表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/127

第十九章『続…かん!連合艦隊1941』

日露戦争時の駆逐艦は三百トン程度の排水量で、かかえた魚雷ごと敵艦の懐めがけて

突っ込むような艦種であった。しかし、凌波性が悪く外洋での効果的な運用は困難で

汎用性に乏しかった。


駆逐艦の本来の役割は名前のしめす通り、味方の主力艦にせまる敵の水雷艇を『駆逐』する

ことであったが、しだいに水雷艇の役目も兼ね備えた汎用艦として攻防ともに欠かせない

存在になっていく。第一次世界大戦以降は対潜水艦用の護衛という任務が加わる…

どんな戦艦でも裸の状態で潜水艦に襲われたら勝ち目がないからである。


明治時代末期にはイギリスの模倣をして大型の駆逐艦が八隻建造されたが、速力や

凌波性に問題が多く日本近海での実用性は低かった。

それを脱皮した国産駆逐艦の誕生は、やはり第一次世界大戦の戦訓…Uボートに

負けたことを抜きにしては語れない。


駆逐艦の進化は潜水艦のそれと相互作用していくことになる。日露戦争後に

アメリカから輸入した『ホランド型』をスタートとする日本海軍の潜水艦開発は

当初は事故で犠牲者を出すなどして、あまり順調とはいえなかった。


それでも第一次世界大戦前後の造艦技術の発達をもとに着実に進化をつづけていった。

戦利品として獲得したUボートは当然参考にされたが、仮想敵を太平洋をはさむ

アメリカ海軍とする日本では二種類の潜水艦が必要とされた。

ひとつは長駆…それこそ北米西海岸まで進出してアメリカの動向を探る大型艦で、

巡洋型と呼ばれる二千トン級の『伊号』である。高い偵察能力が求められるが、

水上偵察機を搭載するなどという無理はせず、長期の行動を可能にする航続力や

居住性の充実、通信機能の強化に開発目標がおかれた。


千トン級の中型艦『呂号』は、日本近海での迎撃および通商破壊…おもに米領

フィリピンに対する…を目標として水中航行能力と静粛性を求めて開発される。

電動モーターと台座の間にゴムを挟むなどして徹底された防音対策は世界的にも

第一級のものであった。


そして『自動懸吊装置』…モーターを動かすことなく水中の一点に停まれる…は

日本独自の技術で、潜水艦の隠密性を飛躍的に高めた。


こうした潜水艦に対抗するため駆逐艦も探知能力、対潜攻撃能力を高める必要に

せまられる。水中聴音機パッシブ・ソナーの性能向上と曳航式聴音機の併用による

探知能力強化が解答のひとつだった。これはある程度の成果を収め、1941年に

音波探信儀アクティブ・ソナーが実用化されるまで日本駆逐艦の標準装備となっていた。


攻撃面では、陸軍の小型迫撃砲…擲弾筒をモデルにした前投式の爆雷が開発されて

演習での結果はかなりの効果があるとされて、関係者を喜ばせた。


駆逐艦の特徴はその汎用性にあるが、それにも限界がある。

艦隊に随伴し、護衛と攻撃に任じる艦隊型と輸送船などの護衛を務める型では

違う特性が必要ということで分化が始まる。

護衛型は当初、旧式艦をまわすこととされたが次第に専用艦が建造されていく。


艦隊型は二千トン級で三十五、六ノット。武装は防空能力を考えて十二・七センチ

高角砲を連裝三基六門、四連裝魚雷発射管二基八門である。

十八隻建造された『陽炎型』と後継艦として配備が始まった『夕雲型』がこれにあたる。

砲は対空、対艦の両用砲が望ましかったが照準機の小型軽量化が難しく今後の課題と

されている。とりあえず『対艦砲で対空射撃はできないが、その逆はなんとかなる。

高速で走り回る駆逐艦の対艦射撃は精密な照準より、手数…発射速度の高い方が

実用的ではないか』という意見が通ったのだ。


護衛駆逐艦は千トン未満で二十八ノット程度、高角砲は単裝二基で雷装はなし。

そのかわりに前投式を含め、爆雷装備を充実させてある。

艦体の構造を単純にして量産性を高め、大戦の始まった39年から配備が始まり

すでに二十六隻が就役している。


なお、護衛任務は連合艦隊の手に余るのでは…という声も高く、専任の

『海上護衛総隊』の創設が、この41年初めに行われていた。


ところで、この世界には史実で連合国海軍を震撼させた『酸素魚雷』は存在しない。

開発に着手はしたのだが、数度の事故で多数の死傷者が出たことにより断念、

世界の標準から劣ることもないが突出もしていない、平凡もしくは堅実な性能の

ものになっている。


言い忘れていたが、日本の艦艇に装備されている対空機関砲は当初陸軍で

開発された三十ミリ自動砲を艦艇用に再設計したものに統一されている。

明治以来の機関銃大国にふさわしく、発射速度も高く優秀なものである。

炸裂弾頭が命中すれば頑丈な機体といわれる米軍機であっても大きな損害を

与えられるだろうと期待されている。


「ごほっ、ごほっ」


椿は窓から入ってきた土ぼこりにむせってしまった。横須賀から連合艦隊の司令部がある

日吉に向かう車の中である。


舗装もされていないデコボコの田舎道、歩く人々の服装もあか抜けない。

どこかで見た風景…そうだ、椿が物心ついた頃の昭和三十年頃の眺めがこんなだった。

モノクロームの貧しい風景…だが、人々の顔には『今日より少しましな明日』を夢見る

明るさもあった。


この世界の今、大戦争を直前にひかえた日本人の心の中はどうなんだろうか。

大多数の民衆にとっては『なるようにしかならん』というのが正直なところかも…


『そんな細かいことは我が輩の知ったことではない』


…と心の中で、一応つぶやいてみる『魔王』椿であった。


つづく




こまめに保存を!どうしてこの注意を忘れて、しかも筆が進んだときにエラーが発生するのでしょう。二千文字が吹っ飛んでしまい、修復(おもにやる気の)に二日かかりました。なお、今回の章タイトルは『ガキでか』で有名な漫画家、山上たつひこさんの名作『喜劇新思想体系』の単行本からのパクリです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ