第19話 1534年 4歳 堺に行こう② 金城兄弟との出会いだぞ
堺で紹介された山師三兄弟は、
「超凄腕+超問題児+全員イケメン+衆道好き」という盛りすぎ設定でした。
そこへ殴り込んでくる僧兵たち。
龍義・安田・雷風水の本領発揮回です。
俺は小西隆佐との挨拶を一通り済ませると、次の要件に移った。
俺『小西殿は、腕の良い山師のお知り合いはいますか』
小西『おります。しかし、腕の良い連中はすでに他の大名に雇われておりましてな』
それはそうだろう。
俺はわざと困った顔をして、少し黙り込んでみせた。
すると、そばにいた小西商店の番頭が、大旦那である小西に耳打ちをした。
小西『……せっかく堺までご足労いただいておりますのに、手ぶらでお帰しするわけにもまいりませんな。
凄腕ではありますが、かなり問題のある山師がおります。それでもよろしければご紹介いたしましょう。よろしいですかな』
俺『問題とは、どのような?』
小西『凄腕の三兄弟なのですが、衆道──男色をたいそう好みましてな。
労働者に手を出しては逃げられ、生産が落ちるのです』
……まぁ、話を聞くだけ聞いてから判断だな。
俺『その山師を、今から呼ぶことは出来ますか』
小西『承知しました。──頼む』
小西が番頭に指示を出し、山師が来るまでの間、俺と小西は現状と、将来の展望について話し込んだ。
しばらくして、番頭が戻ってくる。
番頭『お見えになりました。お通ししてよろしいでしょうか』
俺『頼む』
俺は心の中で、「熊みたいな毛むくじゃらが来るんだろうな」と覚悟していた。
労働者が逃げるレベルということは、そういうことだろうと。
──が、現れたのは完全に予想外だった。
現代で言えばホストを戦国仕様にしたような、美形三人組である。
どう見ても女の方が群がるタイプだ。
山師『お初にお目にかかります。金城 連と申します。こちらが弟の翔と真です』
ホストの源氏名かよ、と心の中でツッコむ。
金の連勝──「金城連・翔・真」で覚えておこう。
俺『凄腕と聞いているが、どのような実績を持っている』
金城連『石見銀山が代表的なところでございます』
俺『石見銀山の山師は、別の名前だった記憶があるが』
俺が首をかしげると、小西が口を挟んだ。
小西『それが、彼らでしてな。
八年前、間違いなく石見銀山を発見し、採掘の軌道に乗せたのは金城兄弟です。
しかし、あまりの所業に大内様が「恥だ」と怒りまして。記録にも残さぬこととされたのです』
小西はため息をついた。
小西『その後も、各地の大名に召し抱えられては、ことごとく問題を起こし途中解任、の繰り返しでしてな』
俺『問題行動というのは?』
小西『通常の山師は「発見」だけで莫大な褒美を受け取り、その後の掘り出しには関わらぬこともあります。
しかしこの三兄弟は、“発見から採掘までセット”でなければ引き受けない。
そして掘り出しが始まると、労働者には手を出す、好みの男を巡って兄弟喧嘩をする、生産は止まる……という有様でして』
なるほど。
腕は完璧、性格が爆弾。よく分かった。
俺『その程度の問題なら、こちらで解決可能だ』
俺がそう言うと、小西と番頭の目が丸くなった。
小西『……本気でおっしゃっておられますか』
俺『では、金城に聞こう。金銀鉱山の鉱脈を見つける時、何を目印にする?』
金城連『金であれば、まず砂金の有無、地形、近辺の植物です。
そして何より大事なのは──“勘”ですね』
答えとしては、十分合格だ。
俺『灰吹き法は出来るか』
金城連『灰吹き法とは、いかなる術で?』
俺『金銀を含んだ鉱石を鉛と混ぜ、高温で熱し、金や銀を分離・精製する方法だ』
金城連『ああ、それなら我らは「灰焔鬼神の術」と呼んでおります。
ただし、高温が必要な上に精製が甘い。
現在は「水銀焔龍の術」を使っております』
俺『水銀焔龍の術?』
金城連『鉛ではなく水銀を用いる術です。
低温で済み、精製度も高い。かなり効率が良い方法です』
──アマルガム法か。
16世紀に開発されたはずの技術を、独自に編み出しているとは。
俺『どうやって、その方法を見つけた』
金城連『勘です。
鉛では非効率に感じましたので、水銀ならどうかと試行錯誤しているうちに、こうなりました』
天才にもほどがあるだろ。
これだけの才能を持つ三兄弟を、各地の大名が持て余したのも、逆に納得できる。
俺『兄から見て、弟達の才能はどうだ』
金城連『……言いたくはありませんが、天才ですね。
うちは仲が悪い時は殺し合い寸前までいきますが、仲が良い時は本当に良い仕事をします』
才能の衝突か。扱い方次第で、化ける。
俺『佐渡ヶ島だが、お前達は行きたいか』
金城連『ぜひ、お願いいたします』
即答か。やる気はある。
小西『若様、この兄弟が問題を起こさない方法とは……?』
俺『佐渡ヶ島を北部・中央・南部に分け、それぞれの区域を兄弟に一人ずつ担当させる。
今までは「一つの山に三人」で才能がぶつかり合っていた。
佐渡には大小合わせて五十ほど鉱山がある。分けて競わせるには十分だろう』
小西『なるほど……では、労働者に手を出す件は?』
俺『各区域に、兄弟専用の“遊び場”を三箇所ずつ用意する。
鉱山の算出量に応じて、好みの男娼をつけてやればいい』
金城連『……少し不満はありますが、よろしいでしょう』
俺『不満とは?』
金城連『嫌がっている者を、時間をかけて“好き”と言わせるのが一番楽しくてですね』
俺『売春宿で好きな五、六人に囲まれる生活も、なかなか楽しいと思うぞ。
そのうち「嫌だ」と言う奴も出てくる。その時に存分に楽しめ』
金城連『……ありがたいお言葉です』
嬉しそうに頭を下げる金城。
対照的に、守役の安田は露骨にイヤな顔をしていた。
安田『若、神様が“売春宿”なんて言うわけないでしょ。どこで覚えたんですか』
しまった、設定と矛盾した。
俺『水滸伝という明の本に、青楼という遊郭が出てくるのだ』
とっさにそれっぽい理由をつけると──
小西も安田も、俺が四歳にして水滸伝の原本(中国語)を読んでいる事実に、目を見開いて驚いた。
(転生前、防衛大学校での第二外国語は中国語だ。
英語は英検一級、中国語も日常会話は余裕。むしろ読み書きの方が得意だぞ)
金城連『若様に、もう一つご相談が』
俺『何だ』
金城連『実は、末弟の真が坊主の彼氏と色恋で揉めまして……その坊主が激怒し、我らを狙っております』
言い終わるか終わらないかのうちに、外でドタバタと物音がした。
『金城、出てこーい! 天罰を下してやる!』
……なるほど、追われてる最中にここへ逃げ込んだわけか。
風馬と水斗、そして兵十人ほどを連れて外へ出る。
小西商店の前で、僧兵二十人くらいが商品を壊しながら叫んでいた。
僧兵『金城を出せ! 金も出せ!』
完全に強盗である。
風馬『長尾家の者がいると知っての狼藉か。許さんぞ!』
風馬が一喝する。
俺『やっておしまいなさい。小西殿に迷惑がかかる。素手でやれ』
そう指示すると──
水斗はプロレスラーのような体格を活かし、僧兵の喉元を的確に殴り、片っ端から悶絶させていく。
風馬は喉・目・金的など、急所ばかりを狙うテクニックタイプだ。
(やっぱり風馬は技巧派、水斗はパワー派だな)
そう感心していたその時、俺の死角から僧兵が一人、刀を振りかざして突っ込んできた。
風馬も水斗も、距離があって間に合わない。
僧兵が振り下ろした一太刀を、体当たりで止め、鎧通しで喉にトドメを刺してくれた男がいる。
守役・安田だった。
安田『遅れて申し訳ございません!』
俺『助かった。感謝する』
安田はすぐさま兵士たちに怒鳴る。
安田『若様を守りながら戦え! 大将が倒れたら戦は負けよ!』
兵の指導までしてくれる。本当に頼りになる男だ。
そうこうしているうちに騒動は収まり、僧兵たちは
僧兵『覚えてろよ!』
というお決まりの捨て台詞を吐いて、逃げていった。
金城兄弟は土下座して、俺と小西に深々と頭を下げる。
金城連『誠に申し訳ございませんでした! お詫びは、どのように……』
小西『これくらい些末なことです。
あなた方は龍義様に忠誠を誓い、鉱山で存分に働きなさい』
さすがは堺の大商人。
短期的な損失より、長期的な利益を見ている。
俺『俺たちは明後日の朝ここを発つ。それまでに旅支度を整えておけ』
金城連『ははっ!』
三兄弟は頭を下げながら店を出ていった。
その後始末を風馬と水斗に任せて、俺と小西は再び奥座敷へ戻る。
小西『若様、本当にあのような者達でよろしかったのですか。
また確実に問題を起こしますよ』
俺『構わない。
成果さえ出せば、問題はいくら起こしてもいい。
解決するたびに、俺たちは強くなる』
小西『……なるほど。若様は、よく短い時間でそこまで見抜かれましたな』
俺『連があれだけの発明をしているのに、翔も真も連の言うことを聞かない時があるというのは、翔と真も連と同じくらい才能がある、ということだろう。
同じ器が三つあれば、ぶつかり合うのは当然だ』
小西『ご慧眼でいらっしゃる』
小西は、心から感心したように頭を下げた。
山師は天才、でも性癖は大問題。
僧兵は強盗まがい、でもボコられて退散。
相変わらずカオスな世界ですが、龍義はそれすら戦力に変えていきます。
佐渡金山でこの三兄弟がどう暴れるか、お楽しみに。




