第143話 1538年 8歳 楽市楽座より効果がある移住だぞ(その3)
前回は蛍、三上姉妹、早瀬新二郎が登場しました。
すぐに活躍はしませんが、話が進むと出番が増えていきます。
特に蛍には注目です。
<越中西部・一向宗>
(1)越中西部
一万二千人の移住者は、越中西部に入った。
越中東部はすでに長尾家が占領しており、東部は馬場の領地となっている。
越中中央部は神保の支配地域で、長尾家とは敵対関係にあった。
そして越中西部。
加賀に近いため、一向宗の勢力が強い地域だ。
馬場は出発以来、毎日訓練を行っていた。
朝七時から一時間。
軽騎兵も含め、襲撃があった場合の一斉訓練である。
一万二千人の移住者全員に杖が配布されている。
男はこれで戦う。
女や子供は後方から石を投げる。
赤子以外、すべてに役割が与えられていた。
いつ襲撃されても、最低限の対応はできる。
そのための訓練だった。
軽騎兵は半弓を有している。
馬上から敵の指導者を射抜き、
崩れたところへ十字槍に切り替えて突撃する。
やがて一行は、井波に入った。
井波には、本願寺系の大本山級拠点――
**瑞泉寺**がある。
将軍家の命令書が、ここに届いているかどうか。
それが問題だった。
馬場は、いつも通り移住者の中央部に位置していた。
前後左右、どこで異常が起きても、最短で対応できる位置だ。
その時。
前方の見張りから報告が入った。
――六千人規模の一向宗が接近中。
交戦の意志あり。
馬場は即断した。
軽騎兵四百五十の半数を、長く迂回させる。
目的は、一向宗の後方攻撃だ。
一万二千人の移住者は、
女子供を後方へ下げる。
前方には牛車を盾として並べ、
牛車と牛車の間を開ける。
いつでも男たちが突撃できる陣形だ。
女たちは、ひたすら石を集め、積み上げる。
泣く子供もいるが、構われない。
やがて一向宗が視野に入った。
軽騎兵が先行し、
指導者や坊主を狙って射殺していく。
軽騎兵は前進と後退を繰り返しながら、半弓を放つ。
男も女も、まだ動かさない。
――その時。
後方から、軽騎兵が突撃した。
一向宗の後方を、徹底的に蹂躙する。
やがて向こうから叫び声が上がった。
一向宗
「降参する! 攻撃を止めてくれ!」
馬場
「武器を捨てろ。
それから三十歩、前進しろ」
武器を捨てさせてから前進させる。
これで再び武器を取りに戻る場合、
必ずこちらに背を向けることになる。
仮の降伏でも、こちらが有利だ。
一向宗の代表者が前に出てきた。
坊主や目立つ者はすでに射殺されている。
副代表クラスだろう。
一向宗代表
「襲ってしまい、申し訳ない。
この地区は不作で、食料がない。
虫の良い話だが、
食料を分けてもらえないだろうか」
馬場
「三十五歳以下の男女で、越後に移住し、
かつ改宗する者には、十分な食料を与える。
それ以外には、半食程度だ」
一向宗代表
「移住したら、どうなる?」
馬場
「越後到着時、
一家族につき五百文を支給する。
新田開発、鉱山……仕事はいくらでもある。
蝦夷地に行くなら、
今の土地の二倍、三倍の広さを渡す」
一向宗代表
「……今日の飯すら怪しい身だ。
そんな話、信じられるか?」
馬場
「お前たちは、何も知らされていない。
越中の守護大名は長尾家となったのだ。
この人数を見ろ。一万二千人だ。
皆、越後に魅力を感じている」
一向宗代表
「……少し待ってくれ。皆と相談する」
馬場
「長くは待てん。我々も先を急ぐ」
一向宗代表
「半刻だけだ。頼む」
半刻後。
一向宗のうち、千五百人が
改宗と越後移住を決めた。
若い夫婦、子連れ、独身の男女が多い。
馬場は約束通り、
千五百人それぞれに一食分の食事を与え、
残る三千人には千人分・一食を分け与えた。
すると――
越後へ行く予定の千五百人は、
自分たちの食事を、残る三千人へ渡し始めた。
友人、親戚が残るのだろう。
本来、彼らは敵対勢力だ。
咎めてもよかった。
だが――
泣きながら自らの食事渡す姿を見て、
誰がそれを責められただろうか。
その時。
一万二千人の中の子供が言った。
子供
「そんなら、越後に来ればいいんだろ?
歩くのしんどいけど、腹いっぱい食ってるぞ!」
その母も言う。
母
「この子の言う通りだよ」
父が、子供に言った。
父
『おい、こっちこーいって叫べ、
いっぱい食べれるぞ~って』
子供
「こっちこーい!
いっぱい食べれるぞー!」
他の子供や大人も叫ぶ。
「こっちこーい!」
「いっぱい食べれるぞー!」
残された三千人の中の、一人の子供が言った。
子供
『なー腹いっぱい食べれるってのに、
おとうはなぜ向こうに行かないんだ。
おら腹いっぱい食べたい』
父
「改宗しなきゃいけない。
死んだら地獄に行くんだ」
子供
「おとう、食べれない事が地獄だろ。
これ以上怖いもんが他にあるのか」
父
「……坊さんは“地獄が怖い”と言うがな」
父
「俺は、
腹を空かせたお前の顔を見る方が、
よっぽど地獄だ」
しばらく考え――
父
「そうだな、腹いっぱい食べよう。
「……行こう。まだ間に合う」
結果。
八百人が追加された。
合計二千三百人。
移住者は一万二千人から、
一万四千三百人となった。
さらに。
普門寺城を出発してから、
六角、朝倉、加賀、越中と進む道中で、
我も我もと参加者が増え、
合計で一千人が加わっていた。
総数――
一万五千三百人。
一気に人数が増えたが、
常に食料に余裕を持って運んできたことが、
ここで生きた。
残り、越中東部まで四日。
だが――
この人数では、
二日は持つが、残り二日分が足りない。
千五百人で、二日分の米。
十八石。
約二・七トン。
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