「囚人」になったら朝昼晩の飯がついているからそれはそれでいいかも。
《スクエル魂》
一度起こった事はもう変えることができない。僕はこの事実を実感している。
もはや変えようのない、事物。
還るべき処もなく、変えることも出来ない。一方的に―――手詰まりだ。
僕はまるで処刑される前の囚人の気分になってみた。
特に理由はない。
ただ、眼の前のあられもなく《終わった》仏人を見てそう思っただけ。
自我が在るだけにやりにくい。
引き剥がす事が余計に困難になる。
なんたって痛いのだ。
コイツは魂と繋がっている構成になっている。
リンク。
互いにリンクしている。
ミュージュアリーにリンクしているのだ。
だから―――難しい。
自我があるとその自我がボロボロに崩れて壊れてしまうほどに―――痛いのだ。
「えーと、赤皿藍理――だったかな。一つ提案があるんだけど…僕としては」
懇切丁寧に言う。
相手に不快感を与えないように。相手が不快にならないように。
印象を…良好に。
「僕としては…?」
彼女は刀の面を肩に担いで暇そうに聞き返してくる。
暇そうと言うよりはどうでもいい、無感動と言った様子だ。
まったくー、大人びているというか変にイキっているというか。
「僕としてはその刀病をこっちに渡してほしいんだよね。でもってソッチの魂から魂としての刀病を渡してほしい。どうかな?考慮には値する?」
「しない」
即答だった。
まぁ当然かな。
けど、一対一でこの状況。もはや交渉決裂のこの状態。ならば一つ。
戦争だね。
戦争というよりは……戦闘かな。
「じゃあ始めようよ。その力の奪い合い。その魂の奪い合い。一つ言っとくけど、魂から刀病を引き剥がすときはめっちゃくっちゃいたいから。セリ。ソウン。アーブル。『泥眠』――ほら、泥の眠りが近づいてるぞ」
僕は唱える。三段の初歩的呪文を。
これは波状攻撃だ。それを一方に絞っている。
これで勝負は決まる。ぼくは思っていた。
魔法の概念を持たないこの世界の物質は魔法を打破することは不可能。
コレ世界ノ理。
だが、彼女はそれを斬った。
波動を、縦に真っ二つに斬った。
断斬。
うわー、我ながらネーミングセンスが厨ニくせー。
移動魔法を使っているとしか言えないほど恐ろしいスピードで彼女は肉薄していた。まだ動いていない状態の彼女の残像が見える。そのくらいの速さ。
―――ゲール。ゴオ。ホィグン。
咄嗟に頭の中で展開する。三段魔法の上級編。
「『液状化』!!!」
勢いは止まらず、彼女の剣は僕の頭を一閃した―――ようだった。
唱えたのは自らを液状化させる魔法。魔法の中でも自らの肉体に完全干渉する系統は難しい。
レヴェルで言うと……いや、止めておく。
だが媒質は水。ならば結果は。
一目瞭然であり、斬られた部分は地面に落ち、また全体と繋がり、彼女から距離を取って現れる。
イヤ、まぁ自分でしてる事だし客観的な言い方しなくてもいいんだけど。
まぁ、なんとなく。(ちょっとメタだ。)
更に展開。脳内にだけど。
魔方陣を展開――構築。
使う要素は三つ。
自らを守る陣。
相手を無効化する陣。
攻撃を吸収する陣。
似通っているが緻密に違う。
頭で創った陣を自らの前面に展開する。
―――グィンッ!!!
彼女はまた肉薄する。この魔法はそんなに長くは持たない。もって一分、さっきは十数秒だった。
確率論で動く魔法。
だが、今度のは違う。基本の要素を一つ、軸にして周りを構成する。
緑色の陣。
それが正面から彼女の刀病を受ける――否、受け切れなかった。
受け切れずに―――破裂した。
犯された。多分、犯された。
緑が紫に変わって、ドロドロに溶けて霧散した。
そのさまは言いようがなかった。言い難い。
「おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいっ、どんだけ物凄いんだよ、ソレ」
「これで……終わり?」
そうだね。
「ああ、もう手の打ちようがない。魂との融合率百%とか、救い難い。だから、殺すさ。第一の種族、人間。第二の種族、仏人。第三の種族、レヴェルイータ。に次いで、第四の種族になっているからな。もう無理だ。だから、謝るよ。ごめん」
「いや、謝られても…って、第四の種族って、どういう意味?」
「仏人と何かのハーフの事だよ。物凄ーい能力を持っている種族。全九天を一人で滅ぼせるほど強い」
「あーね。確かに今なら第六天もあたし一人で殺せそう♪」
「ま、その前に僕が殺すけど」
ドール。フロン。スラス。ゲイドン。アラカ。モング。ヴェイ。ナスト。ソウン。アーブル。アルミス。プロロン。ドッツ。
「喰え殺せや。谷に落とせ。谷に住まう原点の一匹。世界の橋の下で這う聖獣を。いでろコレ。『聖獣グングニル』」