第252話 1540年 10歳 武田信玄登場だぞ(④ 武田信玄の一夜返し)
武田信玄が『飯富虎昌』、『甘利虎泰』に言う。
武田信玄「作戦名は『一夜返し』だ。敵が我々に勝利して宴をしている所を奇襲して離脱する。部隊は騎馬三百名のみで急襲する。そこで『海野幸義』の首を取る。
その後、奇襲なのだから馬の足を利用して即離脱だ。」
『飯富虎昌』、『甘利虎泰』もびっくりの策だ。
飯富虎昌「・・・成功しますか?」
武田信玄「成功する。
今までの歴史上、地獄のような殿をつとめた軍が再度地獄に舞い戻るような作戦を立てた者はいない。
敵はこれだけの大勝の後は必ず油断している。」
『飯富虎昌』は兵士や馬を選抜して説明する。
兵士もびっくり、馬もびっくりの策だ。
<夜の気配>
夜目の効く軒猿を先頭にして、馬足を調整しながら『海野幸義』の居城へ向かう。
日中に馬の足を消耗している。
馬の足を残しておかないと、帰りに馬が動かなくなる。
夜一時位に『海野幸義』の居城に着く。
遠目には兵士がまだ酒を飲んで騒いでいる様子が見える。
武田信玄達は旗や松明を多く立て、夜目で大多数で奇襲に来たように擬制する。
夜三時、
武田軍兵士三百名が『海野幸義』の居城に襲いかかる。
しかし、酔って転がっているはずの兵が一人もいない。
風に乗ってくるはずの酒と汗の匂いがない。
代わりに、鉄と油の匂いが鼻を刺した。
違和感。
奥の部屋から、鉄が擦れる乾いた音。
完全武装の兵が並んでいた。
『海野幸義』の他に、『高梨政頼』、『村上義清』、『竹俣清綱』の姿が見える。
武田信玄が戸惑う。
しかし、すぐ判断する。
武田信玄「撤退だ。全速力で逃げろ。馬足を残すな。馬が潰れたら各自走って逃げろ!!」
<緊迫>
武田信玄、『飯富虎昌』、『甘利虎泰』達の背後から鉄の足音が迫る。
振り返れば死ぬ。
誰も振り返らなかった。
武田軍奇襲部隊三百名のうち二百名は討たれ、
武田信玄、『飯富虎昌』、『甘利虎泰』は這々の体で、朝方にやっと諏訪の陣地に帰る。
武田信玄は怒りに震える。
そして『飯富虎昌』、『甘利虎泰』に下知する。
武田信玄「絶対に成功するはずの一夜返しが失敗した。必ず何か裏がある。調べろ。武田軍の将来に関わることだ。全力で調べろ」
一方、武田軍の去った後の『海野幸義』の居城では――
村上義清「龍義殿の言った通りになったの。
我々が大勝した後の宴のときに武田軍は奇襲に来る」
高梨政頼「親戚だけど不思議に思う。今回指揮を取ったのは武田信玄という若造で、ほぼ初陣。龍義殿はなぜわかる?」
竹俣清綱「何を今更、忘れたのか? 若様は神の声が聞こえるのだぞ」
村上義清「儂は、今後絶対に龍義殿に逆らわん。そしたら龍義殿から許しが出ている事をせんといかんなー。今からやるぞ」
高梨政頼「夜中だけど、やるぞ。儂が勝つ」
海野幸義「お二人はこれから何をされるので?」
村上義清 高梨政頼「飲み比べじゃ」
竹俣清綱「儂も飲む」
村上義清「越後の高い酒を持って来い。あるだけな」
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