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名の無い彼と名無しの彼女  作者: 水口 秋
第一章、皆様に安らぎを。
20/50

「高知県」って何が一番おいしいの?秋は秋刀魚がおいしいよ。それはあなたの好きなものでしょ。

《仏人》


手負いの獣がどれほど手強いのか、維祐と藍理は真には理解していなかった。

追い続けて数時間、ようやく昇華したレヴェルイーター=バンジーに追いついた。もはや景色は変わっていた。そこは香川の山中ではなく、もはや高知県へと侵攻していた。

侵攻が早い。それほどに切羽詰まっているのが目に見えて分かる。

「ようやく肉眼で目視が出来るよ」

「もう疲れた。それより何だよ、あの風貌。いつの間にあそこまで巨大化した?」

「うーん、多分ツキ(アドバンス)に成って新しく呼声に能力が加わったんじゃないかな。それと、あいつは『人の魂を食べている』から『レヴェルイーターの存在に干渉しやすい』肉体へと変化してるとか」

ま、いろいろと仮説は立てられる。

と藍理は言う。両手には歪に片側の歯ががりがりと零れている忍刀が握られている。おそらくこの刃零れは先ほどのバンジーの攻撃を流すように受け流したものによるものだろう。

「仕切り直し―――っていうやつだな」

維祐は言い放ち、ベルトから、ベルトから肉厚のファイティングナイフを引き抜いた。先ほどとは違う。先の鉛色のような刀身のナイフではない、オレンジ色の、本当に濃い色をしているナイフだった。

正面に立っているバンジーに向けてかざす。バンジーの姿はもはやホラーでしかなかった。

先ほどの体系の数倍に身体は膨れ上がり、そこらにいる巨漢と同じほどの体躯をしていた。

「もはや、主らには勝ち目はないぞ。聖なる魂を二つも喰らったのだからな」

男性の老人の声、だったのだが今は男性の青年の声に変わっている。

これも魂を喰らった事による変化。


「まぁ、それが『レヴェルイーター(カイブツ)』と言われる所以だからな。そしてそれらを殺すのが俺たち、仏人(ほとけびと)なんだからな」


―――そのくらいは知ってるぜ。何気に最前線で亡滅させてるんじゃないんだよ。俺たちは。

彼の翳すオレンジ、橙色と呼ぶべきのナイフは光を浴びても光らない。反射しない。鈍く、吸収するようにそのままを維持している。金属の光沢なんてものは一片たりとも存在していない。


「さっさと始めなよ。こっちはもう疲れてるんだから、維祐」

隣で黙っていた彼女、藍理はため息を吐き、言う。

「ちょっと格好いい台詞だったろ。少しは見逃せよ、『鬼擬オニモドキ』」

「ハ!?」

バンジーは呆けた声を上げた。それもそのはず、状況が全く一体全体特急性急過ぎて理解できなかったのだ。アイツは先の与太話の中で最後に何を口にした。

と。

ライトノベルや漫画の主人公は絶対にしない行為だった。するキャラクターがいるとすればそれは必ず敵キャラや卑怯なキャラだろう。

だが、ここは漫画なんかの世界とは違う。バンジーは油断していたのだ。彼らは必ず正攻法で攻めてくるのだと偏見を持っていたのだ。無知だ。そんな訳が無い。気を緩ませていたのだ。あまりに敵が釈然としない態度でこちらを窺っていたから、いやコレはただの言い訳でしか無いのだろう。全く見えなかったのだ。魂を喰らい、レヴェルイーターとしての存在の位も昇華した、当然身体に備わる機能、反射神経や動体視力なども飛躍的に上昇している。なのに、視界の端に捕えることも出来ずにただ右肩に突如訪れた痛みを痛感するのが精いっぱいだった。

何が起こった。

維祐が不意を突いたのだ。口にした言葉、『鬼擬オニモドキ』がそのナイフの作動条件だったのだろう。ナイフが意思を持していると思わせる動きを見せた。刃の先端がグニャリと捻じれ、空間を切り取りかねない早さで動き、伸び、動き、伸び、伸び、伸びて、バンジーの右肩を切り落とした。

全くの無音。バンジーでなく、世界さえもこの動作を認識していないようだった。

右肩から体液が流れ、その瞬間で蒸発していくなかバンジーはとり憑かれたようすで早口に言う。

「バカなっ、我が肉体は先ほどの喰刀と同化して喰刀と同等の硬度を会得したはず。なのに、どうして主、我が肉体をあまつさえ切断することができるっ!!!?」

口から涎がだらしなく垂れていることも気に留めず、聞く。

「お前は聞いたことないか、Ο(オミクロン)という(あざな)を」

「まさ、か、オヌシなのかっ!?あり得ぬ、あり得ぬぞ」

「それに何だ、その魔剣か天矛か区別のつかぬ得物はっ!?」

「失礼だな。コレは所詮は(モドキ)だぞ。そんな代物と一緒にするな。お前程度にそんな『神鈴(シンレイ)』を遣いはしない。

「貴様、他にもそのようなモノを、ぐっ」

そう言い、バンジーは息を吸い込む。腹式呼吸とは違う、別の概念によって声を上げようとしているようだった。

「不愉快だ。鬼擬」

さしゅっ。

今度は音がした。体液が勢いよく飛び散る音。

ナイフが伸びてバンジーの喉を掻き切った。文字道理。

「あ゛ぁあ、あ゛…あ、―――」

もはや喉がつぶれてしゃべることすらできない。

「弱い者いじめは好きじゃないのに。バンジーに会うまではあんなに手強そうにしていたのにどうしてこんなに簡単に殺しちゃうのかな」

「しかたないだろ。思った以上に雑魚だったんだよ。これじゃあ使った意味無いじゃん、鬼擬(オンモドキ)

すこしシュンとなる維祐。

彼らは数秒の間、目を放していた。視界からも外していた。

バンジーを。

「いない」

「いや、まだ近くにいる。空間に入ったようだね。まだ道が塞がってない。行く?」

「もちろんだろ、Ι(イオタ)

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