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わたしの友達はお姫様

作者: 夏目くろ
掲載日:2013/01/06

私の学校にはこれでもかというほど顔が可愛く、そして性格の悪い女の子がいる。


名前は宝井ひめちゃん。


そんな彼女は前まで生徒会や風紀委員、そこらにいる不良など学校の綺麗所の目を一心に集めていたのだが、今や彼女の性格の悪さが露見され一人ぼっちになってしまったのである。男好き、とレッテルを貼られてしまったためか彼女に近づく男子もおらず、彼女をあれほど熱愛していた学校の綺麗所の方々も今では信じられないくらいにひめちゃんに厳しい。そして男受けはするものの女受けは決してしなかった彼女には女友達が一人もいなかった。ひめちゃん、自業自得である。


そんな今なお肩身狭く学校で過ごすひめちゃんの傍らで私はぼんやりと見ているだけだった。


学校の綺麗所の男の子たちがひめちゃんに熱愛していた時も、ひめちゃんの性格の悪さが何かをきっかけに露見した時も、今まで学校で本物のお姫様ごとく振る舞っていた彼女がしゅるしゅると萎んでいくのも、何となく見ていた。


この先彼女と関わることはないのだろう。ひめちゃんと私、それぞれが違う学校生活を送るであろう。そう思っていた矢先のことだった。


「あの、宝井さん大丈夫?」

「…………もう平気。それとハンカチ駄目にしてごめんなさい」

「い、いいの。気にしないで」


お昼休み、トイレの帰りに廊下を歩いていた時、中庭のベンチで誰かがうずくまっているのを見つけたのだ。一人でじっとうずくまるその女子生徒に、もしかして保健室へ歩いて行けないほど体調が悪いのかと思い、近寄った。


「あの、大丈夫?」

「…………………え?」


その女子生徒は、なんと、あの学校を混乱に導いた悪女と名高い、宝井ひめちゃんだったのである。うずくまっていたせいか分からなかったが、まさか平成の西太后と言われる彼女だと思いもしなかった。


そして何故か泣いていたのだ。あんなプライド高そうなお顔だったのに今では情けなく眉を下げて迷子の子供のような顔をして涙を流していたのだ。


「え、ええええ、本当にどうしたの宝井さん」


あの高慢ちきで男大好き、らしい宝井ひめちゃんが泣いている。あの宝井ひめちゃんが、だ。


その事実に混乱した私はいつの間にか彼女の両肩を掴み話しかけていた。よくよく考えればとても無神経だっただろう。


「だ、大丈夫宝井さん?何かあった?もう私には何が何だか分かんないよ」


動揺しながら訳が分からなくなりつつもとりあえず彼女に聞く。何か嫌なことでもあったのか。お昼ご飯が不味かったのか。嫌いな授業が待ち受けているのか。高校生にもなってそんなことで泣くか、と今では言いたい。しかしそれほどまでに私はテンパっており、そのプライドの高い彼女が泣いているという事実に驚いたのだ。


しかしそんな私を見て彼女は一瞬呆けた後、顔をくしゃりと歪まして子供みたいに泣き出した。


「ああああ、ごめんなさい!私本当に無神経で友達からも空気読めとか言われてて馬鹿で……!」


後に聞いた話だが何故この時私の顔を見て泣いたのか、ひめちゃんは詳しく教えてくれなかった。ただ、「あんな立ち位置だった自分に何の関わりもないくせに心配するなんてどうかしてるわ!」と顔を真っ赤にさせて照れたように言うものだから何となく可愛かった。


それから午後の授業をさぼって泣きわめく彼女をなだめていると落ち着いたのかゆっくりと鼻をすすりだした。あぁ、渡したハンカチはもう彼女の涙でびしょびしょである。仕方がない。


「………私、全然宝井さんと関わりないけど何か聞くよ」

「今気付いたけど私のこと知ってるのね」

「そりゃあ、あんなことがあったらねぇ……」

「………あなたはっきり言うのね」


そうして宝井ひめちゃんは涙を拭きおえ鼻の頭を真っ赤にしながらぼそぼそとつぶやいた。


「別に、特に何もなかったわ。あんなことしたのに誰も私を懲らしめようとしない」

「それはだって皆理解してるからだよ。今さら宝井さんをどうにかしても何ともならないって」


ここの学校の人はきっともう分かっているのだ。彼女があんなことを仕出かしたとしても、それは彼女のせいだけではないことを。


宝井ひめちゃんという女の子にうつつを抜かして実務をさぼった生徒会も、極端にひいきしていた風紀委員も、不良のことはよく知らないが何だかんだで自分たちにも非があったことを理解しているのだろう。元々彼らは賢い人たちなのである。


それにその他の生徒たちも、ただ学校の平穏を望むだけでその後の彼女を追いつめて苛めぬこうだなんて考えていないのだ。


皆、何だかんだで解っている。


だから何で彼女が泣いているのか、私には分からなかった。


「でも、私、その、謝ってもないのに終わったことにされてて。あ、謝っても許されようとか思ってないけど、えと……。すごく都合の良いこと言ってるのは分かるんだけど、頭で理解してることと感情がついていかないっていうか」


しどろもども、そしてまた泣きそうな声で彼女はぽつりぽつりとつぶやく。正直私には彼女の気持ちが分からない。立場というか、彼女と私とではあまりにも状況が違うのだ。だからといってはアレだけど、とりあえず私の持つ全ての脳細胞を活動させて、今彼女が求めているだろう返答を導きだした。


そんなふうに謝らなくても良いんだよ。全て終わったことじゃない。


しかし、だ。そんなのちょっと納得いかない。それに当事者からしてみればあんなことしといて簡単に謝るな、とひどく矛盾したことを思うんじゃないだろうか。


そうやって延々と悩んでいく内に不意にあることが思いついた。


「もしかして宝井さん、淋しいの?」

「は、」


本当に、何となく思っただけの言葉を言ってみた。だってそうだろう。今まであんなに人がいたのにいきなり一人になってしまったのだ。自業自得とはいえ寂しいんじゃないか。


けれど彼女はそんな私に対して顔を真っ赤に染めて勢いよく言い放った。


「な、な、な、何よ!そんなこと言ってないでしょ!?」

「あぁ、ごめん!無神経だった!」

「べ、別に謝んないでよ!も、もう良い!平気だから私行くわ!」

「え、えええ、もう平気?」

「へ、平気だってば!え、と、その、ありがとね!」


そう半ば叫ぶようにして彼女は颯爽と私の前から消えてしまった。彼女、耳まで赤くしていたな。それほどまでに怒らしてしまったのだろうか。やっぱり宝井ひめちゃんは気難しい人なのかもしれない。


そこではっと気がつく。私のハンカチ、結局彼女が手にしたままで返してもらってない。結構お気に入りで値段も高かった品物だからちょっと残念だった。


けれどそれは翌日、下駄箱を開いた瞬間くつがえることとなる。


「あ」


私の下駄箱の中に小さな紙袋が入っていた。そしてその中には私が貸した、綺麗に洗濯されアイロンをかけられただろうハンカチと一枚の紙切れがあった。


“小沼きよこさんへ、昨日はありがとう。それと言う必要はないと思うけど私にもう関わらないで”


女の子らしい、ちょっと丸い字が並んであった。小沼きよこ、私の名前を知っていたのか。


しかし関わらないで、と言われてしまったのが少しショックだった。やっぱり気難しい子なのか。それとも昨日の私が無神経すぎたのか。何はともあれ朝から心臓にきたことは確かだ。


教室へ向かおうと廊下を歩き出す。この時間帯は一斉に皆が登校してくるため人が多い。どこからともなく宿題とか昨日みた番組とかの話が飛び交う。あ、私宿題やってくる忘れた……。そうして二度目のショックを受けているとふと前方に目がいった。


後ろ姿だが昨日の今日でもう判別できる。あれは宝井ひめちゃんだ。黒くて綺麗なツインテールをなびかせて背筋をピンと伸ばしながら堂々と歩いている。あぁ、後ろ姿まで可愛く見えるとは女としては羨ましい。いいな、可愛くて。


そんな風に羨望と嫉妬の眼差しで彼女を見ていたわけだが、何故かこの時私は先ほどの手紙を思い出してしまった。


“もう関わらないで”


何だそれ。もっと言い方というものがあるだろう。それにお礼なら正直直接言ってほしかったりする。それなのにあんな素っ気ない感じで。


「宝井さん!」


気がつけば私は彼女に声をかけていた。今思えば私は非常に馬鹿で、アホである。こんな人の多い時間帯に彼女を呼び止めるだなんて考えなしもいいところだ。そのせいか周りの視線がほんのわずかに私たちに向けられた。


彼女がびっくりした顔で振り返り私を見つめた。それには私もびっくりした。もっとしかめっ面な顔をしていると思っていたからだ。けれど彼女はしばらく私の顔を見た後、フイと猫みたいにそっぽむいたのである。


それには私もカチンときた。今、私だと気付いてわざと無視しただろう。そんなに私のことが嫌なのか。


とりあえずそんな彼女を気にせず追いつこうと小走りする。そして朝から彼女に言いたかったことをそのままぶつけた。


「ハンカチ、綺麗にしてくれてありがとね!」


彼女の体がぴたりと固まる。そして目を丸くさせて私を見た。


直接お礼を言ってくれなかったこととか、冷たい手紙のことだとか、言いたいことは他にもある。しかし何よりきちんとハンカチを綺麗にしてくれたことは感謝しなくてはならないだろう。


綺麗に端までアイロンがけされていて彼女の女の子らしさが垣間見えた。


「……私と関わると何か言われるわよ」


その言葉を聞いて今度は私がポカンとする。そこではっとようやく気がついた。


関わらないで、とはそういった意味なのだろうか。私の都合の良い勘違いかもしれない。けれどもし私が思うそのままの意味なら、とても嬉しい。


人の親切を嬉しく思うのは何ら自然なことではないか。


「あはは」

「な、何で笑うのよ!私は真剣に言ってるのよ!」

「なんかね、嬉しくて笑っちゃった」

「は、はぁ!?」


彼女、宝井ひめちゃんは本当に性格が悪い。もう性根腐ってるんじゃないかともたまに思う。


けれどこれがきっかけで私とひめちゃんがお友達になるなんて思いもしなかった。生徒会が、風紀委員が、不良が、私とひめちゃんが一緒にいるのを見てびっくりしていたのを今でも覚えている。他の友達から心配されたりもしたが、私が彼女の隣でへらへら笑っているのを見て最近は呆れたように苦笑していた。


それでもやっぱりひめちゃんと合わないことがあって喧嘩したりもする。多分向こうも私のこと、頑固で無鉄砲で融通がきかないとか思っているだろう。でもひめちゃんだって充分わがままだし、アホなのだ。私からしたら彼女はただのひめちゃんなのだ。


「おはよう、ひめちゃん。今日はポニーテールなんだね。かわいい」

「私が可愛いとか知ってる」

「あはは」

「な、何よ!笑わないでよ!」


バカな子ほど可愛いのである。

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― 新着の感想 ―
[良い点] きよこちゃんも、ひめちゃんも可愛くてほんわかしたこと! ギスギスした泥沼展開も好きだけれども、やっぱり最後は幸せだと嬉しいので、大好きなお話しでした! [一言] ひめちゃん視点も見てみたい…
[良い点] 元逆ハー女子と普通娘の会話が微笑ましい。 逆ハー女子と闘うより胃にやさしいお話
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