「魔法」ってやっぱり魔力とか必要なのかな?ねぇ、だったら魔力ってどこで売っているの?
《ク・レ・ア》
彼女、クレアは死んだ。
確実に、死んだ。
死が、訪れた。
死因は変死。
体の崩壊と裏返りによる、死。
「心罰獣化は禁じ手の中の毒手。全てを裏返す能力。魔禁法でさえも、裏返す。我には効かない」
彼は、砂塵より生れし彼は言う。
『「そのとーりぃ。
あなたはあたしの従者、グレイスと戦おうとした瞬間から、
ぁははははっ 《負けていた》 のよ 」』
下劣に笑う異端。
『魔女、ルールフォータスの従者、グレイス=アルスロンは追放された魔術師。男としての魔術師の能力では満足できず、魔女の力にまで手をのばして追放された異端者』
『先ほどの魔法、心罰獣化は魔禁法ではなく、正確には外法の一つで、グレイス=アルスロンは所有している魔禁法にその下法を組み込むことでその魔法を使うことができる』
『心罰獣化は厳密にいえば、喰らわせた相手をその生物ならざるものに変える秘術』
『私の場合は私の詠唱伐採によってその効力がねじ曲がり、体の中で反発が起きた』
『レイン侵食率…98%』
魔力による一方通行の通話だった。
二人の、ルールフォータスとグレイスの脳内に直接言葉を叩き込んでいるのだ。
いったい誰が。
一人しかいない。
一人しかアリエナイ。
それ以外は許させない。
この絶対的状況を覆されるのは、
それは―――――、
「まったくッ、死ぬかと思ったよッ!あーもー!!、むっかつっくぅーー!!」
彼女は言う。
場に訪れたのは静寂。
心に訪れたのは脅と驚。
死んだ、いや、完全なる死を迎えたクレアが、
『「 《生きている》!? 」』
ルールフォータスは目を見開き、驚嘆を隠せない様子だった・
グレイスは―――、彼も同じく、言葉を失っていた。
「どうして心罰獣化が効いていない。確かに喰らわした。あの状況からの逆転劇などアリエナイ、許されない」
彼は聞く。
「私も初めはそう思った。だけどそうじゃないんだよッ。
あなたの合成魔法より、私の純然たる魔法、そう、魔禁法のほうが強いのよ。
優先度は私のほうが上だった。
外法を組み込んだ合成魔法程度に人間本来に備わる魔法、魔禁法が、
破れるわけがない。
つまりは、《上からの強魔法による《上塗り》》よッ。
私は私自身を私の魔禁法支配によって塗りつぶしたッ!!!!!」
――――代償は、それなりに大きいものを払ったけれどね。
「まさか、強制塗換の性質をはじめから含んでいたというのか。だが、
それはせいぜいその場しのぎでしかない。
少なからずの『代償』を払ったはずだっ!!」
「ええ、だから《私》は『人間』の『部分』を捨てて、『支配』という魔禁法を自らにかけ、『人』という『性質』を『再変換』して、『存在』と成った。
それが、
『『『『『代償』』』』』
よッ!!!!」
「ハッ、」
シニカルに、彼女は笑う。
彼女は笑って見せる。
彼女が、クレアがここで死ぬわけがない。
死とは絶望。絶望とは死。
絶望を味わった彼女に死は訪れない。
訪れれない。
不可能。
彼女は今、『絶望』を『絶望』した。
彼女の瞳は悦に浸っている。
彼女の唇は弧を描いて、自信に満ち溢れている。
唇は唾液で艶かしく紅。
こうして、こうして
人間としてのクレアは死に、死んで、死亡した。
さぁ、これから始まるのはクレアの物語。
人間としてではない、
悲劇なのかもしれない、
死して生きる存在としての物語。
ここから始まる。
ここまでがプロローグ。
所詮序章。
所詮序曲。
所詮伴奏。
所詮遊戯。
起承転結の起さえも通過していない。
所詮、今までの彼女は今の彼女の代替品でしか、
なかった。
代替品としての彼女の物語は終幕して、
エピローグが終わり、
起承転結の結で締めくくられた。
拍手喝采。
荒唐無稽の物語。
だが、
ここからが本編。
プロローグで満足してはいけない。
本編を見ずにして去っていはいけない。
登場人物はまだ一人しか出てこない。
今までのは全て脇役。
ルールフォータスやグレイスでさえも同じ。
背景で使われるようなただの、
モブキャラクターでしかない。
主役は彼女。
こなせるのも彼女。
だからさっさと始めようか。
残酷で虐殺で愉快で悦楽で恍惚で傲慢で欲望に満ちた、
『物語』と『大団円』を。
この程度の展開で、
彼女が了訳がない。
叫ぶ。
喜ぶ。
狂喜に至れ。
充ち充ちろ。
紅色の眼が笑う。
恢這の眼。
恢這の魔眼。
「 さぁ、始めようか。
まずは、 絶倫的な、
殺戮劇から。
楽しもうか。 」
加速する。
やはり彼女は、、、、、、、、
『笑って』いた。