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第百章『じみへん』

東京、早稲田…


「同盟…とまでいかなくても、独ソが講和しただけで戦局は大きく変わります。

おそらく百五十万近くのドイツ軍が西部戦線に向かうでしょう」


冷や奴をつまみに酒をあおりながらそう話す椿の前には、おなじくコップ酒を手にした

小沢治三郎海軍中将が座っている。斗酒をも辞さずといわれた酒好きで、手先に

震えが出るなどアル中気味でもあったが、ラバウル沖での負傷による長期入院で

だいぶよくなったとか。


その快気祝いもかねて、総連の海軍委員の豊田副武中将とともに招待したのだ。


「先の大戦と同じ状況になるということですな」


小沢の言葉に豊田が続ける…


「ヨーロッパの西…フランスに戦線が構築されてない現状でそうなると

第一次世界大戦より連合国にとってはより悪いかもしれませんね」


「我が国にとってもですよ豊田さん」


「ソ連の矛先が東を向くということですね」


「仮に独ソが講和したとして、どこで線引きするかわかりませんがソ連としてはかなりの

失地を覚悟しなくてはならないでしょう。その分を東で取り戻そうとする可能性があります…

不可侵条約は気休めにしかなりません」


「具体的には満州や…樺太ということですかな」


「いずれにせよ、すぐということはありません…日本が米国との戦いで弱ってからに

なるでしょうが、備えはしておくべきですね」


「…海軍の責務も大きいわけですね。戦い方を間違えるとソ連の侵略の呼び水になって

しまうかもしれない…」


「米海軍はかなり回復してきているようですが、やはり決戦をすることになりますか」


「ルーズベルトが大統領でいる限りそうなるでしょう。偉大な大統領としては

日本海軍の撃滅はどうしても必要だと思い込んでいますから」


「…椿さん、この小沢も帝国海軍に奉職する身です。必勝の信念は持ち合わせていますが、

米海軍ととことんやり合った場合…戦争の行方は別として、海軍はすりつぶされると

考えています。その先…今後二十年、三十年の海軍はどうあるのか御使いとしての

ご意見を聞かせて頂けますか」


豊田中将も同感とばかりうなずく…どうやら明治の海軍に与えた示唆のようなものが

欲しいらしい。椿としても、史実で連合艦隊司令長官を務めるこの二人をよんだのには

そういう意図もあったから、向こうから望まれて話がしやすくなった。


「まず、進攻型の大海軍は米国以外は持てなくなるでしょうね。日本が持つとしても

大型空母が三隻で精一杯でしょう…といっても米国でも十隻ぐらいですから」


「単純な軍縮というのとは違うようですが」


「はい、要するに兵器の単価がバカ高くなるのです。空母の排水量は八万トン級に

なりますし、載せる航空機も一機が駆逐艦並みの価格になるでしょう。空母一隻を調達、

維持するには現在の空母四、五隻…一機艦の半分以上の予算が必要ですね」


「八万トン……なるほど、いまでもアップアップの予算で次世代の戦力を揃えようとしたら、

三隻でもきついですなあ」


「もちろん国力、経済力が大きくなれば話は変わりますが、そのためにはまず民力の

増強が不可欠です。一時的にでも軍事予算を削減しないと先に進めないのですよ」


「先ほど椿さんは、進攻型海軍とおっしゃいましたが、防御型ならそれなりの規模を

持てるということなんですか?」


「その通りです。明治の昔に日本が近代的海軍を持ってから、基本的な戦略は防御でした。

ただ、明治海軍が国土防衛を主眼としたのと違い、現在あるいは近未来における海軍は

通商路の確保が最大の目的になります。日本は海洋国家であり、通商によって国力を

向上させていくしかないのですから」


「輸送船を守るための巡洋艦や駆逐艦を増強してきた方針に間違いはなかったと

いうことですね」


「はい、戦艦や空母は二十世紀前半という時代においては大きな存在意義を持ちましたが、

今後は…空母はともかく戦艦は舞台を降りることになるでしょう」


「戦艦は時代遅れ…ですか」


「この大戦では、主役が戦艦から航空機を運用する空母に変わってきてるのはおわかりだと

思います。さらにいえば次代の主役は…しばらくは空母でしょうが、もう一人の主役が

登場してきます」


「………?」


「潜水艦です」


「…いや、しかし潜水艦は対潜戦術や航空機の発達により苦戦するようになっているのでは…

我が国のみならず、ドイツや米国でも同様かと…」


「現在の技術レベルではそうです。しかし…例えば五百メートルの深度を十五ノットで

走行できる性能を持ち、敵艦を追尾する魚雷を装備したとしたらどうです?」


「…私らが生まれた頃、空母機動艦隊は夢物語でしかなかった…それを考えると、椿さんが

話した潜水艦が次の時代に登場しても不思議ではないですな」


「何となく見えてきました。次世代海軍は…空母のことはおくとしても…超高性能の潜水艦と

それを防ぐ艦艇を揃えなくてはならない…ということですね」


「それがわかっていただければ、いまの時点でこれ以上言うことはありません。

お二人は将来、海軍の中枢に立たれる可能性が大です。そのときはいまの話を思い出して

頂ければ幸いです」


「心しておきます」


地味な助言である。史実の二十世紀後半の海軍史から『核』に関することを除いた

講義に過ぎない。その通りになる可能性は高いだろうけど、話してて面白くはなかった。

五十万トンの戦艦…「紀伊』でも『越後』でもいいから『鋼鉄のリヴァイアサン』を造れと

言ったほうが楽しくはある…三十万トンの戦艦空母『日本武尊』でもいいが…


どー考えても、そんな吃水の深い船、どこの港に接岸するんじゃい…だし、瀬戸内海でも

全速で走ろうものなら、片っ端から漁船を転覆させそうだし…やっぱり使えないよな〜


まあいい、いまの時点じゃ不確定要素が多過ぎて、椿でも先はよめない…

とりあえず飲むことにしよう。


…その後は、お互いの副官達を交えどんちゃん騒ぎとなり、いつふとんに運ばれたか

記憶がない椿であった。


つづく



こういう形式で発表する作品の長さに適量ってあるのでしょうか? 

なにせ二作目ですからその辺がつかめません。章が三桁になってしまいましたが、まだ書きたいことも残っていますので、いましばらくお付き合い下さい。

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