第147話 1538年8歳 小西商店についたぞ (その1)
前回、堺の茶人――津田宗及が登場した。
だが、堺の本番はここからだ。
<小西商店へ>
そうこうしているうちに、小西商店に着いた。
玄関先には、小西商店が出迎えてくれる。
小西『津田宗及様との会合は、いかがでございましたか?』
俺『茶の湯に誘って来たから、遠慮なく断ったよ。
俺の情報も調べられないで「有用な情報がある」と言われても、信じられるか』
後で赤目に調べさせた所、商人間の牽制だった。
しょうもない。
小西「左様でございましたか」
小西が、ほくそ笑む。
何しろ小西商店が越後との取引量は、小西商店の売り上げの七割に当たる。
越後からの仕入れを一手に引き受け、
それを堺や他の地域の商店に振り分けているのだ。
小西「遅ればせながら、ご結婚おめでとうございます。
そちらが奥様の菊姫様で、そちらが里見家の鶴姫様ですね。
それでは中にどうぞ」
俺の付き添いの安田や柿崎は慣れたもので、
自室のように小西邸に入っていく。
兵士も手慣れたもので、あてがわれている宿屋に向かった。
<女の天国>
客の間につく。
俺「早速だが、菊姫と鶴姫に着物や装飾品を見せてやってくれないか」
小西「承知しております。堺は勿論、京都や他の地域からも呼んであります」
俺も菊姫や鶴姫と一緒に案内された大広間に行くと、
そこは豪華絢爛――着物や履物、持ち物の数々が並んでいた。
そして何とか長尾家とつながろうとする商人たちが、
ずらりと待ち構えている。
菊姫『鶴ちゃん見て、あれすっごい綺麗』
鶴姫『菊ちゃんこっち見て。これすごくない?』
二人でキャーキャー言っている。
二人の目は光輝いていた。
いつの世も、女性は綺麗な服が大好きだ。
俺「それじゃ、ゆっくり見たり試着したりしてください」
俺は二人を残し、小西と客間に移る。
<木沢長政の真相>
客間では、小西がまず謝った。
小西「若様、申し訳ございません。若様が来訪される情報を漏らしまして」
俺「細川晴元に言われたのなら、しょうがないさ。気にしてないぞ」
小西『木沢長政が反乱を起こしたのには、事情があるのですよ』
小西の話を整理すると――
俺が1537年に細川氏綱を撃破したことで、
細川晴元は勢力を拡大した。
だが晴元にとって木沢は、力を持ちすぎた危険人物だった。
そして晴元は木沢を「いずれ排除すべき存在」と判断した。
木沢側も、その動きを察知する。
「晴元は自分を切り捨てる気だ」
木沢は危機感を持った。
それで木沢は、晴元暗殺を企てた。
だが直前でバレた。
木沢は晴元から粛清される前に、反乱を起こしたのだ。
俺『そういう事情があったのですか?』
<堺支店の人材>
小西『そうなのですよ。
それはそうと若様は亀山社中を始められたそうで、堺では始められないのですか?
イヤ私も周りの商人や大名とかにも聞かれましてな』
俺『うーん、堺支店を始めたいのですが良い人がいませんか?
一度越後に連れて行って研修してから、堺支店開設となりますね』
小西『ウーーーン。
物凄く有能なのですが妙な癖があって、大名の奥様を激怒させまして。
それで泣く泣く主人もクビにせざるを得なくなりまして』
俺『どんな癖ですか?』
小西『緊張するとね、自分の尻の当たりに手を入れてボリボリと掻くのです。
それだけならまだしも、その手を畳やふすまになすりつけるのです。
それで大名の奥様がお気に入りのふすま絵に汚物がつきまして、奥様が大激怒です』
俺『まぁーとにかく会いましょう』
小西『本当ですか?
若様は本当に懐が広いですね』
しばらくして、本当にマジメを絵に描いたような男がやってきた。
番頭は「ちょっと待って下さい」と言い、
男が座る座蒲団の上に厚めの広い布を敷いた。
さらに掛け軸、机の上も厚めの紙か布で覆った。
分かり易くバイキン扱いである。
某バイキ○マンだって、こんな扱いはされない。
後で聞くと前にこの男が来た後、畳を総入れ替えしたそうだ。
納得。
俺『灰島左門と申します』
灰島は俺の経済や金融に対する質問に見事に答え――
肛門をボリボリ掻き、床になすりつける。
菊姫と鶴姫の前には出せない男だ。
小西『流石にどうされます?』
断っても良いですよ、ということだ。
俺『灰島は越後で研修して、堺で高利貸しをする気はあるのか?』
灰島『是非とも、お願い致します』
<悲鳴と条件>
部屋の向こうから、菊姫と鶴姫の声がする。
『お邪魔してよろしいですか。見て見て、綺麗でしょう』
こちらの返事を待たず、ふすまが開かれた。
二人の前には――肛門をボリボリ掻く灰島。
「キャー~~ーーー」
鶴姫「変態!!!」
菊姫「鶴ちゃん、この人は変質者っていうのよー変質者。
若様、この人追い出して~~」
俺は慌てて二人を元の部屋に戻し、
すぐ二人の所に来る事を言った。
そして灰島の部屋に戻る。
俺『条件は3つ。
1 灰島に大量の手袋を支給する。肛門触ったら手袋を交換だ。
2 灰島の代理の者を用意するので、灰島は衝立の後ろから代理の者に指示を出すこと。客の前には出さない。
3 越後に青田周五郎という名医がいるから肛門を診察してもらえ』
青田周五郎は前々回の武芸大会でスカウトした医者だ。
これまで戦場で何人の命を救っている。
灰島『分かりました』
俺『下がって良いぞ』
汚い物を見たので、菊姫と鶴姫の綺麗な姿を見に行く。
菊姫『あの変質者何なの。
堺は都会過ぎるから、あーいう変質者が蔓延るんだわ』
俺は一部始終を話した。
結婚したので隠し事は良くない。
菊姫『若様も大変ねー。
あんな変質者も雇用しないといけないなんて。
それより、こっちの赤とこっちの黄色、どっち似合う?』
俺『季節や天気によって似合う色は変わるのだから、二つとも買えば良いよ』
鶴姫『えーじゃー私は?』
俺「鶴姫も二つ買って良いよ」
鶴姫「若様、そしたら二つ選んで」
菊姫「あら、私も選んで」
俺『もちろんだよ』
俺は1時間ほど、二人の買い物に付き合った。
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