痛む心
レイ視点です。事件終わりまで。
グレン達と別れた俺は、何事もなかったように敵の一行に合流した。もう心臓バックバクだったのに、全然気づかれてなかったっていうのは……良い事なのか、悪い事なのか……。い、いや、良い事だ!決して俺の影が薄すぎるとか、俺なんかを警戒したって意味がないとかじゃない!!…………といいな!
「――――チッ……」
え、舌打ち!?俺に対しての!?
突然前から聞こえた舌打ちにビビる俺。だが、どうやら俺に対してのではないらしい。前方を見ながら声を潜めて話し込んでるから、前に何かあるようだ。……被害妄想がひどすぎるな、俺。
舌打ちの理由は、目的地――――つまり父さんの部屋の前を、ゼフィレリの構成員達が固めていたからだった。勢力を分散させてあちこちで騒ぎを起こし、それを抑えるために手薄になった父さんを攻めるっていう作戦立ててたんだけど、上手くいかなかったようだ。
俺から言わせれば、そりゃそうだ!って感じ。だって父さんの部下達はみんな優秀だぞ?グレンやラウルさん見てすぐにわかるだろ。構成員達だってそうだ。特に、屋敷に入る事を許可されてる人達は、父さんや父さんの部下達が認める強さなんだ。
正面突破はしたくないらしい敵は、ここで俺に指示を仰いできた。……いや、指示を仰ぐっていうか、あの部屋への抜け道知ってんだろ?教えるよな?あぁ?っていうのを品の良い言葉に換えて言われただけっていうか……。
抜け道なんて知らないけど、他に扉があるじゃんって思って、そっちに連れて行くことにした。時間稼ぎのために。
ここからその扉への入り口は繋がってないんだ。また戻らなきゃいけない。多分それで、十分に時間を稼げるはずだと思ったんだ。
「――――残念でしたね、ボス。本当ですよ」
「っ誰だ!!」
父さんの部屋に繋がる扉を潜った敵が言った言葉に、父さんの鋭い声が飛んだ。あまり使わない予備の扉だからなのか、狭い通路で一列になっていた敵の集団の最後尾にいた俺にもはっきり伝わるほどの声。……やべぇ、父さん超怒ってる……!当たり前だけど、かなり怒ってるよ!
いやだ、出ていきたくない……。そう思いつつ、なるべくそーっと出ていく俺。そんな俺の目に飛び込んできたのは、前と後ろから銃を突き付けられた父さんの姿。――――って、えぇ!?なんで後ろからも!?素早く後ろに回り込……んだなんて事はないな。……じゃあ、あいつも敵なのか。父さんの近くに居るくせに!?
父さんに銃を突き付けながら、敵はその部屋にいた父さんの部下達に銃を床に置けと命じた。そこにいた部下達――――ルーベンさん達は、忌々しげに睨みながらも、それに従う。……父さんに心から忠誠を誓っている人達だから、この状況はすっごい悔しいんだと思う。……超怖い。俺が招いた事だから仕方がないんだけど、その視線の一部を俺にも向けられていると思うと、すごく胸が苦しかった……。
「――――……レイ!!」
感傷に浸りかけてた俺に、父さんの鋭い声が飛んできた……!ご、ごめんなさい!無条件で謝りたくなるほど怖いぞ、父さん!
恐る恐る視線を向けた俺に、さらに父さんの怒声が飛ぶ。
「レイ、お前は……最初からこちらを潰すつもりだったのか!」
えぇぇえええっ!?何、どういう事!?最初っからって、潰すって何を!?――――……っていうか父さん、あんまり喋らない方がいいんじゃないか!?父さん今、いつズドンってやられるかわからない状況なんだぞ!?
「――――……黙っていた方が身のためだ、父さん」
そう!お口チャック!沈黙は金だぞ、父さん!!じゃないとズドンだから……!
一生懸命そんな念を送れば、父さんもわかってくれたみたいで、静かになった。…………って静かすぎる気がする。この部屋中、なんか異様な静けさが漂ってないか……?
「――――兄さんっ、父さん……!!」
静寂を破ったのはヴィンセントの声だった……って、なんだそのナイフは!?
……俺の大事な弟を軽く羽交い絞めにして、ナイフを突きつけている男。
軽く、殺意が沸いた。――――俺だって最近そんなにヴィンセントに触れ合ってないのに……!なんで赤の他人如きが!?
……じゃなくて。いや、それもあるけど、ヴィンセントを傷付けようとするその男に、殺意が沸いた。そして、弟をそんな目にあわせてしまった事に、胸が痛んだ。……それから、もう一つ。
「……ヴィンセントにまで手を出すのかっ、レイ!!」
父さんの、そんな言葉……。傍から見れば、そう思われる事はしょうがないってわかるけど。それでも……苦しかった……。
苦しくて苦しくて苦しくて……。痛む心は、頭も体も思うように働かせてくれなかった。
覚えてる事は、そんなに多くない。
ヴィンセントの頬から流れる血と、それを見て笑う男の顔。それに感じた、目の前が赤く染まるほどの怒り。その醜い顔を消したくて握った銃の感触。今ならできると、そう思って引いた引き金の衝撃と硝煙の匂い。父さんの驚く顔。父さんの後ろにいた敵に向かって銃を撃った俺に対して、銃を向ける父さんの目。銃声。右肩の痛み。血に染まる腕、指。
その時俺は、何を感じていたのか。痛み……?苦しみ……?……わからない。それからどうやって、屋敷を出て行ったのかも思い出せないほど、俺の頭は、心は、全ての事を放棄していた。
パタンと、扉が閉まる音がした。ふと顔を上げれば、そこに――――。
「――――ジュリア……」
俺の奥さんがいた。
最後はさらーっと……書きすぎた気が。いやぁなんか、いろいろあって早めに終わらせなきゃなぁと思いまして……。手を抜くつもりはありません。でも、ぐだぐだ書く気もないので端折りました。
時間軸として、27歳のレイ君に戻りました、やっと。そして奥さんのジュリアさん登場です、やっと!彼女は名前だけならレイ君の次に決まっていたのですが、なかなか登場させられず……。やっと出せてとても嬉しいです!
私の中で、ジュリアという名前は美人さんなイメージがあります。私は海外ドラマをよく観るのですが、科学捜査を題材にしたドラマの某鬼チーフの元奥さんとか。K-POPもよく聞くのですが、あるグループのアルバム収録曲のタイトルとか。どちらかでもピンときた方がいらっしゃいましたら、ぜひご一報を!




