表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
122/127

第百二十一章『決戦!絶対防衛圏…3』

『マリアナ沖に展開している米空母群のうち、最北端の目標甲に接近した

第一機動艦隊からの攻撃隊の前には二百機以上の敵戦闘機が待ち受けていた。

やはり米艦隊も電探と警戒駆逐艦によって、こちらの動きを的確につかんでいた。

目標甲、乙の前面の迎撃機を集中させていたのだ』


『烈風が敵機を拘束する間に百五十機の流星が敵艦隊上空に接近する。

護衛艦艇の数が多い…米艦隊はわが軍のK信管と同様の性能を持つ

対空砲弾を装備しているとされている。このまま突入したのでは大損害を

被るのは免れない…』


『高度と速度を上げ前衛にでた二十機あまりの流星改が爆弾槽からいくつかの

物体を投下する。それは一定高度で分解するとキラキラ光る細長い薄片を無数に

まき散らした…電探派を乱反射させるアルミ箔…紊乱紙である』


『当初の目的は敵のK信管をこれで誤爆させることにあったが、実験の結果は

そう都合よくいかず、誤爆したのは二〜三割にとどまった。しかし、米軍は

高性能の電探と対空火器を連動させているという情報もあり、それを混乱させる効果は

充分にあるとされた』


『じっさい、猛烈な対空弾幕にもかかわらず…少なくない損害は出したが…

攻撃隊は投弾位置に達することができた』


『だが、戦果はエセックス級空母一に直撃弾三、命中魚雷一…中破。

インディペンデンス級軽空母一に直撃弾二、命中魚雷三…撃沈確実に

とどまった。空母を挟むように機動する二隻の巨大戦艦…大和級よりも

かなり大きく、三連裝の主砲塔を四基もつところからモンタナ級と認定された…に

攻撃が吸収されたためである。両艦には数発の爆弾と一本ずつの魚雷が命中した

はずであるが、いささかも弱った様子を見せなかった』


『効果不十分…この状況を変えたのは低空から侵入してきた双発機の群れであった。

硫黄島に配備されていた新型陸攻…銀河…百八十機が戦場に到着したのだ』


『増槽をつけた銀河は硫黄島からマリアナ沖を(ギリギリだが)作戦行動半径に

おさめている…この攻撃は米軍の意表をついた』


『銀河の内で六十機は対空砲火制圧用の装備であった。機種の二挺の

二十ミリ機銃と胴体下の四発の奮進弾によって、輪型陣外側の護衛艦艇の

火力を削る…その後から対艦装備の機体が突入するのだ』


『雷撃?…と思った米艦隊をあざ笑うような高速で接近した双発機は

まるっこい物体を投下する…それは海面をはねながら米艦にぶちあたった。

そう、この銀河隊は反跳爆撃に特化した訓練を積んできていたのだ』


『エセックス級三隻が被弾し大火災を起こした、すでに損傷を受けていた一隻は

停止し、残る二隻も沈まないまでも発着艦不能と思われる損害を与えた。

目標甲の稼働空母はゼロとなったのである』


『目標乙に向かった特機艦の攻撃隊は、他の三個空母群からの増援もふくめた

三百機近い戦闘機に迎え撃たれた。技量抜群の搭乗員が揃っているとはいえ

輪型陣に突入したときには攻撃機は百機を切っており編隊も乱されていた』


『それでもエセックス級二隻に命中弾…内一隻には四〜五発を命中させ大破に

追い込んだ。また二隻いるインディペンデンス級の一隻に二本の魚雷を命中させたのは

さすがであった』


『四十分遅れて到着した第二次攻撃隊は一機艦、特機艦ともにこの目標乙に攻撃を集中した。

結果、エセックス級とインディペンデンス級各一隻を撃沈確実、残る空母も発着艦不能に

追い込むことに成功した』


『だが、この頃から付近の海域は急速に天候が悪化し、帰投した攻撃隊を収容したあと

米機動部隊は雲の下に姿を消した』


『日本側は…おそらく米軍も…第三次以降の攻撃を続行するつもりでいたのだが

天候には勝てない。この日の航空戦は自然に終息することになった』


『マリアナの基地にはこの日も空襲がおこなわれた。護送空母群からとおもわれる二波、

計六百機がサイパン、テニアンに来襲した。徹夜の復旧作業によって機能を回復した

滑走路から二百機の戦闘機が飛び立ち迎え撃つ…米軍の予想を上回る土木技術の能力の

たまものであり、米軍も少なからず驚いたようであったが、機数の差はいかんともしがたく

両島の基地は大きな損害を受けた…健在な戦闘機も百機足らずまで落ち込んでいる』


『また、厳重な警戒をしていたにもかかわらず、一時的に敵艦隊との距離をあけるべく

変針中だった二機艦が潜水艦の襲撃を受け、飛鷹が三本を被雷して沈没した。これで二機艦の

空母…隼鷹、龍鳳、瑞鳳は各々の姉妹艦を喪ったわけである』


『この日、日本艦隊は約七百機の艦載機を喪った。未帰還ばかりではなく、海上投棄された

損傷機百五十を含むので搭乗員の損失は割り引かれるが大損害であることはたしかだ』


『海戦以来の幾多の戦いで、ほぼ無敵といってよい強さを誇ってきた日本軍であるが、

超巨大な戦力をもつ米艦隊はやはり生易しい相手ではなかった』


『特機艦の残存している艦載機は健在の五隻にほぼ収容され、四百二十機が作戦可能である。

母艦が全艦無事の一機艦は残存機が四百機となり、かなりスカスカになっている。

だが、午後遅くなってから百四十ほどの機体が北方から飛来し各空母に着艦した…

後方にいた六隻の輸送空母から発艦した補充部隊である。日本艦隊の艦載機は

一千機を越えるまで回復した』


『最大速度が二十ノットそこそこの輸送空母は戦闘行動には耐えられないが、

今回のように大消耗が予想される戦いにおいて戦力補充の任務を割りあてられたのだ。

しかし、米艦隊も同様に補充を受けているだろう…明日以降の戦いでわが艦隊は

この消耗戦に勝つことができるのだろうか』


『山本長官は、たとえどれだけの損害を受けようとも退くつもりはなかった。

最後までマリアナ海域にとどまること…それを最大の作戦目的にしていたからだ。

艦艇や航空機の損害以上に米軍の作戦企図…マリアナ占領…を挫くことに意義を

もたせていたのだ。双方の戦力をすりつぶすまで戦ったのち、外交交渉にゆだねる…

確信はなかったかもしれないが、戦争の幕引きについての長官のもくろみは

そういうことであったろう』


『戦艦部隊…陸奥、扶桑、山城を率いている古賀峯一大将から、二機艦に所属している

金剛型三隻を吸収して夜間突入をしたいという具申があったが却下された。

上陸にかかった輸送船団が目標というのならともかく、高速の敵空母の捕捉は困難であるし、

敵戦艦部隊は強力であり大和級抜きの突撃は無謀とされたからだ』


『すりつぶすにしても、すりつぶしどきというものがある。

まだ奇策にはしるべきではなく、常道の範囲内で少しでも成功の可能性の高い方策…

手を打ち続けるべきだろう。そして、わが軍が事前に打った手はまだすべての結果が

出たわけではなかったのだから』


『その夜、日米艦隊は約四百キロの距離をおいて遊弋しながら対峙し合っていた

…はずであった…が』


つづく


この『決戦!…』はもう少しあっさり終わらすはずだったのですが、『戦い』はなかなか思うようにはいきませんね…

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ