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名の無い彼と名無しの彼女  作者: 水口 秋
第一章、皆様に安らぎを。
21/50

「演出」で私はスポットライトが一つのモノに当たる瞬間が好きだ。なぜなら、この時間違いなくそのモノはその場で最上の存在となっているからだ。

《二人ノ名前》


彼女には、××が無い。×無しの彼女。

彼には、××が無い、×の無い彼。

記憶はあった。感情はあった。五体満足。人としては盤石。

性格もある。人格だって存在した。分からなかった事はある。

自分達が一体何をしていたのか。というものだった。分からない。きっと、今の自分たちでは理解不可能。

お互いの事ははっきりと知っている。

けれど、一つの何かが欠けていた。

不自然に、切り取られていた。

記憶を探る。奥底まで。

なのに無い。見つからない、見当たらない。

歯がゆい。胸のあたりがむかむかする。

××が無いのだ。

自分の記憶の中に存在するはずの××だけがぼんやりと、いや、はっきりと明らかにあからさまに無い。

記憶の中の自分で書いた書類の記述欄の××蘭だけが思い出せない。そこの記憶はあるのにその記憶の一部の記憶だけが無い。

探さなければ。

焦る。

彼らは二人で考える。

お互いの事はお互いがよく知っている。

自分の事は自分が知っている。

だけど××だけがどうしても分からない。

探さなければ。

焦燥感に駆られる。

探せ。

探す。

一緒に。

探す。

二人で手をつないで、探そう。

目は二つより四つあれば視野が増える。

脳味噌も一つより二つ。

身体も一つより二つ。

一人で無理でも二人なら何か手掛かりを掴めるはずだ。

だから二人は探す。

無くなった、


『名前』


を。


自分たちが自分たちであるために。


「なーんて、悲劇の主役ぶって何の意味があるのよ」

彼女は呟く。真黒な空間の中で。

眼前には怪物と怪物。言い換えれば怪物と協力者。

白と白、客観的には。

だが、色彩で言えば――――白と白銀。

色が違う。

全九天のシックスがここで顕現出来るわけがない。いくら堕ちたからと言っても存在容量がこの空間に入りきる事は不可能だ。いくらピコ単位がテラ単位にまで落ちても、メガ単位の容量のパソコンには入りきらない。それと同じだ。

絶対容量というものが存在する。絶対的に、このラインからは下がらないという境界線だ。誰にでもある。それがシックスは異常に大きいだけだ。

だから、ここにいる―――――目の前にいるシックスは偽物だ。

彼女は全くの興味もなく分析する。

灌漑無く。

偽物、純度100%の偽物で虚言だ。空虚の存在だ。

なぜならば、あのシックスは自分の能力によって作り出されたものだからだ。

「現実師の能力は見方の数が多いほど強いといわれている」

なんて言葉も虚言だ。


なぜなら自分自身が創ったからだ。

あたしは言う。

間抜けな顔――――と言っても目の前の化け物はそんな顔をしていないが、

言う。

「―――――――――――――停止」

と言ってみせる。

それだけで――――世界が変わる。

この空間は―――――元の現実を『取り戻す』。

世界が崩れる。

教会にあるステンドグラスが粉々に砕け散って降り注ぐ、そんな光景を目の当たりにしたようだった。綺麗――――奇麗だった。奇形に綺麗で奇麗だった。

黒の空間を作っていたモノがパリパリと剥げてそれが無くなった先からは白の、真っ白のリセットされた後の空間のような何も、何のとりえもない空間が姿を現す。

現実師。

としての能力。

それがコレだ。

棒立ちで感無量ではなく、全く逆であって近い驚愕の感情を抱いているだろう化け物は何も言わない。

違う―――何も言えないのだ。

自分が今まで『何と戦っていたのか』『今の状況を飲み込めない』のだ。

そう。

いつもそう。

あたしがコレを使うと誰もが皆挙(こぞ)って同じような反応をする。

いや、うちに抱いている感情は違うのだろう。

だが、あたしが見る表情はどれも近似している。

理解してくれのは彼一人。

その彼は、シックスとしての肉体の天辺から亀裂が走り、パリィンと『人間の姿』に戻る。

そして、いつもこうあたしに言うのだった。

「『お疲れ。今回も惚れ惚れする位、下衆で下種な演出だったよ』」

と。

あたしはこれで満足だった。

現実師としての彼女、あたしは名前を失って生きる意味をなくした。

名前は決して記号などではない。名前は、生を理解するのに必要不可欠なパーツだ。

だが、毎度ここではあたしは彼の言葉に返答しない。

そして、今回は―――――――――――呟いてしまった。

―――無意識的に。

「名前が『―――――――――――――』欲しい」

「なるほど、合点がいった。おにーちゃんおねーちゃんたち―――いや、鬼ーちゃん汚根ーちゃんともう言ったらいいのかな。鬼のようなおにーちゃんと根が汚れているようなおねーちゃんだからね。

『名前』が無いんだね。『ど』『う』『り』『で』『こ』『の』『世』『界』『が』『そ』『こ』『ま』『で』『二』『人』『を』『拒』『絶』『し』『な』『い』『は』『ず』『だ』『よ』『。』

《喰》《べ》《ら》《れ》《ち》《ゃ》《っ》《た》《ん》《だ》《ね》《。》《可》《哀》《想》《に》《。》

教えてあげるよ。それならあたしを見逃して欲しいな。コレは約束でなく契約。どうかな、

―――――『名の無い彼と名無しの彼女』?」

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