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それは満月の日に  作者: 櫟 千一
望月との出会い
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出会い

はっきりと覚えている。その夜はとても綺麗な月だった。

とてもとても綺麗な円を描いた満月だった。

月を見に来ていた僕は、あの子と出会った。その出会いが僕の運命を変えてしまったのだ。


八月三日。ネットで満月の情報を聞いた僕はすぐに月を見る準備をした。

準備が整うと、月の見えやすい山へと足を運んだ。

時計は二〇時を指していた。

誰もいない暗い山道。僕は河原の近くの土手に寝転んで月を見ることにした。


しばらく月を見ていると誰かがこっちへと歩いてきた。

「こんばんは。あなたも月を見に?」

説明の途中で話を挟んできた・・・

「はい。今日は月に二度見れる満月の日らしいので」

「その現象、何て言うか呼ぶか知ってる?」

「ネットではブルームーンと呼ばれてましたね」

「ご名答。今日は最初の満月だからファーストムーンね」

「そ、そうなんですか」

急にやってきて急に月の知識を披露してきた・・・何だこの女・・・


「私は望月もちづき 美月みづき。あなたと同じくブルームーンを見に来たの。あなたの名は?」

「僕は弓張ゆみはり ゆう。」

「変わった名前ね」

「よく言われるよ」

彼女とたくさん話した。時間の流れも忘れてひたすら話した。

初めて会ったはずなのに昔から会っていたような、そんな錯覚までした。

月を見に来たはずなのに彼女との会話に夢中になっていた。


時計は午前一時を指していた。

「あ、もうこんな時間か。望月は帰らなくて大丈夫なの?」

彼女は一瞬躊躇った。しかしすぐに

「・・・そうね。そろそろ帰らないと両親が心配するわね」

と言う。

「ねえ弓張」

「何」

「私たち、また会えるよね?」

「当たり前だよ。急にどうしたの?」

「ううん。気にしないで。じゃあ、また」

「待って。もう遅いから送って行くよ」

「いいよ。私の家この近くだし」

「近くでも送って行くよ」

「この際だからはっきり言っておくわ。お願いだから来ないで。」

さっきまであんなに楽しそうにしゃべっていた望月 美月じゃない。

まるで別の場所へ行くかのような言い方だ。

「あのさ。初めて会った僕で良ければ何かあったのか相談してよ。少しは楽になるかもしれないよ」

彼女は何かを言いかけて口を閉じた。

「大丈夫。ごめんね心配かけちゃって。本当に何でもないから」


そして彼女は笑顔で「またね」と言って歩いて行った。

僕は迷った。

ここで彼女を呼び止めて嫌われる覚悟で事情を聴くか何もしないでこのまま終わるか。

意を決して僕は土手を駆け上がって叫んだ。

「望月!!」

前にはもう誰もいなかった。後ろにもいなかった。

諦めたくなかったが、僕はどうしようもなかったので帰ることにした。


八月四日も念のため同じ場所で寝転んだ。

想像通り、彼女は来なかった。

次の日もその次の日も河原へと向かったが彼女が表れる気配はなく月日が流れた。



夏休みもいよいよ終盤に差し掛かり僕は宿題に追われていた。

宿題に集中しすぎて望月のことは忘れかけるほど一生懸命になっていた。

そして来たる八月三一日。宿題もあと少しで終わりそうなので息抜きにネットをすることにした。

ツブヤキーで流れてきた情報。それを見て僕はハッとした。

宿題も置いて僕は自転車に跨り、望月と会ったあの河原へと向かった。


つづく

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