「一時停止」は名目上の人生の完全停止。止まればそこで袋小路の行き止まり。
《外伝・Ⅱ》
私は全てを「悪」を否定した日、
在る場所を訪れていた。
それは遠くまで見通せる瑞々しい緑が群生する場所だった。
そこで私はあるものを見た。
世界が彼によって構築される光景だった。
私は、私は、
ここで全てを――総てを――凡てを、
××された。
「善」も「大義」否定した「悪」を、
「×」によって××された。
「×」によって体全体心全体を蹂躙された。
思わず激痛が走った。
痛みに悶える。
鋭痛・鈍痛・激痛――――
痛覚を消失してしまう程の多種の痛みを感じた。
それと同時に、心が、
感じてしまった。
心が感動してしまった。
世界を構築していたのは「×」であり、
私には「×」が存在しなかった。
不覚だった。
世界の創造を見て、ソレは「×」に満ち満ちていて、
「×」がここまで純粋な存在で、
所詮――雑念の籠った「悪」や「善」や「大義」は
「×」の前では御飯事なのだと。
食物連鎖の四角錘でたとえると、これらは底辺なのだと。
「×」は頂点に降臨して君臨して幾らでも再臨するものだと。
私は不覚にも胸を打たれた。
涙が湯っ繰ると頬をはかなく撫でる。
涙腺が崩壊する。
嗚咽が喉を通って零れる。
世界の想像が、創造が、
こんなにも、こんなにも、――――――、
そこで私は自分自身が彼に「嫉妬」している事に、気付いた。
「悪」を××されたにも関わらず、
「大義」「善」を凌駕し蹂躙した「悪」を××して徹底的に凌駕し蹂躙した「×」を目の前にして、
私の中に芽生えていた感情は「嫉妬」だった。
――私は絶叫した。
――私は見つめた。
――私は見据えた。
――私は渇望した。
――私は懇願した。
――私は「×」を理解しようとした。
なので私はここに一つの誓いを立てた。
コレは「悪」などから発生したモノではない。
私の中の純粋な感情だ。
私は彼と一緒に二人を見た。
彼女と彼だ。
二人も当然に「×」に満ち溢れていた。
彼らを見て、私は決めた。
私の中に在る「×」で「×」を××すると。
決めた。
コレは誓い。
残酷なまでの「×」で――彼らを××する。
コレは領域。
誓う――領域。
絶対に、絶望に、極限に、局地的に。
だから今は身を引くことにする。
優位性を得るために、獲得するために、
今は引く。
新しい世界に踏み込むのはそれからだ。
今は――まだ、
自分の世界を見て、自分と向き合う事にする。
「悪」は――捨てることにする。
「嫉妬」は私の中に芽生えた新しい感情だ。
だから「捨てる」
彼らと同じ立ち位置に立つために、
私の存在を刻み込むために、
今は―――。
私は涙の痕を手の甲で消し去り、
踵を返して元来た道をたどる。
その時、自分でも気付いていた。
口元に。
××っていた。
私は「七つの悪」を捨て去った。
焼却した。
滅却した。
だが「八つ目の悪」は捨て去れなかったようだ。
これだけは、これだけは。
心が躍る。
躍動。
一時停止。
コレは私の記録だ。
世界の始まりの記録。
今はもう完全に失われてしまった記録。
忘却の彼方だ。
私の子孫たちよ。
この記録を受け継ぐ必要はありません。
もし受け継いでも理解する必要はありません。
これは断絶されたモノ。
だから、自らで新たな記録を作りなさい。
私のように。
私を超えるように。
ああ、私が元いた世界は何なんだって。
それは世界が始まる前の世界だよ。
この世界は断絶された記録の中の断絶された記録だ。
気にするな。
ああ、そう言えば私は一つの事実を知った。
彼は彼は彼女は――世界を崩すために生まれてきたらしいよ。
中心ではなく外郭を――――。
物事の中心ではなく外郭を。
正常の外郭を崩して―――異常となす。
何千年後の世界には異常がはびこっているのかな。
分からないけれど――楽しそうだ。
ここでも私はやはり××っていた。