第251話 1540年 10歳 武田信玄登場だぞ(③ 武田信玄、父に見捨てられて初陣が地獄になる)
武田軍八千。
海野軍が二千。
戦場は小県郡・海野平。
千曲川沿いに広がる信濃東部の要地である。
武田信虎が軍議を開き、重臣に言う。
武田信虎「海野が二千とは哀れな事よ。これで戦いになると思っているとは愚かな」
板垣信方「信濃北部連合の後詰はどうなっておるか? 軒猿を走らせてもよろしいですか?」
武田信虎「既に走らせておるわ。村上義清も高梨政頼も、自分の軍勢を城に入れて防衛させているということよ。何じゃあの信濃北部連合というのは名ばかりだの。そうであろう」
家臣一同笑う。
武田信虎「一同かかれ」
陣太鼓や法螺貝が鳴り響き、武田軍は海野に襲いかかる。
武田軍の兵士「殺せーー」「やってしまえー」と威勢が良い。
その時、背後の丘陵から無数の鬨の声が轟いた。
武田信虎の顔が青ざめる。
手が震え、杯を落とした。
重臣が慌てふためく。
背後から信濃北部連合一万五千が現れたのだ。
板垣信方「おい、信虎様の所に報告に来た軒猿はどうなっている? 全員帰ってきているのか?」
兵士が調べる。
兵士「後方に放った軒猿は、全て帰ってきておりません」
情報戦で武田は負けたのだ。
板垣信方は武田信虎に言う。
板垣信方「図られました。一点突破で脱出すれば、今の段階なら被害は最小限に抑えられましょう。お館様、ご決断を」
武田信虎は顔面蒼白だ。
頭は既に、被害がどの程度までいくか計算している。
武田信虎「・・・・撤退しろ。殿は武田信玄(晴信)に任せよ」
この場合の殿は、ほぼ死ぬ。
武田信玄、このとき十九歳。
父親の「死ね」と同義の命令に、
武田信玄「承知しました」
武田信玄を次のお館と考えている『飯富虎昌』、『甘利虎泰』、『板垣信方』は焦る。
板垣信方「儂が信虎様に取り成す。飯富虎昌、甘利虎泰は信玄様を守れ」
飯富虎昌、甘利虎泰「心得た!!!」
『飯富虎昌』、『甘利虎泰』は、十九歳という若さで父から死ねと同義の命令をされたのだ。
励ますつもりで武田信玄の所に行く。
『飯富虎昌』、『甘利虎泰』は武田信玄に、殿を手伝う旨を伝える。
武田信玄はニッと笑い、
武田信玄「俺に考えがある。殿でも死なない。俺の命令に一寸の狂いもなく従え」
<緊迫の撤退戦>
武田軍八千対、信濃北部連合一万五千の追撃戦が始まった。
信玄に与えられた兵士は千人だ。
殿としては比較的多い人数をもらえた。
信玄の作戦はシンプルなものだ。
殿として一万五千人の圧力を全て抑えようとすれば、全滅は間違いない。
<通常の殿>
武田軍守られる
|(通常の殿 )|
| 道の全てを |
| 塞ぐ |
| ↑ |
信濃北部の圧力
信玄の作戦は、道の一部分だけを防ぎ、信濃北部軍を通すのだ。
ある程度通したら、信濃北部連合の側面を撃つ事ができ、
流れを遅くすることが出来る。
言い換えれば、味方を餌にして、敵が側面を晒してくるのを攻撃するのだ。
<信玄の殿>
武田軍の一部分だけ守られる
|(信玄の殿) ↑ |
| 道の一部 ↑ |
| のみ塞ぐ ↑ |
| ↑ ↑ |
信濃北部の圧力
しかし、言うは易く行うは難しの典型のような戦術だ。
武田信玄、『飯富虎昌』、『甘利虎泰』は何度も死にそうな目にあい、
互いを励ましあいながら撤退戦をこなした。
追撃戦は武田家占領の諏訪まで続いた。
武田軍は三千やられ、残存五千人となった。
<不気味な一言>
武田信玄、『飯富虎昌』、『甘利虎泰』は、ひょうたんの水をがぶがぶ飲み、
ぷはーっとする。
生きたという実感が湧く。
『飯富虎昌』、『甘利虎泰』は、戦の歴が浅い武田信玄が、
歴戦の自分達でも思いつかないような作戦を立て、実行したことに興奮を覚える。
武田の未来が見えた気がした。
『飯富虎昌』、『甘利虎泰』が武田信玄に声をかけようとした。
逆に武田信玄から声をかけられる。
武田信玄「おい、飯富虎昌、甘利虎泰、武田の勝ちを取りに行くぞ!!
今から出る用意しろ。」
飯富虎昌、甘利虎泰「??????」
今、命からがら逃げ延びたばかりだ。
それなのに「勝ちを取りに行く」とは――意味が分からない。
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