忘れちゃいけない大事なこと
レイ視点です。ダディに引き取られてから。
まぁそんなこんなで、レイ=クリスティアーノ=ゼフィレリっていう立派な名前をもらった俺なんだけど。
……あー、覚えてるかわからないけど、俺、「何か忘れてる気がする……まぁいっか」的な発言をしたんだよね。
結論から言うと、何か忘れてる……っていうのは、当たってた。――――っていうか、何で忘れてたんだ、俺!!まぁいっか、じゃねぇし!!!よくないよくない、絶対よくない!!
……何で、何で忘れてたんだよ、本当に。――――…………父さんがマフィアのボスだって。
普通忘れないだろ!?っていうか忘れちゃだめだろ!!でも忘れちゃったんだよ!!あほ!俺のあほー!!
……あぁ、これで晴れて俺もマフィアの一員だよ……。それどころか跡取り息子なんだよ!!何故って?父さんがボスだから!!
この、チキンでビビりな俺が、次期ボスって……。無理。無理無理無理。絶対無理!マフィアの、しかもゼフィレリって、意外にすごい家だったらしいところの次期ボスなんて俺には無理すぎる……!!
そう……。ゼフィレリって、というより父さんか、……意外に有名人だったらしい……。
そのことに気付いたのは、息子だって言って引き取られた次の日。俺と母さんが連絡もなしに帰らなかったから、きっとマリアおばさん達が心配してるだろうってことで、報告兼お別れを言いに、一度家に戻った時だ。
母さんはビアンカさんに捕まってたから留守番。で、俺を迎えに来てくれたイケメン、ラウルさんをお供に、家に向かったんだ。ただいまーと家の扉をくぐった俺を出迎えたのは、めっちゃ心配顔のマリアおばさん達だった。何事!?と思う暇もなく、大丈夫か、何もされていないか、怖くなかったか、母さんはどうしたんだって、矢継ぎ早に質問された。一日帰らなかっただけでこんなに……と若干引いたが、よく聞いてみたら、マリアおばさんが母さんを連れ戻しに来た父さんをばっちり見ていて、その父さんがあの、スチュアート=ゼフィレリだったから、すごい心配したらしい。
――――……「あの」ってなんだ……。なんなんだ……!?
思わず、斜め後ろにいたラウルさんを振り返ってしまった……。そうしたらラウルさんは、困ったように首を傾げただけだった。……くっそ、イケメンめ、首傾げてもイケメンだな!!それになんだその絶妙な角度は!イケメンの角度か!イケメンの黄金角度なのか!?
と、とにかく。父さんは意外に有名人だったっていうことがわかったんだ。……良い意味でか悪い意味でかは、聞かなくてもいい?いいよね……!?
めっちゃ心配するマリアおばさん達を、ラウルさんのイケメンパワーで大丈夫だって納得させて、俺はみんなにお別れを言った。……嬉しかったのは、俺より年下の子達みんなが、「いっちゃやだ!」って引き留めてくれたこと……。……やべぇ何あれすっげー可愛い……!涙で顔中ぐしゃぐしゃにしながら、俺の服を掴む小っちゃい子達の様子は、もう本当に可愛すぎた……!
いやぁ……すごい嬉しいよなぁ……。子供の中では俺が一番年上だったから、確かによく面倒見たけど、こんなに懐いてくれてたとは思ってなかった。……後ろ髪を引かれるって、絶対こういうことだよな。あ、やばい泣きそう。意地でも涙は見せないけどな!最後ぐらい、かっこいいとこ見せたいから。……みんな、元気でな。良い子にするんだぞ?……マリアおばさん達の事、頼むからな。
みんなとの涙のお別れを終えた俺は、もう一人、お別れを言う人がいたから、家を訪ねた。それは、俺に勉強を教えてくれてた先生だ。この先生は、すごい丁寧で、俺でもわかるように親切に教えてくれるから、本当は通い続けたいけど、そうもいかないらしい。お金が払えなくて学校に行けない子供のためにって開いたところだから、それもそうか……。残念だけど、今までお世話になりましたー……って、先生なんですか、その清々した!的な笑顔!?何そのめっちゃいい笑顔!?まさかの超笑顔!?……え、俺もしかしなくてもすっげー嫌われてた!?やれやれ、やっと厄介払いできるぜ、とか思ってるんですか先生!?
…………そりゃあ、良い生徒じゃなかったと思うよ……?文化の違いか、ただ単に俺の語力が低すぎるせいか、問題集難しすぎて、何度も先生に質問したよ……?熱心に教えてもらっても、ほとんど理解できなくて何度もこれってどういうことですかって聞いたけど……。俺、そんなにうざがられてた!?
はっ……もしや、対人関係の問題で俺が嫌だった!?そ、それだったら身に覚えがある……っ!先生に勉強教わってるのは俺の他に10人近くいたけど、誰も目を合わせてくれなかったんだ……。遠巻きにされたし、集中して俺が近くにいたのに気付かなかった子に、「ひぃっ!!!」って悲鳴をあげられたことも一度や二度じゃない……。頑張って俺から話しかけても、なぜかみんなすぐ怒って顔を真っ赤にしながら席を立つし……。…………あぁもう気づいてると思うけど、俺、友達いない歴絶賛更新中なんだ……。友達いない歴=年齢だけど……?言っとくけど4年じゃないからな!
マリアおばさんからずっと、「女の子を泣かせるような男になっちゃだめよ」なんて冗談めかして言われてたけど。……ごめんおばさん。まだ女の子泣かせたことはないけど、代わりに男女問わずすっごい怒らせちゃってるんだ……。前世でも、こういうことあったなー……。あれ?俺ってもしかしなくても魂レベルで嫌われてるってこと!?
先生視点の小話
「いままでありがとうございました」
そう言ってレイ君が頭を下げる。4歳とは思えないほどの礼儀正しさだ。
まだ4歳の彼の賢さは、私の生徒の中でもずば抜けていた。それは彼に、研究者レベルの問題集を取り寄せた事実からもうかがえるだろう。
彼の勉学に対する欲求と吸収力は、目を見張るものがある。私のやりすぎとも思える指導でさえ、彼は淡々とこなしてしまうのだ。
彼のレベルは、すでに私を超えている。問題集でさえ、すでに彼のレベルに合わない。記述の中で矛盾する点を見つけ、後に出版社からミスだったと返事が来た事は数えきれないぐらいだ。
……彼には、私など物足りない師であっただろう。そんな私を、師と敬ってくれるとは……。教師冥利に尽きる。
できることなら、このまま彼の成長を近くで見ていたいと思う。だが、恐らく彼は上等な教育を受けさせてもらえる素敵なところに引き取られたのだろう。今までだって、服が彼の天性の気品を損なうことはなかったが、今、彼の身を包む服は一目で高級だと分かる、彼にとてもよく合った仕立てのいいものだし、彼の側にいる青年も同様だ。このまま私のような未熟者から教えられるより、彼にとってはるかに良いことに違いない。ならば、私が最後に彼にしてあげられることはただ一つ……。明るく笑顔で見送ってあげることだ。
ということで、これが超笑顔だった先生の真相です。なんかこれを書きたくなったので載せてみました。




