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それは満月の日に  作者: 櫟 千一
望月との出会い
2/18

二度目の出会い

全速力で山へ向かった。

車に何度も轢かれそうになった。クラクションも何度も鳴らされた。

いつもの僕は謝るが今日は謝らない。

ひたすら僕は自転車のペダルを漕ぎつづける。


八月三日に、望月と会った場所に到着。

自転車を立てずにそのままひっくり返す。ガシャンと音がする。カラカラカラと後輪が回っている。

川のそばに彼女、望月美月はいた。

「来てくれたんだ」

彼女は川に映る満月を見ながらそう言う。僕は息を切らしながら答える。

「当たり前だろ。また会うって約束したじゃないか」

「そうだね・・・そうだったね・・・」

水面に反射する月はとても綺麗で、それでいて眩しかった。


「弓張」

「どうした?」

「何で今日、私がいるって分かったの?」

「前の満月の日あっただろ。あの次の日もその次もお前来なかったからさ。でも」

一瞬間を空ける。

「また満月の日に会えると思ってさ」

「・・・」

「望月?」

「何でもない。それより、この前言えなかったこと言うね」

涙目で彼女はそう言う。月の光に照らされてより一層可愛く見えた。

涙を堪えながら笑う彼女を見て胸の鼓動が早くなった。

「こんなこと言っても信じてもらえるか分からないけど私ね。満月の日しか外に出ないの」

「え」

「他の日は、ずっと家にいるの」

「ちょ、ちょっと待って。何?どういうこと?」

「社会の問題を担うニートってこと」

「いやそう言うことじゃなくて・・・そう言うのもあるけど・・・き、君さ・・・今、年いくつ?」

「・・・女の子に年齢聞くのは良くないことだよ?」

「じゃあ僕も言う。僕は十六歳。今年で十七歳。君は?」

「一緒だよ。私は十七歳だけど」

「じゃ、じゃあ何でニートなんかに・・・?学校は?」

急に冷めた声色で彼女は言った。

「学校は行きたくない。と言うか行く必要はない」

「・・・何で?」

彼女は下を向いて何か言いかけたが言葉を飲み込んだ。

もしかしていじめにでも遭っていたのだろうか。



聞こうか迷ったが言いたくないこともあると思って僕は聞かなかった。

僕は彼女の横に座って空に輝く満月を見上げる。とても眩しくて綺麗だった。

下を向いて川に反射する満月を見ながら彼女は口を開く。

「ねえ。高校どこ行ってるの?」

「うーん。あんまり言いたくないけど月校げっこうだよ」

「え」

「ん?」

「あ、ううん。何でもない」

「・・・もしかして望月も月校?」

彼女は顔を真っ赤にしていた。


月校とは名前は良いが県内でも下から数えた方が早い高校である。

昔までは進学校で、県内でもこの学校に入ればそれなりに良い大学へ行けると評判だった。

しかし、ある年に生徒の自主性を高めるために校則を緩めると一気に堕落して現在の高校になってしまったわけだ。


「まあ、気にすることはないよ。僕もいるんだから」

「あの高校に・・・本当に入りたかった?」

「んー・・・正直言うと本当は行きたい高校あったけど先生に無理って言われたからね。でもあの学校も悪くないよ。確かに変なやつも多いけど僕は好きだな」

「本当?」

「うん。友達も悪いやつばかりじゃないからさ」

「そ、そうなんだ・・・」

彼女は両方の人差し指をツンツンしながら目を泳がせている。

「きょ、今日はもう帰るね。じゃあ、また」

「待って!」

僕は望月を呼び止めた。

「また、また会おうな!次の満月の日も絶対に来るから!!」

彼女はこっちを向いて軽く手を振った。



その後、家に戻って僕は絶望した。

「宿題・・・残ってる・・・」

時計を見ると日を跨ごうとしていた。

僕は全てを諦め、シャワーを浴びて眠りについた。



つづく

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