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第百三章『嵐をよぶ…』

冬の低気圧が去った晴天のヨーロッパ上空で久々に出撃した米第八航空軍のB17

百二十機は護衛のP47サンダーボルト戦闘機…航続距離の関係で途中までしか

ついてこれない…と別れた直後に『それ』の洗礼を受けることになった。


プロペラのない航空機…メッサーシュミット262…ドイツが世界で初めて実戦に送り出した

ジェット戦闘機である。


プロペラ機…レシプロ機では不可能な時速八百キロで飛び回り、四門の三十ミリ機関砲から

B17の防弾板をやすやすと打ち抜く火を吐き出す『それ』の数はのべで百機を越えていた。


目標の爆撃はおろか、英仏海峡を越えて基地に戻ってこれた機体が四十機に満たなかった。

損耗率七十パーセント…


米英軍が事態を認識するためにはさらなる犠牲が出る必要があった。


五日後…二百八十機…数で押そうというアメリカらしい発想で、稼働全機を動員した

出撃は倍加した『それ』に迎え撃たれ、前回同様七十パーセント…二百機のB17を

大陸の大地にばらまく結果に終わった。


とても許容できる損害ではない。対策が講じられるまでヨーロッパの空は再び

ルフト・バッフェ…大ドイツ空軍の手に握られることを認めるしかない。


ならば…とのり出した夜の空で、英空軍のランカスター重爆撃機は六百キロを超す高速と

三十ミリの火ぶすまを吐く『フクロウ』の群れに襲われた。


ハインケル社が送り出した本格的夜間戦闘機、He191…『ウーフー』である。

史実では戦争終結まで三百機足らずしか生産されなかったそれは、この世界では

すでに五百機がつくられ百五十機が配備されていた。


三百機のランカスターのうち六十機が撃墜され、戻った機体も最出撃に耐えられるものが

百機程度という結果は『このままでは戦略空軍が消滅する』という結論を出すのに

充分であった。


ドイツがこの時点で史実よりはるかに強力な防空体制を整えられた理由はおもに二つある。

ひとつには東部戦線が優位な状態で安定したため資材や人員に余裕が持てたこと…

いまひとつはゲーリング空軍相が43年春に急死したことである。


病死と発表されたが、真相はいまいちはっきりしていない。

第一次大戦のエースパイロットもメタボとモルヒネの常用でかなりグズグズの体に

なっていたらしいから急死しても不思議はないのだが…


あとをついだウーデット大将はスペイン内戦の空の英雄メルダース中佐や

ガーランド大佐等、若手や中堅の将校を起用して態勢を立て直そうとした。


パイロット達から要望が強かったにもかかわらず生産数が伸びなかった

フォッケウルフの増産に踏み切り、ナチスの覚えめでたいメッサーシュミット社には

ジェット戦闘機に全力を注ぐよう依頼して顔を立てた。


反ナチ的言動から冷遇されていたハインケル社にも夜間戦闘機に特化した開発と生産を

命じて、航空機生産の総力戦体制を確立したのだ。


ナチス幹部から文句がなかったわけではないが、アメリカの圧力が日々増大する中

表立って押さえつけることもできなかった。


42年に初飛行に成功しているMe262が史実では手遅れになったのは

戦闘爆撃機にしようとしたりした運用計画の混乱にあるとされているが、

東部戦線の大消耗によって国家の生産力が限界を超えていたことが最大の原因である。

未知の新型機より戦車の生産が最優先されたのだ。


メルダース達の献策により戦闘機一本にしぼられた生産は43年夏頃から軌道に乗った。

44年初頭、二百五十機が第一戦にあり、百五十機の予備機と百機分…二百基の予備エンジンを

揃えていた。


エンジンの耐久性が低いという初期ジェット機の欠点を承知の上で、それを補う体制を

きずいたのだ。


春頃には月産三百機が可能になるとされ、常時一千機を前線に配備すれば米英の戦略爆撃を

封殺できると期待されている。


パイロットも史実と比べれば余裕がある。一月四日と九日の空戦で計六機のB17を

撃墜したのはアフリカ戦線を生き延びた撃墜王『アフリカの星』ヨハン・マルセイユ少佐

…累計撃墜数三百二十機…であった。


他にも東部戦線などから腕利きのパイロットをかき集めて編成したジェット部隊が、

油断していた米軍相手に大戦果を上げたのは当然だったかもしれない。


米英もジェットの研究開発を怠っていたわけではなかった。だが、イギリスのミーティアや

アメリカのシューティングスターなどの機体設計は従来機の延長線にあり、後退翼を持つ

Me262の先進性と比較すると3〜5年は遅れていた。


苦悩する米軍が出した打開策は『物量』である。

圧倒的な数の護衛機をつけた攻撃隊を連続して繰り出し、数の力でもって

ドイツの航空基地をつぶそうというものであった。


幸いにも、それにうってつけの機体が登場した…P51ムスタングである。

米陸軍航空隊の次期主力戦闘機と期待されながら、エンジンとの相性が悪く

所期の性能を発揮できていなかったが、英国製マリーンエンジンを載せることで

飛躍的に性能が向上したのだ。


七百キロ近い高速と安定した操縦性、そしてなによりドイツ内部まで進攻できる

航続距離をもっている。


それでもジェットには及ばないだろうが、数さえ揃えれば…


しかし、シミュレーションの結果は…海峡を越えての作戦では損害が許容範囲を

オーバーし、効果も不十分と出た。


ヨーロッパ本土に進攻、航空基地を確保して戦略爆撃と戦術爆撃を同時に加える

必要があるということである。


制空権の確保がままならない状態でそれができるか? やるしかない!

手をこまねいていればドイツの防空体制は強固になるばかり…


かくして『オーバーロード作戦』…大陸反抗の上陸作戦のスケジュールが

動き始める。


いそがねば…だが、膨大な人員、物資の集積が必要となるため準備期間もかかる…

Dディ…作戦実施期日は44年六月、第一週とされた。


異議の声が上がる…『それでは遅過ぎる』

声の主はモロトフ…打ち合わせに来た東の国の外相であった。


つづく



仕事をさぼったため、結果的に執筆をさぼることになってるダメ作者に暖かい励ましや評価を有り難うございます。前回いった通り数行ずつでも書き進めたいと思います。あと、電車に乗ってるときやふとんの中で眠る前に頭の中であれこれ作戦を妄想しています…昔に戻ったみたいに。

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