第61話 1536年 6歳 蠣崎氏との戦闘だぞ
前回、蠣崎氏の手下を排除した。
だが、それで終わるほど蝦夷地は甘くない。
今回は、その“続き”である。
俺は兵士に死体を片付けさせ、
先ほどオトリに使った商品も舟に戻すよう指示した。
甘粕や直江に向き直る。
俺
「……あいつら、今ごろ兵士を集めて戻こちらに戻って来る。
ここにいるのは三十人。
おそらく五十人ほど揃えて来るだろう」
地形はT字になっていた。
俺たちは、T字の水平線と垂直線が交わる地点にいる。
敵は垂直線――
つまり海岸へ通じる一本道を通ってくる。
俺
「両側面から弓攻撃をしたい。
あの右の建物と、左の建物。
二階をこれで“強制的に”借りろ」
そう言って金銭を出す。
俺
「相場の三倍出してやれ。
借りたら、蠣崎氏に連絡しないよう見張りを付けろ。
リンと仁は半弓で、各二十名ずつ連れて行け。
敵の姿が見えるまで隠れていろ。
弓の発射は、俺の合図があるまで待て。
甘粕と直江は騎馬隊を率いて、
ここから狼煙が見えるギリギリまで離れろ。
島田と水斗は俺と中央だ。
中央は二十名。盾と半弓を用意しろ。
舟の連中は、俺の合図で降りて来い。
――蠣崎氏を、引き付けるだけ引き付けてから討つ」
「それでは、各自準備してくれ」
赤目からの報告を待つ。
しばらくして赤目が戻り、
「一時間ほどで、五十名ほどが到着します」
とのことだった。
夕方から夜の戦闘になる。
松明を大量に用意させる。
やがて――
蠣崎氏が、兵士五十名を率いて現れた。
視界に入った瞬間、狼煙を上げる。
舟にいた兵士たちも、次々と降りて来る。
蠣崎氏
「この糞餓鬼が!
覚悟しやがれ!
この人数相手じゃ、手も足も出ないだろ!」
……かなり間抜けな悪役台詞だ。
しかも、連れているのは
兵士というより、ただのゴロツキ。
俺
「おい。周りをよく見とけ」
そう言って、手を振り下ろした。
両側面から、弓矢の一斉掃射。
二階という高所。
視界は良好、射程も伸びる。
後方の連中が、次々と倒れていく。
そこへ――
後方から甘粕と直江の騎馬隊が合流。
抜刀。
次々と始末していく。
弓隊は、逃げる敵への射殺に切り替え。
前方では島田と水斗が、
練習とばかりに斬っている。
他の者たちも、
負けるものかと斬りまくる。
――生き残りは、ほぼいなくなった。
青ざめる蠣崎氏。
俺
「さて、蠣崎氏。
お前が生き残る道は一つだけだ。
蝦夷地の権益を、すべて長尾家に譲渡する。
その契約を結べ。
どうする?
俺としては……斬った方が楽だが」
蠣崎氏
「ぜひとも蝦夷地を若様に献上させて下さい!
邸宅も、何もかも差し上げます!
どうか、命ばかりは……!」
話は早い。
契約書にサインと花印をさせ、
蠣崎の邸宅へ向かう。
蠣崎氏は家族と共に、どこかへ去った。
……どうせ、俺たちが去れば戻って来るだろう。
とりあえず、死体を片付けさせる。
舟に残っている兵士、約二百四十六名を町民に見せつけ、
支配者が変わったことを知らせた。
町民を中央に集める。
不安そうな空気。
俺
「聞いてくれ。
俺の名は上杉龍義。
長尾家、守護大名の孫だ。
悪政を敷いていた蠣崎氏は去った。
これからこの町は、越後・長尾家が管理する。
質問はあるか?」
町民
「……儂らは、これからどうなるのでしょうか?」
俺
「どうもならない。
今まで通りの暮らしを続ければいい。
ただ一つ違うのは――
蠣崎氏のように、
アイヌに不公平な取引を強いることは許さない」
町民
「それじゃ、俺達が損するだろ!」
俺
「損はしない。
聞くが、今まで取引の舟は、どれくらい来ていた?」
町民
「年に一度……五隻か六隻です」
俺
「長尾家は、今回七隻。
しかも西洋帆船だ。
荒波にも逆風にも強い。
この蝦夷地の海でも沈まない。
今後は最低でも、年二回。
七隻以上の船団で来る。
……どうなる?」
町民
「……俺達、儲かります!」
俺
「だろう?
だからアイヌには、
たくさん商品を持って来てもらわないといけない。
蠣崎氏みたいに、アイヌをいじめたらどうなる?」
町民
「商品が来なくなって……俺達が損をする!」
俺
「分かったか?
お前たちの暮らしを良くするのは、長尾家だ」
――大歓声。
町民
「臨時の税や労役は?」
俺
「税は、今のところ考えていない。
労役は死体処理、港の修理と拡張だ。
――賃金は出す」
拍手喝采。
町民は、よほど苦しんでいたのだろう。
すでに鍋を借り、
町で食材を大量に購入し、調理させていた。
俺は合図を出す。
俺
「俺たちが作った料理だ。
米も酒も肉もある。
腹いっぱい食え」
宴が始まった。
もちろん、夜襲に備え、
一部の兵は臨戦態勢だ。
……すまんな。
翌日。
甘粕、直江と打ち合わせ。
甘粕
「蝦夷地実効支配の、第一歩ですね」
俺
「俺たちが去れば、蠣崎氏は必ず戻る。
兵を置く。
安田の五十名は交代要員だから使わない。
今回の二百名から、百名を残したい。
希望者を募れ。
寒冷地手当、月四百文。
食事は一日二回だ」
二人は頷き、隊へ戻る。
俺は九島と町へ向かう。
俺
「九島。
蠣崎氏の商人を大半切った。
商人が足りない。
何人残せば回る?」
九島
「……四人いれば何とか」
俺
「兵百名を置く。
蠣崎氏が攻めて来ても大丈夫だと説明してくれ」
町民に倉庫へ案内される。
倉庫三軒分。
蝦夷地の商品が山積み。
船二隻分はある。
所有者を聞く。
――蠣崎氏。
ありがたく、全部いただいた。
松前砦(旧・蠣崎邸)へ戻ると、
甘粕と直江が二人の兵を連れて来た。
甘粕の兵
「栗山です」
直江の兵
「角です」
俺
「どちらが隊長だ?」
甘粕
「まだ決まっていません」
俺
「聞く。
隊長になった場合、
攻撃と防御、どちらに重点を置く?」
栗山
「防御です」
角
「攻撃です」
俺
「……栗山が隊長だ。
ここは拠点防衛が仕事だ。
防御重視が正しい。
松前砦を本拠に、
狼煙が見える範囲に別の砦を築け。
角は副隊長。
後方攻撃を担当しろ。
騎馬隊も預ける。
栗山六十、角四十。
半年後に交代を送る。それまで頼む」
倉庫の商品を積み込み、
水と食料を補給。
俺たちは出航した。
戦は、斬って終わりではありません。
支配とは、そこから始まるものです。
次は、蝦夷地をどう“生かすか”の話になります。
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