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【中編】「お姉様はいつも私の邪魔をしていましたわ!」と言われて婚約破棄されたので、私の真の力をお見せしますわ!〜陰ながら聖女である妹を支え続けた結果、断罪の場で正体が発覚しました!?〜

作者: しろ
掲載日:2026/08/03

 聖女として大聖堂に迎えられて数日、平穏な日々もそう長くは続かなかった。聖女としての公務にもようやく慣れ始めた頃、想定外の来訪者が現れたのである。


「クロエ........話がある」


 大聖堂の扉を押し開けて現れたのは、かつての婚約者セドリック殿下だった。護衛も連れず、単身で乗り込んでくるとは、随分と大胆な行動である。


「あら殿下........本日はどのようなご用件で? まさか、また証拠もなく何か断罪なさりにいらしたのかしら」


 皮肉を込めて出迎えると、セドリック殿下は分かりやすく肩を震わせた。かつての威勢はどこへやら、随分と気弱な様子である。


「い、いや、その........以前のことは謝罪する。私が浅慮だった........」


 殊勝な態度で頭を下げるセドリック殿下に、わたくしは内心で小さくため息をついた。前世でも今世でも、こういう手合いの謝罪には嫌というほど覚えがある。


「あら、随分と素直でいらっしゃること。それで.......謝罪の後には何をお求めですの?」


「な、なぜ何かを求めていると決めつける......!」


「殿下がわざわざ大聖堂に単身でいらっしゃる時点で、無心以外の理由が思いつきませんもの」


「そ、それは邪推というものだ」


「邪推かどうかは、これからのお話次第ですわね。それとも、本当に何も求めず、ただ謝罪だけのためにいらしたのかしら?」


 「........っ」


 わたくしがじっと見つめると、セドリック殿下は分かりやすく視線を泳がせた。噓が下手なところだけは、婚約者だった頃から変わっていないらしい。


 ---


 図星を突かれたらしいセドリック殿下は、しばらく黙り込んだ後、ようやく本題を切り出した。


「実は、王家の威信を保つため、聖女との結びつきを改めて示す必要があってな.........婚約を、もう一度考え直してもらえないだろうか......?」


「あら、随分と回りくどい言い方をなさいますこと。要するに、聖女の婚約者がいるという肩書きが欲しいだけですわね?」


「そ、そんなことは……!」


「否定なさるなら、王家の威信とやらを持ち出さず、素直な気持ちだけを仰ってくださいませ。それができないということは、答えは出ておりますわね」


 淡々と切り返すわたくしに、セドリック殿下は反論の言葉を失った。


「い、いや、その、実際のところ、多少は王家の事情もあるが、私個人としても、その........」


「殿下、言葉を濁されますと余計に信憑性が薄れますわよ?」


「うっ……」


「そ、それでも.....! かつては婚約をしていた仲ではないか.....!? 多少の情はあるだろう......?」


「情、ですって? 証拠もなく修道院送りにしようとなさった方の口から、随分と都合の良い言葉が出てまいりますのね」


「........あれは、その、状況が――」


「状況のせいになさるのは、もう聞き飽きましたわ。前回も同じ言い訳をなさっていた気がいたしますけれど?」


「き、記憶力がよろしいのだな」


「私、いい性格をしてる女ですので、都合の悪いことほど、よく覚えているものですのよ」


 ---


 そんな押し問答の最中、大聖堂の入り口から静かな足音が近づいてきた。


「――クロエ様、何かございましたか」


 現れたのは、聖女の護衛として新たに任命された騎士ガイウスだった。鍛え上げられた体躯と落ち着いた物腰が印象的な青年である。


「あら、ガイウス........ちょうど良いところに」


「殿下がお一人でこちらに、と伺いましたので、念のため様子を見に参りました」


 セドリック殿下は、突然現れた騎士に明らかに動揺していた。


「な、なぜ護衛の騎士がここに.......!?」


「聖女様の護衛は私の役目ですので。それに――」


 ガイウスは静かにセドリック殿下へと視線を向けた。


「証拠もなく断罪した過去のある方が、単身で聖女様に接触なさるのは、いささか不自然に思いましたので」


 冷静な指摘に、セドリック殿下は言葉を失った。


「わ、私はただ、話をしに来ただけなんだ.......!」


「話の内容次第では、看過できかねます。聖女様に無用な負担をおかけするようであれば、然るべき対応を取らせていただきますので」


 淡々としながらも有無を言わさぬガイウスの物言いに、セドリック殿下はたじろぎながら一歩後ずさった。


「わたくし、随分と頼もしい護衛をいただいたようですわね?」


「クロエ様のためとあれば、当然のことです」


 さらりと返されたガイウスの言葉に、わたくしは思わず頬が緩むのを感じた。前世でも今世でも、こういう不器用な誠実さには弱いものである。


 ---


「そ、それでも.......! 婚約の件は正式な話に違いない! 神官長にも掛け合わせてもらうぞ!」


 なおも食い下がるセドリック殿下に、わたくしは呆れを隠さず答えた。


「あら、その神官長様なら、ちょうど今こちらにいらっしゃいますわよ?」


 タイミングよく大聖堂の奥から現れた神官長は、事情を聞くなり、厳しい表情でセドリック殿下に向き直った。


「殿下、聖女様は既に教会の庇護下にございます。過去に証拠もなく断罪なさった方との婚約を、教会が認めるとお思いですかな?」


「し、しかし、王家の意向というものが――」


「王家の意向と、教会の権威、どちらを優先すべきか、殿下ならばご存知のはずですが.......」


「........っ!? そ、それは……!」


「加えて、聖女様への不当な扱いが公になれば、王家の威信もまた損なわれることになりましょう。それこそ、殿下が本来避けたかった事態ではございませんか」


 有無を言わさぬ神官長の圧に、セドリック殿下はついに反論の材料を失った。


「殿下........これ以上の無心は、聖女様への不敬とみなされかねません。本日のところは、お引き取りいただきたく存じます」


「くっ……分かった、今日のところは、な!」


 捨て台詞を残して大聖堂を後にするセドリック殿下を見送りながら、わたくしは小さく息をついた。


 ---


「クロエ様、大事はございませんでしたか」


 心配そうに尋ねてくるガイウスに、わたくしは微笑んで答えた。


「ええ、皆様のおかげで助かりましたわ。それにしても、殿下も随分と往生際が悪くていらっしゃること」


「証拠もなく断罪した方から都合よく復縁を求めるとは.......いささか虫が良すぎますね」


「同感ですわ。次にいらした時は、もう少し手厳しく追い返してくださいませ」


「クロエ様のご意向とあらば、喜んで」


 生真面目に頷くガイウスの様子に、わたくしはとうとう笑いを堪えきれなくなった。


「ど、どうしたのですか!?」


「あまりにもガイウスが、忠実でいらっしゃるんですもの.........他の護衛の方々とは、少し毛色が違いますのね」


「クロエ様の護衛という役目に、誇りを持っておりますので」


「まあ、それは光栄ですこと。ちなみに、その誇りとやらはどこまで続くものかしらね」


 からかうように問いかけると、ガイウスは珍しく言葉に詰まった。


「そ、それは……クロエ様が望まれる限り、いつまでも」


 不器用な言葉に、わたくしは思わず頬を緩めた。断罪の場から始まった数奇な人生は、こうしてまた一つ、賑やかな出会いを重ねていくらしい。


「――さて、次はどのような騒動が待っているのかしら.......?」


 不敵な笑みを浮かべるわたくしを、ガイウスはどこか眩しそうに見つめていた。その視線の意味に、わたくしはまだ半分も気づいていなかった。

 最後まで読んでいただき、ありがとうございます! 

 もし少しでもスカッとしたり、きゅんとしたりしていただけましたら、評価ポイントとブックマークをいただけると、次の話を書く一番の励みになります!


「ガイウスいいキャラしてる」「セドリックのまだ懲りてない感じ好き」などなど.....感想コメントもお待ちしております!


 ガイウスの想いの行方や、聖女としての新たな試練など、まだまだ書きたいことがございます。よろしければ作者フォローもしていただけると幸いです!


 それでは、また次のお話でお会いしましょう!

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