「病」は気から、その気は人から、人は―――人から、人から―――人へ。
《埋没》
「病病」
彼女は言った。Ιと言われた彼女―――赤皿藍理。
彼女も持っていた。
『病病』と呼ばれるモノを。
深い紫の腕輪―――彼女の右手首あたりに嵌っているソレは、先に使用された鬼擬と同じ、いや、それ以上に普遍を瓦解させた。
藍理は右手を前に翳す。そして、押す。ゆっくりと、重厚の扉を押しあける仕草。
ドロリ―――と目の前が溶ける。溶けて―――融け―――熔けた。
腕輪から発せられた化学薬品の化学反応によって発生した煙のような『本質』は空間に浸透して、そのあとは――――。
「…流石。じゃぁ行こうか」
「いいけど、一応言っとくよ。今から入る空間は半分以上所有権を放棄しているよ。巻き込まれないように気、つけてね」
「おーけい、おーらい」
二人は熔けた空間の内部に入った。
「――――っ、…あんたらはっ!?」
「――――っ、…あなたらはっ!?」
彼と彼女の眼の前には体液まみれのレヴェルイーターと、男と女の二人の、一組の男女がいた。
男女の足元には――――苦痛と苦悶でゆがんだ見る影もない怪物が、
死んでいた。
「キミ、怪物の次は――――同業者…っぽいのが来たよ」
「そりゃぁ、まぁ見るからにそうだろうな。女は右手に『魔剣』、男の方はポケットに『幾擬』と――――ありゃ、これはやべぇよ」
男の方は何故か二人の所有しているモノを言い当てる。その答えは一つの事実を示唆している。
「あんた、この空間の所有者か?」
維祐は彼に聞く。おそらく、維祐の見込みでは『自分を含めて一番次元を突破している』であろう人物に向けて。
旧知の仲の―――人物に向けて。
数年前、突如として姿を消した―――人物に向けて。
「なんで、どうしてなのっ!!」
藍理は驚きを隠せない。藍理の癇―――ではないであろう、何かで藍理は感じ取ったのだ。
彼女の、彼女に芽生えた、彼女が持っていなかった異質に。
旧知と呼べない―――友に向けて。
数年前、約束の場所に現れる事の無かった―――友に向けて。
「「どうして、ここにいるんだっ!?」」
彼らは、彼女らは、目的を一瞬で忘れ、忘却し。
人知を超えたモノを使って普遍を瓦解させた彼女ら、彼らは。
普遍によって瓦解させられた。
能動により壊し、受動によって壊された。
まさに―――ソレ。
その問いに回答した彼女、彼は同じく等しく答えた。
「「――――――――――――――……ダレ?」」