第23話 1534年 4歳 夜雀と霧狼、忍びの二枚看板が初陣に挑む
島田勘兵衛が仲間に加わった直後、僧兵六十名が待ち伏せしていました。
四歳の体でも中身は三十二歳。戦い方はわかっている。
赤目一族・夜雀・霧狼と共に、完全勝利を狙います。
◆島田勘兵衛との会話
道中、俺は先ほど仲間に加わった黒澤――いや、島田勘兵衛と話をした。
島田『某の名は島田勘兵衛と申す。』
俺『何故、土手で決闘をしていた?』
島田『先日、道場破りをしましてな。道場主を斬ってしまいました。今日は門下生らの仕返しです。』
俺『まだ“決闘の形”で来ただけマシだ。島田はついているぞ。』
島田『どういう事ですか?』
俺『雷蔵の父親は武芸者だったが、復讐として毒を盛られて死んだ。正々堂々の決闘の方が、よほど運がいい。』
島田『……確かに。そう考えると助かったのやもしれませぬな。』
◆僧兵六十名の待ち伏せ
赤目滝が駆け寄ってきた。
赤目滝『お話中恐れ入ります。ここから歩いて十五分ほどの地点に、僧兵六十名が長尾様を待ち受けております。』
早速赤目滝が役立っている。
その背後には男女二名──夜雀と霧狼だろう。
俺『迂回すれば追撃されるか?』
赤目滝『確実に。』
逃げ道は塞がれた。ならば叩き潰す。
◆作戦の立案
俺『騎馬で回り込み背後を突く者、正面で受ける者、高地から矢を射る者、遊撃……四つに分ける。赤目滝、図を描け。』
即座に役割を決めていく。
正面:島田・水斗+10名
迂回騎馬:風馬+8名
遊撃:赤目滝
護衛:安田(俺を守る)
弓隊:2名…だが、頭がいない
迷っていると、赤目滝が推薦してきた。
赤目滝『夜雀を弓頭に。腕は確かです。』
俺『夜雀、腕を見せてみろ。』
夜雀は無言で弓を引き、
――空を飛ぶ鳥を一撃で撃ち落とした。
才能の塊だ。
◆金城の囮と霧狼の変装
もう一つの懸念は金城だ。
敵は金城を狙ってくる。
前に出せば敵の側面を突けるが、金城は貴重な駒。ケガをさせられない。
俺が赤目滝に問うと、霧狼という男が金城そっくりに変装して見せた。
霧狼『お任せを。』
その完成度に、思わず息を呑む。
赤目滝『霧狼と夜雀は伊賀と甲賀から逃れてきた者。二人はそれぞれの里の若者の頭でしたが、禁を犯したため追われています。ゆえに、この技量です。』
とんでもない人材が来たものだ。
金城兄弟と九島兄弟は後方待機。
作戦はすでに整った。
◆戦闘開始 ― 僧兵六十名を叩き潰す
敵は街道の両側に三十人ずつ潜み、隊列が通る瞬間を狙っている。
そこへ――
金城に扮した霧狼がわざと姿を見せ、挑発。
僧兵が次々と飛び出してくる。
“金城”が逃げる。
僧兵が追う。
隊列が細長く伸びる。
──今だ。
街道両脇に潜んでいた島田・水斗隊が一斉に挟撃。
混乱した僧兵を二人が切り伏せていく。
島田は斜面の上から、水斗は下から。
まるで計ったような動きだった。
木の上には夜雀。
彼女の矢が後方の僧兵を連続で射抜き、完全に分断した。
正面では、霧狼が変装を脱ぎ捨て、圧倒的な速さで僧兵を切り裂いていく。
一人だけ次元が違う。
あっという間に、敵は後方の坊主と護衛十五名のみ。
そこへ後方から水斗の騎馬隊が突撃。
坊主『ま、待て!待ってくれ――』
言い終える前に、夜雀の矢がこめかみに吸い込まれた。
残る僧兵も瞬時に掃討。
◆無傷の完全勝利
六十対二十の数的不利で始まった戦いだったが、
こちらの被害は―― かすり傷すらなし。
赤目一族の功績が大きい。
敵の発見、誘導、分断。
すべてが完璧だった。
赤目滝を褒めようとしたとき、安田が笑った。
安田『若は本当にすごい。これほどの戦は為景様でも見たことがありません。初陣前とは思えません。』
赤目滝『まったくです。ゆえに、私は若様を四歳ではなく三十二歳と見ています。』
俺の転生前の年齢を当てるなよ。
◆事後処理
俺『村の長を呼んで来てくれ。』
夜雀『連れてきました。』
早ぇよ。命令する前だぞ。
俺は村長に金を渡し、
『弔ってやってくれ』
とだけ告げた。
俺たちは村長に任せ、そのまま道を進んだ。
背後で、村長が土下座する音だけが響いていた。
夜雀・霧狼が本格的に活躍してくれました。
赤目一族の情報力も大きな武器です。
次回、京へ向けてさらに物語が進みます。




