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うんめいの、  作者: 遊楽
序章 運命
2/7

零ノ弐


似非和風です。時代背景等考えておりませんので悪しからず。


誤字脱字ありましたら、ご一報お願いします。


※人身売買の表現あり。暴力表現はありませんが、苦手な方はご注意ください。




 「旦那、何をお探しで?」



 甘ったるい独特のにおいのする店先で立ち止まった男に、その店の男はへらへらとすり寄った。


 時刻は深夜、場所は繁華街を幾分か外れたさびれた通り。なぜこんな時間、こんな場所に店を構えているのかと言われれば、扱う商品が表では出回らないモノ、つまり人間であったりクスリであったりするからだ。


 店先で立ち止まった男は、布で覆っているために顔こそ見えないが、着ているものは上質であったし、足まで覆うやけに長い真黒な羽織から覗く白い手は滑らかなもので、自らの手を汚すことのない身分のある者であることが窺えた。 


 昨年倒れた帝に代わり国政を執った帝弟とやらのおかげでこういった類の商売に規制がかかった。禁じられれば禁じられるほど燃えるのが人の性とはいえ、国のお偉い方を客層とするこの店では先の規制は大打撃だった。ほとぼりが覚めるまでとばかりに減った客足に、どうにかできないものかと困り果てていたが、見る限りでこれはなかなかの上客である。こりゃ、いい金蔓だとすり寄る男に、全身黒づくめの男は「ああ」と低い声を返した。



 「ここは、何でもそろうのか」


 「そりゃあもう。なにせ、高貴な方々御用達の店ですからね。女から危ないクスリまでなんでも揃いますよ」


 「なるほど」



 何がおかしかったのか、男はくつりと喉の奥で笑うと店の中へと足を踏み入れる。翻った羽織の裾から覗いた足だけが真白く闇に浮かび上がった。



 「では、女を」


 「女ですかい? 旦那は運がいい。今日は入ったばかりの女がたんといますぜ。ささ、奥へ」



 女をご所望とあらば、クスリよりよほど高い値で売りつけられる。せいぜいふっかけてやろうと算段しながら、男を奥の部屋へと通した。



 「どんな女をご所望で? 肌の白いのから黒いのまでいろんなのがいますよ。従順なのがお好みですかね。今日は調教済みのもいますからね、本当に旦那は運がいい」



 なにせ今日は女を入荷したばかりだ。先の戦争で孤児となったり、貧しさ故に口減らしに売られてきた娘たちだった。数人は死にかけだが、まだ生きのいいのは何人もいる。珍しい他国の娘もいたはずだ。



 「それとも気丈なのがお好みですかい。まだ調教されてないのもおりますよ。最初は反抗するでしょうが、なにしっかりしつければ旦那好みの女になります」



 さあ、と奥の部屋へと迎え入れた男をちらりと見てから、黒づくめの男は部屋の中をぐるりと見渡した。


 店先よりさらに甘いにおいの立ち込める室内にはさまざまな女、まだ少女とも呼べるような年頃の娘たちが詰め込まれていた。店の男の言うように国籍もさまざま、誘うような視線を向けてくる者もいれば怯えたように視線を伏せる者もいた。大事な商品であるから一応気を使っているのだろう、あまり綺麗とは言い難い店内のわりに女たちは小奇麗な恰好をしている。


 一様にこちらを注目する視線の中に一つ、異を見つけ男は一歩近づく。


 ほとんど死にかけているような娘だった。ひゅうひゅうと喉に穴が開いたような息をし、こちらを見る力もないのか閉じられた瞼はピクリともしない。その様子から売り物にならないと判断されたのか、他の女たちのように身を清められもせず檻の中に放り込まれていた。薄汚れてはいるが元は白かっただろう肌には所々に火傷のあと。手足には少女の細さに似合わぬ頑丈な枷がつけられている。どのような経緯で商品になったにせよ、今までろくな扱いをされてこなかったことは明白だった。



 「あー旦那、そいつはおすすめしやせんぜ。今日仕入れてきたばかりのやつですがね、ここに来る前からその調子で声をかけても反応しやしねぇ。そのうち死にますぜ、そりゃあ」



 一番価値のない商品に目を付けた上客に店の男は渋い顔をする。


 ひゅっひゅっとさらに怪しげな息遣いになった少女に商品としての価値などない。たまに死にかけた少女を好む変態、もとい上客もいるし、何より珍しい色の髪と瞳をしていたから仕入れたがこれほど弱った少女相手では楽しめるものも楽しめないだろう。なにせぶったたいただけで死にそうなありさまだ。こんな娘ではどれだけふっかけたとしてもたかがしれている。



「かまわん」



 しかし、男は檻の中に横たわる死にかけの娘に手を伸ばした。もう反応することもできないのか、それとも声も耳に届かないのか、少女はおかしな呼吸を繰り返すだけでこれといった反応は見せない。



 「あ、困りますよ旦那。勝手に手を出されちゃあ、」



 慌てて止めに入ろうとした店の男に、黒づくめの男はじゃらんと金貨の入った袋を投げつけた。



 「それで足りるだろう」



 拾い上げ、それが予想以上の大金であることを確認した男はにやりと口角を釣り上げた。



 「毎度ありー」





 死にかけの少女と王の邂逅は満月の夜。地を照らす光のないその日、たしかに物語は動き始めた。





正反対な彼女との始まりは、やはり正反対に。





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