「目的」のためには手段を選ばないとよく言うが、最終的には手段選んでるじゃんっ、てよく思う。
《目的》
「うぅー、最悪だぁーー」
彼女――クレアは島全体に響くほど大きな音で叫んだ。
彼女の周りの砂はいろいろなものの余波で波紋状に削り取られ、まるで月面を思わせる。
「そういえば、あなたは滑空魔法は苦手だったわね、あーいや、赤点だったっけ?」
彼女が空を仰いで叫んだその後、彼女の顔を影が曇らせる。
彼女の滑空魔法とは打って変わり、優雅に――、
その姿はまるで鷹や鳶、トンビなどの猛禽類を思わせるモノで、円を空に描きながらフワリと無風の、まったく回りに風を、吹かせること無く、着陸した。
「意地が悪すぎよッ――ナオッ!!」
クレアは見事な着陸を見せつけてくれた彼女―――ナオと呼ばれた少女に吼えた。
「あーら、このテルシャ=ナオ=フリーフィになんて言い草。私はただ、『一般的にこなせる生徒は普通に大丈夫』と言っただけよ。」
ふー、と溜息とはまた違う意味での――相手を馬鹿にするような息を吐き、島の中心部――、
そう、
中央に只、存在するだけの遺跡
を向いた。
「本当に行く気なのね、クレア」
彼女は真剣な眼差し、と言っても、彼女は幼げな顔つきなのであまり真剣さを帯びないのだが、
「当然ッ!!あたしは魔女なんだから――世界に混沌を招かなくちゃならないの。だから――」
そしてナオが言葉をつなぐ。
儚げに、
錆びて拘束することができない鎖のように、
身動きの取れないクモの巣にひっかかった蝶を哀れと見下ろすような眼差しで、
「この世界を破壊する―――――、
のね。」
世界の――破壊。
世界の定義さえはっきりとしていないのに、
世界の――破壊、
を望む魔女。彼女の瞳には希望と切望しか無い。
「まぁ、流石は《異型》と詠われた魔女の家系の第二十三代目当主――『クロエ=A=シュヴァリエ』よね」
ナオは言う。
中傷を込めた台詞をクレアに冷たく吐きかける。
彼女の瞳には憎しみと――愛がこもっている。
「あらー、お褒めにあずからなくて光栄だよ。まー、無駄話をしている時間はないから私はもう行くからねッ!ここまでついてきてくれてありがとう――と、言っておくよッ」
クレアはそう言いつつ、ナオに背を向け、手を頭の横辺りでぷらぷらと挨拶代わりに振って立ち去った。
のだが、
「あらー、知らなかったの?私も一緒に同行するのよ?」
「フぇ!?」
波の音と潮風の音と、木々草花が揺れる音と、動物の鳴き声と、ネオとクレアしか音を出す存在が無いこの島で、
余りにも素っ頓狂な――可愛いと表現出来る範疇の声を、クレアがあげた。
《遺跡》
そして彼女達は進む。
海岸との境界を作り、島全体を覆う森に入る。
島の中央には遺跡。
いや、この場合は少し違う。
遺跡自体は島全体を指す。何故か、遺跡が島と融合しているからだ。
神秘的――とは言い難く、かといって―――不思議とも言えない。
この空間では至極当然の様だ。
「魔女――ルールフォータスの遺産、ね」
クレアが呟く。
彼女たちは今、遺跡の入り口の前に立っている。
地面から生えている遺跡と言う建造物はさほど大きくは無い。
サテライトの様なごつごつとしておおど色と薄い金色の円錐。
そしてその円柱の一端には入り口とそれに続く階段。
入り口の左右には二メートルはある金剛力士像のような石造が。
それが遺跡だった。
「それにしても面倒な魔法陣よ、コレは。特に連鎖式なのがイタイわね」
「崩魔壊陣の二つ名だけはあるよッ、ナオ」
「うるさいわ、ちょっと黙ってて」
ナオは今、遺跡の入り口付近に存在する、地面から生えている一本の純金で、先には大きな水晶のついた杖に手を置いている。
魔法陣―――それは魔法を扱ううえで最重要なモノ。
魔法を創造する――――陣。
魔法を制御する――――陣。
魔法を発動する――――陣。
魔法を終了する――――陣。
魔法を変化させる――――陣。
魔法を崩壊させる――――陣。
そして、この場合の魔法陣は、
魔法で防衛する――――陣。
防御魔法陣
この魔法陣は魔方陣としての本質にとてもよく近い。
本来、魔法陣は、魔法を扱う術者の安全マージンとして作られたもの。
今のこの世界での魔法陣は何らかの変化により、本質よりはずれて魔法を御するものとなり替わっている。
陣には三つの構成がある。
一つ目は陣を守る陣。
二つ目は術者を守る陣。
三つ目は陣を打破しようとする相手を破壊する陣。
これらの要素を含む陣を――――、
「出来たっ!これで―――突破、だっ!」
ナオの明るい達成感のこもった声。
手で掴んでいた水晶にピシリと一筋の亀裂が入る。
一筋だが、完全に二分する、断破の亀裂。
そして、水晶とその杖の周りに何重もの赤の魔法陣が出現して、
パリィンッ! と霧散して光の破片となりかき消えた。
対――防御魔法陣用――魔法、霧散殺陣
そして―――――遺跡への扉が開いた。
彼らの復活とともに。