第百二十章『決戦!絶対防衛圏…2』
『日米両艦隊は、ほぼ同時に相手を発見し攻撃隊を発進させた。日本側は
事前情報から敵艦隊のおおよその位置をつかんでいたが、米軍は偵察機を
充実させており、四機編隊のヘルダイバーを十二線、二段…九十六機という
索敵網を張り日本艦隊を捉えたのだった』
『わかった範囲で、米艦隊の布陣は以下の通りである。
エセックス級空母三隻にインディペンデンス級軽空母が一隻ないし二隻を加えた
空母群が戦闘単位となり、サイパン島東方百五十キロに五個が南北にならんでいる』
『各空母群には戦艦二隻、巡洋艦八〜十隻、駆逐艦四十隻ほどが護衛につき
輪型陣を組んでいる』
『護送空母の部隊は、この時点で発見されていない…索敵圏外にあると見られる』
『対するわが軍の布陣であるが、特設機動艦隊の第百二航空戦隊が先頭…最南端にあり、
すぐ後ろに百一航戦が続いている。練習用空母として多くの搭乗員を育てた『乗鞍』は
この戦いを前に百二航戦に復帰しており、両航戦は五隻ずつの改翔鶴型空母をもって
構成されていた』
『特機艦の北方に三十キロ離れて、第二機動艦隊が改造空母ながら歴戦の隼鷹、飛鷹、
龍鳳、瑞鳳に百八十機を載せて続行する』
『さらに三十キロ後方に、わが第一機動艦隊が三つの輪型陣を組んで続く…それぞれが
二隻の(改)翔鶴型空母と飛龍型一隻を含んでいる』
『昨日、硫黄島の航空基地の傘の中で終結と陣形整備を終えたわが艦隊は
米艦隊と雌雄を決すべく南下を開始したのであった』
『連合艦隊司令長官、山本五十六大将が座乗する指揮巡洋艦、大淀のマストに
Z旗が揚がる。各空母の甲板を蹴って攻撃隊が発艦を開始した』
『攻撃目標は北から甲、乙、丙、丁、戊と呼称がつけられた空母群のうち
甲と乙に集中することになった。米艦隊が多数の戦闘機を保有しており、
護衛艦艇の対空火器も非常に強力であることが確実視されたからだ。
防御陣を上回る攻撃力をたたきつける…飽和攻撃でしか戦果をあげることは
困難とされた』
『戦闘機のみを発艦させて、敵の攻撃隊を迎え撃つ作戦は今回はとらない。
日米艦隊の距離は四百キロを割り込んでおり、波状攻撃を受けた場合
受け身一辺倒に追い込まれる可能性があるからだ。刺し違える覚悟で
たたき合いを挑むべきであるとされたのだ』
『こちらが考えることはむこうも…である。戦闘機に追い回されながら敵艦隊に
はりついている偵察機からは戦爆連合の大編隊の発進が報告されてきた』
『攻撃隊が水平線の彼方に消えてから四十分後、特機艦前方の警戒駆逐艦および
哨戒機から敵大編隊の接近が伝えられた。それぞれ百二十〜百四十機の編隊が五個…
とてつもない打撃力が押し寄せてくる』
『このとき、すでに準備が整っていた第二次攻撃隊がただちに発艦を開始する…
時間的にはギリギリであるが、鍛え抜かれた整備兵の努力が報われそうである。
幸いにも南南東から吹く風とカタパルトによって、大きく陣形を変えることなく
発艦を終了したころには艦隊南方の空では一大空中戦が佳境に入っていた』
『特機艦の直衛機は二百機の烈風…搭乗員は超のつくA級揃いである。
敵の第一、二梯団はそれぞれ百機の烈風の襲撃にさらされたちまち潰乱した。
コルセアやグラマンをかいくぐって突入した烈風の二十ミリ機銃が
ヘルダイバーやアベンジャーに叩きつけられる』
『脇をすり抜け、進撃してきた第三梯団の前に、二機艦がさしむけた百機の烈風が
立ちふさがる。この時点で彼我七百機がいりみだれ大空狭しと飛び交う空中戦が
展開していた』
『だが、戦闘機による阻止はここまでである。特機艦上空に敵の第四、五梯団…
計二百五十機が迫る。二つの輪型陣の中央にいる五隻ずつの大型空母…
敵指揮官は勇躍して突撃を命じたことだろう』
『敵編隊を押し包むように爆炎が巻き起こった。特機艦の護衛艦艇には秋月型直衛艦が
十隻増強されている。K信管装備の対空砲弾の嵐の中で火を噴き、ばらばらになった
機体が海面めがけて落下していく』
『だが、敵も必死である…F6Fが突入してきて機銃座をつぶす…低空に舞い降りた
アベンジャーにそなえ、対空火器の分散を余儀なくされたすきをついてヘルダイバーが
急降下を開始する』
『戦闘開始十分後、ついに最初の命中弾がでる。被弾したのは百一航戦の旗艦…
<みなと>…であった。艦橋付近に数弾が命中したらしく、飛行甲板前寄りに大火災が
発生し速度も大幅に低下している』
『特機艦の司令長官、椿中将は指揮巡洋艦の仁淀に座乗していたので艦隊全体に
混乱が生じなかったのは幸いだったが…』
『その後たて続けに、<しぶや>と<すみだ>が被弾…両艦とも沈没の恐れはないものの、
甲板数カ所に大穴があき戦闘能力を失った』
『空母の被害がそれだけで済んだのは雷撃機がほとんど阻止できたことと、敵機の一部が
戦艦<いせ>に集中したこともある。最大目標が空母とされていても、やはり巨大な
大和級戦艦には惹き付けられたのだろう。<いせ>は第二波とあわせて六発の
五百キロ爆弾をうけ、航行には支障がないものの数カ所で火災が発生、対空火器の
半数以上を失った』
『第一波が引き上げてから三十分後に開始された第二波の空襲は激烈なものであった。
機数は若干少ない…計四百ほどだ…が、こちらの直衛機もまた数を減じている。
回避運動で混乱した艦隊陣形もまだ整備が終了していないのだ』
『ほとんど停止状態だった<みなと>は四本の魚雷をうけマリアナ沖に姿を消した。
<としま>と<かつしか>が被弾…<としま>は大傾斜を起こし停止した。
また、第一波で損傷をうけていた<しぶや>も重ねて被弾し、総員退去が
発令された』
『太平洋、インド洋をまたにかけて暴れ回った特機艦も一日…いや、数時間にして
その空母戦力を半減することになったのである。だが、その犠牲の上に第一機動艦隊、
第二機動艦隊の無傷の姿がある。そして、敵の空襲のさなかにも通信室は刻々と入ってくる、
わが攻撃隊からの報告を捉えていた』
『目標甲には一機艦からの三百機が、乙に対しては特機艦が発した三百六十機の
銀翼をもつ騎馬武者が殺到していたのである』
つづく