第130話 1538年 8歳 菊姫との婚姻だぞ
皆様お待たせしました!
ついにヒロインが本格参戦です。
<塩釜港、出立>
伊達氏の居城・米沢城の最寄り港である塩釜港に着いた。
伊達氏が馬を五十頭用意してくれている。世話係も同行していた。
荷駄用の馬は別に借り、五百名の兵士とともに米沢へ向かう。
別便で、
長尾為景(祖父)、
長尾晴景(父)、
長尾景康(祖父の次男)、
長尾景房(祖父三男)、
大熊朝秀、
本庄実乃、
が到着する。
父・晴景は俺との仲が悪く、参列に難色を示したが、祖父・為景の一喝で渋々の参加となった。
俺は祖父や叔父たちに礼を言う。
父は目も合わせないので、そのまま無視だ。
俺は一人で馬にまたがる。
皆が驚いた。
これまでは守役の安田に乗せてもらっていたが、愛馬・桜で密かに練習していたのだ。
菊姫に格好悪いところは見せられない。
守役の安田は心配そうにこちらを見る。
大丈夫だ。心配するな。
二週間後、ようやく米沢城に着く。
後年、伊達政宗が仙台城を居城とするが、正直、港から近い仙台城の方が便利だと思う。
菊姫とは去年から書簡のやり取りをしていた。
頭の回転が速く、視野が広く、時勢にも強い。
長尾家の家臣に混じっても、知略では間違いなく上位だ。
公私ともに右腕になってほしい人物である。
<菊姫との対面>
米沢城に着くと、菊姫が満面の笑みで出迎えてくれた。
皆の前では行儀よく、礼儀正しい。
菊姫
『長尾為景様、上杉龍義様。
遠路はるばる、よくおいでくださいました』
俺
『丁重なご挨拶、痛み入ります』
俺はさっと菊姫の側へ寄り、耳元で囁く。
俺
『菊姫に会えて、本当に嬉しい。
正妻として迎えることにしたよ。
南部氏の娘は側室だ』
菊姫が思わず抱きついてくる。
菊姫
『本当にありがとう❤
私、側室なんて嫌だったの。
あなたの一番になりたかったのよ』
俺も嬉しかった。
菊姫の目が潤んでいる。
乳母
『はい、そこまでです』
菊姫がむっとする。
菊姫
『一番いい時なのに、夫婦の間を邪魔しないでよー』
乳母
『儀式をしてからが夫婦です』
守役安田
『そうですよ若様。私は盛ったらどうしようかとハラハラしました』
乳母
『お嬢様、今はまだ儀式の前です』
菊姫
『もう……せっかく龍義様と仲良くしてたのに。ね、龍義様』
俺
『後で、いっぱい話しましょうか?』
菊姫が悪巧みの顔をする。
菊姫
『そうね。楽しみ~』
乳母
『夜遅くまでは駄目ですよ』
菊姫
『わかってる、わかってる。これでいいでしょ』
言い争いを見ていた守役安田が、ぽつりと呟く。
守役安田
『私も、これくらい言わなきゃならなかったんだなあ……』
いやいや。
俺はちゃんと育っている。言わなくていい。
案内役が痺れを切らし、俺たちを奥へ促す。
俺
『菊姫、奥に参りましょう』
菊姫は途端に上機嫌になり、お嬢様モードに切り替わる。
菊姫
『は~い、ただ今参ります』
乳母も慣れた様子で後に続いた。
奥の部屋には伊達稙宗がいた。
型通りの挨拶の後――
伊達稙宗
『おお、遠いところよく来てくれた』
祖父・為景は破顔一笑する。
長尾為景
『おう、お主も元気そうで何よりだ』
伊達稙宗
『何の。お主の孫こそ、今や全国の噂の的じゃ。
蝦夷地に堺に陸奥に越中……荒らし回っておる』
長尾為景
『不満か?』
伊達稙宗
『不満なら娘などやらんわい。ガッハハ!
婿殿は天下を取る器よ』
――話は婚姻から、自然に同盟と戦略へ移っていく。
俺
『伊達様は、既に我が親族であり同盟者です。
争いがあれば、いつでも手伝います』
伊達稙宗
『伊達家は、どちらに向かうのが良いと思う?』
俺
『蘆名氏領を取るべきです。
手伝います』
重臣たちが小声でざわつく。
伊達稙宗
『今回、兵は何人連れてきた?』
俺
『二千です』
驚く伊達稙宗と重臣たち。
伊達稙宗
『海路でそれだけの兵を動かすとは……前代未聞じゃ』
祖父・為景が笑う。
長尾為景
『龍義、婿として手伝ってやれ』
俺
『承知いたしました』
伊達稙宗が満足そうに頷く。
伊達稙宗
『明日は婚礼だ。本日はゆっくりしていけ』
やがて一段落し、厠へ向かおうとすると――
物陰から菊姫が手招きをしていた。
誰も来ない小部屋へ。
菊姫
『やっと、二人きりだね』
俺
『これからは、ずっと一緒だ』
菊姫
『嬉しい……』
俺はそっと手を握る。
俺
『越後も、蝦夷地も、堺も、京都も。
全部、一緒に見よう』
菊姫
『夢みたい……』
俺
『大好きだよ、菊姫』
菊姫
『私も――』
その瞬間。
戸が開き、乳母と守役安田が乱入する。
乳母
『はい、そこまで』
菊姫
『こんな幸せな時間を邪魔しないでよ!』
乳母
『儀式前です』
守役安田
『若様、告白は祝言の後です』
俺
『明日、ちゃんと済ませてから話そう』
菊姫
『……ハイ』
機嫌は、少しだけ戻った。
明日が、婚礼の日だ。
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