第62話 1536年 6際 九島兄弟を探せ!だぞ
前回のお話で、
蠣崎氏との戦いは一段落しました。
でも問題はまだ山積みです。
――九島兄弟が、見つかっていない。
というわけで今回は、
「九島兄弟を探せ!」回です。
九島二郎に渡した地図には、
蝦夷地の港がいくつか記されていた。
小樽港。
江差港。
函館港。
釧路港。
この中で――
蠣崎氏の勢力圏外で、
かつ港同士が近く、
冬を越さずに動ける南側となると。
選択肢は一つしかない。
江差港だ。
江差へ向かう船の上。
九島は不安そうな顔をしていた。
対照的に、安田はやけに明るい。
俺
「安田。舟酔いは大丈夫か?
松前じゃ大人しかったな」
安田
「若様のおかげでピンピンしております。
この蝦夷地が、若様の天下統一の第一歩だと思うと
嬉しくて」
俺
「アイヌってな、男でも耳に穴開けて
耳飾りするんだぞ。
安田もやってみるか?」
安田
「耳に鈴を付けたら、
うるさくて眠れないじゃないですか?」
俺
「神社の飾りじゃない。
鈴は付けない。
鉄とか、そのままの輪だ」
安田
「……威厳がなくなるので、やめておきます」
威厳、気にしてたのか。
そんな話をしているうちに、
江差港が見えてきた。
港には――
長尾家の旗を掲げた弁才舟が一隻。
少なくとも、
九島兄弟の誰かは無事だ。
全員無事でいてくれ。
座礁を避けるため、
小型舟を降ろして接岸する。
上陸するのは――
俺、九島、島田、水斗、安田、赤目滝。
残りは非常時に備えて待機。
「兄ちゃーーーん!」
次女・**時香(六歳)**が、
全力で駆けてきて――
長男・九島弥太郎に抱きついた。
ぴょんぴょん跳ねて、大喜びだ。
弥太郎
「皆、無事か?」
時香
「無事だよ!
兄ちゃん聞いて!
すっごく大変で――」
途中で、
弥太郎の目から安堵の涙がこぼれた。
それを見て、時香も泣く。
つられて、安田も泣く。
……お前はいいんだよ。
「実秀様〜!」
別方向から声。
安田
「おー!
お前たちも無事だったかー!」
蝦夷地派遣組の十人だった。
いつの間にか交代要員も降りてきて、
親、兄弟、友人同士の再会が続く。
港は、涙だらけだ。
安田の顔も、ぐしゃぐしゃ。
そこへ、
長女・逸香がやってきた。
逸香
「若様。
来ていただき、本当にありがとうございます」
俺
「他の兄弟は?」
逸香
「三郎、四郎、六郎、七郎は
もう一隻で、アイヌの村を回って
取引に行っています」
そして続けて、
逸香
「若様。
エサシコタンの村長をご紹介します」
俺
「……通訳は?」
逸香
「少しなら、私でも」
嫌な予感がした。
いつの間にか甘粕と直江も降りてきており、
なぜか直江が号泣している。
直江、
お前はそういうキャラじゃないだろ。
聞けば、
直江には弟がいて、
跡継ぎ問題で色々あったらしい。
……今日は泣く日か。
九島弥太郎は、
相変わらず時香に絡まれている。
いい兄だ。
後回しにしよう。
泣いている安田と直江も後回しだ。
俺、甘粕、逸香で
村長に会いに行く。
逸香
「来たよー」
(アイヌ語)
村長
「おー、逸香か。
入れ入れ」
(アイヌ語)
逸香は俺を指さす。
逸香
「この人、一番偉くて
神の声、聞ける。
若いけど」
(アイヌ語)
村長
「それは凄い。
今、神様は何と言っている?」
(アイヌ語)
逸香
「聞く」
(アイヌ語)
……待て。
逸香
「若様。
村長が、神様は何と言っているかと」
俺
「ちょっと待て。
どうしてそうなった」
考える暇もない。
俺
「村長に、
俺たちに優しくすれば
良いことがあるって
神様が言ってると伝えろ」
逸香
「私に優しくすれば
良いことあるって」
(アイヌ語)
……違う。
村長は逸香の頭を撫で、
肩を揉み、
満足そうに俺を見る。
俺
「逸香。
多分だが――
お前のアイヌ語、
正確に伝わってない」
逸香
「えっ?」
仕切り直す。
俺は
越乃柿酒と蜂蜜を取り出した。
俺
「これを飲んで、舐めて、
味見してって伝えろ」
逸香
「これ舐めろ。
これ飲め」
(アイヌ語)
村長、
柿酒を舐め、
蜂蜜を飲んでむせる。
俺
「それは贈り物だと伝えろ」
逸香
「これやる」
(アイヌ語)
……やっぱり、微妙だ。
俺
「逸香。
もういい。
俺達が帰るって言え」
逸香
「帰れ」
(アイヌ語)
村長、立ち去る。
俺は頭を抱えた。
逸香は確実に受け入れられている。
だが――
通訳ができない。
これは致命的だ。
どうする。
そこへ、
九島弥太郎が来た。
時香が、まだまとわりついている。
俺は二人から少し離れ、
小声でこの件を弥太郎に話す。
俺
「通訳がいない。
どうする」
弥太郎
「若様、申し訳ございません。
逸香も、お役に立ちたい一心で……」
俺
「責めてない。
解決策だ。
何かないか」
弥太郎
「……明日、三郎たちが戻るそうです。
通訳問題を解決したから、
別の村へ行ったのだと思います」
俺
「……なるほど」
弥太郎
「通訳の件は、
三郎に聞きましょう」
――希望は、そこにあった。
逸香、悪気はありません。
ただ――
翻訳精度が致命的でした。
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