本政府は大時代な芝居がかった勧告を発表する。

英蘭両国に対し、マレーおよびインドネシアにいる非戦闘員の即時退去を求めたのである。


特にオランダについては、戦後五十年もたってから国賓として招かれた女王陛下が

宮中晩餐会の席上でグチグチと戦時中のことに文句をたれる…といった無礼をさせないように

しておく必要がある。史実の日本は文句を言わせるようなことをしたのだろうし、被害者や

政府が外交上のルートで言ってくるのはかまわない。ただ、時と場所をわきまえずに

言いたい放題言われて、(日本側出席者一同)下を向いてるだけの行事に巨額の税金を

使われたくないということである。


当然というべきか両政府からのリアクションはなかった。しかし、現地では混乱が起こる…

『これから攻めにいくぞ』と宣言されたのだ。植民地政府の総督達には市民を守る責任もあるし

せめて来る日本軍を撃退できる自信は全くと言っていいほどない。現時点で海上戦力は

オランダとオーストラリア海軍の巡洋艦が合わせて五隻、駆逐艦十数隻、潜水艦が若干…

イギリスはインドに戦艦を含む艦隊がいるが、これをつぶされるとインド洋が空になってしまう。

頼みの綱…だったアメリカ太平洋艦隊はもういない…


唯一元気なのは英陸軍の司令部で、マレー半島各地に築いた陣地群とシンガポール要塞で

半年間は日本軍をくいとめると豪語していた。だが、港ではインドに向かう船に乗り込もうと

する民間人の姿が急増していた。情報は統制されているが、日本が国外向けラジオ放送で

大量に流す情報がたちまち広まっていったのだ。


日本艦隊が動き出す…


つづく





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