「友人」には二種類ある、一つはその場限りのつきあいの…、もう一つは未来永劫の…、親友。
《登場人物失格》
それは血。
理性を掻き乱すオブジェクト。
ルールを打ち砕く。
自らの。
彼女の瞳。
目の中央の黒が広がる。
おそらく、今この刹那で彼女はさようならを言っている。
ぴしゃっ――、
頬をかるくたたく血。
飛び散って耳まで達した。
瞳に彼女の顔が映る。
分度器があればおそらく三十八、二度の傾き。
三十六、三十五、三十―…。
マイナス一、マイナス二…。
ラジアン表記なら…。
ゴツンッ と地面と何かが接触する音がした。
骨と地面との待望の面会。
思った以上に甲高い音が、
した。
彼女を構成するオブジェクトが崩れる。
ぐちゅ、ごきゅ、くしゅ、ぶしゅ、ぶしゅ、
gはぐあhgろghんjkfbんjfごいいうあrがりgはがgはjgkbvじゃぐあhごらghgjbgjghsjぐfsghすgんrjgkrgふfgdfふgjg。
音にならない。
え、何勝手に死んでるの?
ねぇ、ねぇッ!
心では悲痛な叫びをいくらでも上げれる。
でも、口で、喉で、音が出せない。
しゃべれない。動け――動け、口。
空気を振動させて音を伝えろッ!
だめだ、できない。
どうして、
友人が死んだのに。
まず、眉から上がスパンと切断された。
次に首。
右肩、左肩、右足、左足、胸、へそ、が切断されて、細切れに、
なった。
断面が、きれいすぎる。
真新しい鮮血が吹き出ている。
痛みはなさそう。
蓋のあいた頭から脳味噌が どちょっ と零れる。
何アレ、脳髄ってこんな色、脳汁ってこんなの、
落ちた衝撃で転がって、脳をつないでいた神経が切れて、
脳味噌が足元にまで転がって、靴と接触する。
ぴしゃっ
脳汁が足にかかる。
キモチワルイ。
友達なのに、
『友達のモノなのに』
いや、いや、いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいっ
胸を締め付ける苦しい感覚。
胸糞悪いッ
身体の中心の消化器官がキュウと締め付けられたような感覚。
何ッアレ。
目の前には、へそから切断されて内容物が出た友人が。
小腸が素敵にだらけて外に外出している。
大腸の一部が切れて、く、糞が散って、
胃が、見える。
思わず濁流が逆流して喉に押し寄せてくる。
ゴックン
酸い胃液を無理に飲み込む。
喉のあたりがもやもやする。
血が染み出てる。
ぶぁしゅんっ
一つ、『友達のモノ』が減った。
足元にあった脳味噌。
あれが爆発した。
無数の破片が私に降りかかる。
いやぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
『汚い』『汚い』『汚い』『汚い』『汚い』『汚い』『汚い』『汚い』『汚い』『汚い』
口の中に破片がはいっ。
噛むとぶよっ として、『きもちわる』い。
嘔吐感をもよおす。
視線を感じる。
目をあげると、目と目があった。
彼女の首から眉までしかない顔についてある両目と。
そこには、二つの彼女の瞳には、
私が映っていた。
や「お゛う゛ぅぅえ゛えええええええええええええええええええええええッッッッ!!!!!!!!!!!!!!」
たまらずクレアは嘔吐した。
今日食べたモノ全てを吐いた。
胃で消化したモノが食道に刺激、痛みを与えながら逆流し、そのままソレを地面にたたきつけた。
なみだが出る。
脳がグチャグチャとして、思考できない。
クレアは人生に絶望した。
………
十分後、
彼女は立っていた。
ナオの肉片の向こう側に。
向かいの地面には吐いた跡がある。
「バイバイ、ナオ。今までありがとう」
クレアは決断した。
ナオの死を受け入れて、乗り越えた。
いや、許容した。
自らの許容量の中に無理やり当てはめて。
彼女は歩きだす。
その顔はもう、苦痛に歪んではいなかった。
だが、幾重の涙の跡はあった。
だが、今は泣いていない。
その歩には一つの確固たる信念が込められている。
絶望はした。
一度でいい。
絶望はした。
二度はいい。
これ以上のことはもうない。
だから、歩く。
「あ、そうだったねッ、Happy birth day Nao.」
今日はナオの誕生日だった。
もう彼女は振り返らない。