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第一章『何年何月?』

夜明けにはまだ少し間がある暗い海の上に、多数の巨大な影が移動している。

近づいて見れば、その上では小さな影達が忙しく動き回っている。

自然の風とその巨大な影…船の速度が相まって作り出される秒速二十メートルを超す

合成の風の音にも負けない轟音が甲板上に響きわたっていた。


「長官、攻撃隊発艦準備完了しました!」


「では、宴を始めるとしようか諸君」


長大な甲板上に敷き並べられた航空機が次々と、そして驚くほど短時間のうちに

飛び立っていく。それは『艦隊』の上空で編隊を組み始め、やがてとてつもなく巨大な

集団にふくれあがっていった。


『この日このときを五十年待った…さあ、お楽しみはこれからだ』


艦橋の外廊で発艦する航空機達を敬礼で見送りながら、大日本帝国『特設機動艦隊』司令長官

椿五十二郎ごじゅうじろうは声を立てずに笑った。星明かりで微かに浮かぶその顔はまさしく

『魔王』のそれである。…魔王の所行を繰り広げるためにここに居るのだから、これでいいのだ。


「長官、彼らが行きます」


「おう」


見上げる椿の目に『西』に向かう一大飛行集団の姿が、ようやく闇を薄くしつつある

空を背景に映っていた。


…ここで話は少しさかのぼる。そう、椿がこの時代にやって来た時点まで…


黒雲がわき、中では雷光のような光が閃く…次の瞬間の雲は消え失せ男が立っている。

以上の描写は椿が何かを出現させるたびに起こる演出である。何回もやるとくどいので

これ以降は描写を省略する。


針葉樹の木立越しに港が見える…貨物船の船尾に日の丸を見つけてホッとする。

この時点でここが日本領とは限らなかったからだ。もしソビエト兵に出くわしでもしたら

(相手の人数にもよるが)直ちに護衛隊を出現させ皆殺しに…おいおい…した後、

脱出の方法を探ろうと物騒な計画を立てていたが杞憂に終わったようだ。


椿には日露戦争後の…自分が改変した後の歴史がどうなっているかわかっていない。

タイムスリップに当たって設定したのは『日本とアメリカおよびその同盟国との

戦争が起こる可能性が非常に高い期日より半年ほど前』というアバウトなものだった。

ネットの検索同様ヒットしないことも考えられたが…『日米戦争』は起こるらしい。

場所は陸軍省でも連合艦隊旗艦の上でもなく、日本領であるはずの樺太である。


人の気配に振り向くと、服装からして海軍士官らしい青年が目を丸くして立ちすくんでいた。

見たような顔立ちだが…


「も、もしや『御使い』…椿閣下ではありませんか?」


「うむ、知っているのかね。で、君は?」


「海軍中尉、矢向茂一やこう しげかずであります』


「はは、副官をしてもらった矢向君の子息だね。ご両親は息災だろうね」


「はい、父茂しげるも母ミサも元気でこの大泊おおとまりでくらしております。

閣下のことは子供の頃から聞かされていました」


「それはよかった。君は母親似だね、よかったよかった。」


「私は休暇で帰っていた所です。ぜひ家に来て父達に会って頂けますか。

それともご予定がおありでしょうか」


「いや、こちらから頼もうとしていた所だ。確認したいこともたくさんあるのでね」


矢向茂は少佐で軍を退き、港湾関係の役所勤めをするかたわら数多くの部下の仲人をして

椿が残していった『御使い』の軍人達の世話役的活動を続けていた。


「か、閣下、お久しゅうございます」


「よくやってくれているね、礼を言うよ。おお、ミサ君も元気で何よりだ」


「まずはお酒ですね閣下、おいしいお刺身もありますから召し上がって下さい」


「ははは、見透かされているな、頼むよ」


ミサは前の舞台、日露戦争の間ずっと東京早稲田の家で女中として世話をしてくれていた。

椿の酒好き…毎日五合は先刻承知である。明治日本での『窓口』だった参謀本部次長、

長岡外史ながおか がいしの紹介で付けてもらったのだ。


病死した下級将校の娘で、当初は『得体の知れない』椿の監視の役目もあったのだろう。

いつの間にか副官の矢向とよい仲になり、戦後椿が出現させた将兵を樺太にまとめて

移住させたとき一緒に来たのである。


椿軍の将兵はここで戸籍を得て日本人としてのくらしをスタートしたのだ。

国家ぐるみのこの捏造には新たな、内地と離れた樺太が都合が良かった。

椿がなんとしても樺太全島を領有したかった理由の一つがそれである。


もう一つの理由は石油である。後で知ったが、大羽おおはと日本名が付けられた

オハ油田はこの時点で年間八十万トンを産出するまでに開発されていた。

採掘技術が進歩すれば最大二百万トン以上になるはずだ。特設第百一連隊の

連隊長だった阿南あなん大佐が開発の初期に役員として活躍したそうである。

本人は五年前亡くなっていたが…


運ばれて来た『まずはビール』で乾杯した後、基本的な質問をする。


「ところで、今は何年何月かね?」


「昭和二十年六月であります」


つづく




出だしの場面に行き着くまでどれくらいかかるんでしょうね。一章書いては次の話を考える自転車操業小説です。頑張って下さい…って何を?

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