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第九十九章『最悪の事態!?』

『黒竜江省北方のソ満国境戦付近でソ連軍に動きあり』


1943年九月一日…飛び込んできた緊急電によって総連会議室は

緊張に包まれることになった。


いわずもがな、黒竜江省は満州随一の産油地帯である。油質は重く、現在の技術では

精製に手間がかかる上に、航空機用燃料…ガソリンとしては使えない。


だが、それ以外の用途には充分だし、発見後二年が経過して生産量も増えてきた。

満州で消費する分だけでなく、一部は国民党政府への援助やソ連との取引にも

回せるようになった。ソ連からは紙幣をもらっても紙くずにしかならないので、

木材などとのバーター取り引きである。


まだまだ日本に輸出はできないが、現時点でガソリン以外は満州に送る必要がない分

日本の負担は減っているわけで、それだけでも貢献してるといえる。


その地域の近辺でソ連軍に動きが…?


「規模は? 事前の情報はなかったのか?」


「ここのところの情勢から、少し監視態勢が甘くなっていたかもしれません。

ともかく大至急情報を集めます」


集めるまでもなく、ソ満国境のソ連側通商代表からの声明が入ってきた。


『ソ連軍に偽装した武装強盗団が出没し、国境警備の部隊が捜索のため活動している。

もしも中国領内…ソ連側は満州という呼称は使わない…に強盗団が侵入した場合は

捕獲した後、引き渡して欲しい』


日ソ両国間に犯罪人引き渡し協定は…いまのところない。


「この言い分を信用していいものでしょうかね」


「検証できるまでは警戒のレベルは上げておくべきだろう。仮に本当だとしても、

その『武装強盗団』の装備や数によっては国境警備隊の増強が必要になるかもしれん」


いくつかの命令や確認の指示が出され、入れ違うように情報が入ってくる…その中に…


「樺太からです…間宮海峡で警備艇が、わが領海に入った漁船と思われる小船を臨検したが、

民間人と自称するロシア人男女多数が乗り込んでおり、我が国への亡命を望んでいる模様…

ほかにも数隻が海岸に向け航行中、警戒を要する」


「武装海賊団…というわけではなさそうだが」


聞きながら、椿はかつてもとの世界であった、似たようなことを思い出していた。


『ボート・ピープルかよ』


政治的、経済的な理由から小舟に乗って国を脱出する難民は世界各地に見られるが、

日本ではベトナム戦争後のインドシナ難民をさすことが多い。

貧困や社会主義体制に対する恐怖などから数十万の難民が発生したという。


昭和末期から平成の初期にかけて、日本にもかなりの数が来着し、その受け入れをめぐって

議論がかわされた。難民の多くが北米大陸への移住を希望したことや、よそ者を

受け入れたがらない日本の風土からあまり残らなかったようだが…


「事実関係の把握に務めるとして…このことでソ連との関係がこじれなければ

よいのですが」


「椿閣下…樺太にはなんと言いましょうか」


「…とりあえず保護しましょう。公式には密入国容疑で拘束ということで…

それならソ連に対しても時間が稼げるでしょう。樺太にはソ連の漁船も寄港

することがあってロシア語を話せるものも多いと聞きます。百人単位まででしたら

対処が可能だと思います」


「…それ以上になる可能性もあるということですか?」


「共産主義ロシアが弱体化することは日本にとり喜ばしいことではありますが…

もし、崩壊するようなことになれば周囲は大きな影響を…大方は『迷惑』ですが

受けることは避けられません。負担は覚悟するとして、少しでもプラスの方向に生かす

方策を考えねばなりません…」


「ことは二国間の問題にとどまらない…ということですね」


「そう、地球の陸地の六分の一を占める地域で起こることです。世界に波紋を

広げずにはおられないでしょう」


スイスの吉田茂はダレスというアメリカ人と接触を持った。


「…樺太および北海道、千島に漂着したロシア人はこの一週間で七百人を越えました。

大部分は老人と女性、子供で、ほぼ全員が栄養不良の状態です」


吉田の言葉に、史実では戦後CIAの長官を務めたアレン・ダレスが応える。


「ナチスドイツの侵略による惨禍の影響が極東にまで及んでいるということですか…

ロシア人民の窮状には同情しますが、それと合衆国…というより今日の会談になにか

関係があるのですかな」


「ロシア人達は亡命を求めています。それも極東の小国である日本ではなく、自由と

希望の天地…アメリカ合衆国にです」


「………」


「合衆国はソ連の同盟国です。彼の国の内情は私どもより詳しいのではありませんか?

いま以上の援助がないと国家が崩壊しかねないのでは…」


「我が国とロシア…ソ連との件で貴国にとやかく言われる筋はないと思いますよ…

それに名だたる反共産国家である日本にとっては願ってもない事態でしょう」


「ロシアの政治体制が我が国と相容れないのは事実ですが、人道的見地からは

その国民に対しては、また別の対処が必要と考えます」


「…繰り返しますが、合衆国に何を言いたいのですか」


「ロシア難民の希望通り亡命を受け入れる用意があるか…ということ。

また、北太平洋経由で行われている対ソ援助について我が国と協議する考えはないか…と

いうことです」


「貴国との協議?』


「たとえば、食料や医薬品の人道的援助に限り、合衆国の輸送船の日本近海の

通行を認める…とかですな」


「部分的停戦…ということですか』


「私の個人的見解ですが、できるなら全面的停戦にしたいものです」


「合衆国の立場ははっきりしています。全面的停戦は貴国の降伏という形でしか

実現しません。部分的…ということでしたら、これまでも開戦時の外交官の交換船など

例がないわけでもありませんから、貴国の意向を本国に連絡することは約束しましょう」


「我が国が考えている最悪の事態を避けるためにも、よろしくたのみます」


「ほう、その最悪な事態とは?」


「…独ソ同盟』


つづく












記念すべき『キリ番』第100部分ですが、大海戦とかの派手な場面にできませんでした。それにしてもこんなに長くなるとは思っても見ませんでした…この先どうなっていくのでしょうね〜(無責任)

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