第245話 1540年 10歳 ドジ忍者蛍の細腕繁盛記(その3 蛍対インチキ行者)
社内での地位も少し上がってきた蛍。
でも居眠りして、よだれを垂らす蛍。
見れば仲間が一人。取立課のお天係長だ。
皆が見て見ぬ振りをする。
二人のいびきが、社内で二重奏を奏でる。
この雰囲気に我慢の限界を超えたお蝶課長。
お蝶「部長、お得意様周りに行って来て下さい。ほら、お天、貴方が部長に教えてあげて」
蛍が寝ぼけ眼をこする。
口元には盛大によだれの跡。机の上はよだれの海である。
お蝶が手拭いを蛍に渡し、
お蝶「部長、口元拭いて下さい。赤さん、秘書なんだから部長が寝てたら起こして下さい」
赤「ハイ(蛍、お前のせいで怒られたじゃねーかー)」
蛍が口元を拭いていると、お天も眠そうだ。
蛍「ハイ、お天も顔拭いたら」
お蝶の手拭いを渡す。
たっぷりと蛍のよだれがついている。
お天(こんなので顔が拭けるかーー)
後で、お蝶課長に洗って返そうと思うお天であった。
お天は身支度を整え、蛍を連れて、
お天「行って来ます」
二人が出て行った後、盛大にため息をつくお蝶課長。
横を見れば、取り立て回収額でダントツトップの成績の蛍。
お蝶(これがなければ越後に叩き返すんだけどね•••••)
<揺れる外回り>
外に出て、派手に伸びをする蛍。
蛍「あーよく寝た。でも、お天まで寝ているなんて珍しいね」
お天「•••••実は父親の調子が悪くて、帰ったら朝まで看病していて、夜はほとんど寝ていないんです」
蛍が同情する。
蛍「•••••そしたらお父さんに精が付くもの買うから、これから買いに行こうか」
お天が蛍の優しい言葉に感動する。
お天「良いんですか?」
蛍「良いよ。ついでに美味しい物でも食べよう」
お天「•••••えっ私、お金が」
蛍「いいって、奢るよ」
お天「ありがとうございます」
蛍「カズから教えてもらった店行こう」
お天「ハイ」
たらふく食べて、精がつくうなぎやドジョウを買い、お天の家に行く。
蛍「お邪魔しまーす」
中に入ると、お父さんが布団に寝ていて、行者が南無南無言って、気合いを入れた後、お父さんにゴマ二粒与え、
行者「エイ、エイ」
気合いを入れる。
お天「ありがとうございます」
お天が行者に百文渡している。
流石の蛍も高額の支払いに驚く。
行者が帰った後、お父さんに挨拶する。
お天に話を聞く。
お天「あの行者さんは奇跡の人で、自分の腕を刀で切って血が流れていてもすぐ治すし、刀も飲み込むし、目が見えないっていう人も治したのです。だからお父さんの病気も治してくれるってます」
お父さんは、意識があり喋れるようで、何やらお父さんが欲しい食べ物があったらしく、
お天「部長、すいません、ちょっと出かけます。すぐ戻ります」
お天が出て行った後、蛍がお父さんから話を聞く。
蛍「お父さん、あの行者さんで身体が良くなった?」
お父さんが首をふる。
蛍もあの手の行者に散々騙されたのだ。
蛍「お父さん、私でお医者さん連れて来て良い?」
お父さんは少し迷い、ウンウン頷く。
お天が帰って来て、お土産のうなぎをお父さんに食べさせる。
お天「お父さん、食べれるけど、どんどん痩せてくのです。下痢もひどくて起き上がれない時も多いです」
蛍「誰かお医者さんに見せる事はないの?」
お天がキッと蛍を睨み、
お天「行者さんが言うには、お父さんに気合いを貯めているそうです。自分以外の者に見せたら、気合いが一気に抜けるので、今までの治療の意味が無くなるそうなのです」
お天が深刻な顔をする。
蛍(私も、こんな連中に無茶苦茶されたからなー。熱湯風呂入らされたり、病魔出ていけと叩かれたり、熱ーーい熱湯飲まされたり。骨を折っているのにそんなのキクわけないって。一通り経験してからやっとわかったもん。何とかしてあげよう)
夕方になったので会社に戻る。
蛍は業務報告書を記入する。
素直に「ご飯を食べた。美味しかった」
と書き、お蝶課長から蛍はガミガミ怒られていた。
<危機! お天の父>
次の日、蛍は出社して直ぐ、
蛍「得意先周りして来ます」
そう言って出かける。
赤(蛍の秘書)が不思議がる。
赤「アイツ得意先なんて覚えてないだろ」
蛍が向かった先は小西商店。
手代とは顔見知りなので、良い医者を教えてもらう。
その医者を連れてお天の家に向かう。
お天は今は会社にいるので、自宅にはいない。
蛍は優しいので、インチキ行者を信じているお天を傷つけるのがイヤなので、お天には黙って行く。
蛍「こんにちは、お父さんお医者さん連れて来たよ」
恐縮する父親。
医者が父親を診断して、症状を聞く。
医者「腹に虫が居る。食ったものを全部取られておる。この虫下しを飲むと良い」
お代で四十文を蛍が払う。
恐縮する父親。
会社に戻る蛍。
疲れてまた寝る蛍。
一週間後。
今度はお茶を配っている蛍に、お天が元気良く話しかけてきた。
お天「蛍部長聞いて下さい。お父さんの病気が治って、お父さんが是非蛍部長にお礼を言いたいそうです。」
蛍「じゃ行こうかな」
赤「蛍、仕事しろ」
蛍「行こう、お天」
お天「ハイ」
赤「蛍!!!!」
お天と蛍がお天の家に着くと、父親と行者が喧嘩してる。
お天「お父さん、止めてよ、お父さんの病気治してくれたのはこの行者さんなのよ」
行者「そうじゃ」
父親が顔を真っ赤にして激怒。
父親「俺が治ったのは、蛍さんが連れて来たお医者さんの薬のおかげだ。帰れ、お前のゴマなんて全く効いて無かったわ、帰れ、叩き出されたいか」
真実を知らされ驚くお天。
行者が助けを求めるようにお天を見る。
父親は、そんなインチキにもう関わるなよとお天を見る。
蛍が行者に、
蛍「どうせ金でしょ、百文やるから二度とこの家に来ないで」
行者は何も言わず、蛍から金を受け取った。
父親「蛍部長、こんなインチキにお金を払わなくて良いよ。オイ、インチキ野郎、蛍さんに金を返せ」
行者「誰が返すか、アバヨ」
行者が出て行った。
父親「蛍さん、あなたは命の恩人だ。ありがとうございます。」
父親は何度も蛍に頭を下げる。
それを見て、お天も蛍に頭を下げる。
お天「蛍部長、本当にありがとうございます。私は騙されていたと今気付きました」
お天(私、この人について行こう)
蛍「いいよ、いいよ、そしたらお父さんと一緒に美味しいご飯でも食べよう」
お天「部長、業務中ですけど…(笑)」
<部下が出来た日>
次の日、蛍が盛大にイビキをかき、よだれを垂らして寝ていた。
お天「部長、部長、一緒に取り立て行きましょう」
お天は蛍に、口元を拭く手拭いを渡して、机の上のよだれを雑巾で拭く。
お天「部長、行きましょう」
蛍「わかったー、行って来ます。ついでに赤、付いて来てよ」
赤「わかったよ」
蛍のいつものラッキーがあって、取り立ても無事回収。
またもや、取り立て回収額ダントツトップとなる。
お天「蛍部長、スゴイ!」
蛍はこの一件で、初めて本当の部下を持った。




