びしょびしょの服は気持ち悪い
再びレイ視点です。
「レイ……っ!!」
「……かあさん」
サングラスが良く似合っていたおじさんの息子発言に激しく動揺していた俺に、母さんが突っ込んできた。……いや、語弊ではない。あの重そうな立派な扉をバーン!と開いて飛び込んできた母さんが、その勢いのまま俺のところにやってきたんだ。……あれ、大丈夫だよな?ミシッ……っていったけど……。っていうか母さん……!俺、一応中身はできてるつもりだけど、外見はまだ4歳児だから!体は出来上がってないから……!!いくら見た目華奢でも、母さん大人だから受け止められないって……っ!!こう言っちゃなんだけど、母さん見た目以上にたくましくなってるはずなんだから!……あぁほら、あのお兄さん目見開いちゃってんじゃん!たぶんすっごい扉心配してるよ!!!
「レイ、レイ……っ!!ごめんねっ……本当に、ごめんね……!!」
母さんは突っ込んできた勢いのまま、俺を抱きしめた。く、苦しい……!今度は俺の方がミシッ……ていうよ、きっと!!ちょっ、本当にマジでギブ、ギブ……っ!!!
「レイ……っ、レイ……っ!!」
「ナタリア……レイ……」
限界を伝えるために、母さんの背中……はさすがに届かないから、たぶん腰のあたりをタップする。そうしたら、なぜかもっと抱きしめられた。何故!?そして何故名前を呼びながらそれに参戦してくる、父さん(仮)!!!…………(仮)は一応念のためだ…………あれ、何のためだ?
親子(仮)の、俺にとっては苦しいだけの熱い抱擁タイムを終わらせたのは、あのお兄さんだった。……もう少し早く止めていてくれよ!そんなに扉が心配だったのか!?
とにかく、それからこの状況を、冷静になった母さん達が説明してくれた。それによると……。
「……ごかい?」
五回、五階、五戒、碁会、……誤解。うん、最後のやつだな。
「ごめんなさい、レイ……。私があなたのお父さんのことを誤解してしまって、お屋敷を出て行ってしまったの……」
「…………」
要するに、父さん(仮)……あぁもう普通に父さんでいいか!父さんが、違う女性に「――――好きなんだ」って言ったのを聞いてしまった母さんが、前後を聞いていなくてそれが自分に対するものだと知らずに、その女性が好きなんだって誤解して出て行っちゃったってことらしい。……俺、最近気づいたんだけど、母さんって結構猪突猛進なんだよなぁ……。誤解とはいえ、すぐ出ていくとか……しかも行方をくらませて、実家とも縁を切っちゃうとか……。あれか、母さんは思い込んだら違う方向に一直線なタイプなのか。
慌てたのは父さんだよなぁ……。愛してる妻が知らないうちに家飛び出して行方知れずとか、どんだけだよ。実家にもいないって知った時の父さんには同情する……。――――っていうかごめん!!知らなかったとはいえ、俺ついさっきまで、母さん人質にするなんて……!とか思ってたよ!!!めっちゃ濡れ衣じゃん!!びっしょびしょなの盛大にかぶせちゃったよ!!!本当ごめん!!1年前まで父さんのことを考えもしなかったことも含めて謝る!!
「――――ナタリアが悪いんじゃないわ。ウジウジグダグダしてたスチュアートが悪いのよ」
だからビアンカさんも父さんをいじめないであげて……!!
ビアンカさんっていうのは、父さんの従姉で、母さんの親友。そして、父さんに「――――好きなんだ」って言われてた相手だそうだ。実際は、父さんは「母さんのことが好きなんだ」っていう会話だったらしいんだけど、「母さんのことが」という部分を聞いていなかった母さんは、父さんがビアンカさんのことが好きなんだと誤解して、自分の親友と夫を取り合うなんてできない、だから自分が身を引こう……って思って出て行ったらしい。けれどビアンカさんは、自分の従弟がウジウジグダグダと不甲斐ないせいで出て行ったんだと思って、今までずっと罵っていたらしい。……いや、本当に。さっきからビアンカさんの父さんに対する言葉は辛辣で、それが一層、俺が父さんに同情したくなる要因になっているんだ。
父さんだって、必死に母さんのことを探してはいたらしい。忙しい合間を縫いながら、部下達を使ってずっと探させていたのだ。けれど、なぜ今頃になったのかというと……。……はっきり言って、俺が原因らしい……。……なんていうか、ごめん父さん。
まぁ、そうだよなぁ……。金髪碧眼のナタリアという名の美人な妻を探していたのに、その妻にまさか息子がいるとは思ってもいなかっただろう。子連れの時点で、対象から外れる。いくら金髪で碧眼でナタリアという名の美人でも、俺がいたから、別人だと思われたらしい。部下の人も、母さんの顔に見覚えがあったとしても、俺がいたから、「見つけました」と報告するのをためらうだろう。
それでも、たとえ五年近くかかっても母さんを見つけ出した父さんは、すごいと思う。……五年間、ビアンカさんの罵りに堪えながら、見つけ出すなんて、本当にすごいよ父さん……。――――……俺のことも、息子だと受け入れてくれたのだから。
そうして俺と母さんは、父さんと一緒に暮らすことになったんだ。
「レイ……、お前は私の息子だ。このスチュアート=ゼフィレリの息子、レイ=クリスティアーノ=ゼフィレリだ」
なんだか立派な名前もいただいて、父さんは穏やかな笑顔で、母さんも幸せそうで、…………あれ、何か忘れてる気がするけど…………まぁいっか。とにかく、良かったなぁと、しみじみ思った。
やっとダディが完全登場&レイ君のフルネーム登場です!けれどダディの扱いがそれほどよくないという……。うん、ごめんね!
レイ君は今までただのレイでした。それは、お母様が実家とも縁を切って、ただのナタリアだったから。
実父に引き取られるという、レイ君の人生のなんやかんやの第一部は、これで書けたつもりです!もう少し他の人の視点で続きますが。ここまで書けたことに、私はとりあえず満足しています!!
「この程度で満足?はっ!!ねぇ、薄ら笑ってほしい?それとも鼻で笑ってほしい?こんなんじゃ全然わからないわ!」という方が居られましたら、例の如くオブラートに包んでご指摘くださいませ。