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いつ結婚してくれるのですか?

作者: すじお
掲載日:2025/10/21

1 出会いは春の風のように



 リリアーナ・セリスは十八歳の春、ひとりの青年と出会った。

 王立学院の卒業舞踏会。

 黒髪の青年は優しく微笑み、彼女の手を取って言った。


 「いつか、きみを迎えに行く」


 その言葉を、リリアーナは一生忘れなかった。

 ――いつか。

 それは約束のようで、ただの夢のようでもあった。

 けれど、夢を信じるには十分だった。



2 二十五歳のリリアーナ



 七年後。

 社交界の花と呼ばれた彼女も、もう二十五歳。

 その青年――リオン卿とは、今でも文通が続いていた。


 「仕事が忙しくて、今は結婚どころじゃないんだ」

 「君は特別だ。いつか、きっと」


 いつか。

 その言葉は、彼の手紙に必ず添えられていた。

 友人たちは次々と結婚していった。

 リリアーナの元には、他の縁談も舞い込んでいた。

 けれど彼女はすべて断った。

 だって、リオンが「いつか」と言ったのだもの。



3 三十二歳のリリアーナ



 季節は巡り、時は彼女の頬に静かな影を落とした。

 リオンは三度目の転属を終え、故郷に戻ったという。

 久しぶりに再会した夜、リリアーナは微笑みながら尋ねた。


 「いつ結婚してくれるのですか?」


 彼は一瞬、目をそらした。


 「……君は素敵な人だ。でも、僕は君にふさわしくない」

 「他の誰かを紹介しようか?」


 その瞬間、リリアーナの胸の奥で何かが静かに崩れた。

 それでも、笑った。

 笑うしかなかった。


 「……いいえ。リオン様以外、考えられませんの」


4  三十七歳のリリアーナ



 彼女の両親は他界し、屋敷は静まり返っていた。

 花瓶の花は枯れ、鏡の中の顔には細い線が増えていた。

 それでも、彼女はドレスを着て夜会に出た。

 もうリオンはそこにはいなかった。

 噂では他国で小さな商会を継いだという。

 リリアーナはもう手紙を出さなかった。

 代わりに、毎晩神殿に灯をともした。


 ――どうか、彼が幸せでありますように。


 それだけを願った。



5 四十歳の夜



 リリアーナが四十歳を迎えた夜。

 屋敷の門をたたく音がした。

 扉を開けると、白髪の混じったリオンが立っていた。

 手には花束を抱え、微笑んでいた。


 「遅くなって……すまない」


 リリアーナは少し驚き、そして静かに笑った。


 「まあ……“いつか”が、ようやく来たのですね」



 けれど彼の手には、結婚届ではなく“追悼の手紙”があった。

 ――彼の妻が亡くなったのだという。

 彼は言った。


 「やっと君のもとへ戻ってこれた」


 リリアーナはその花束を受け取り、ゆっくりと首を振った。


 「私の“いつか”は、あなたの“またいつか”の中で枯れてしまいました」


 窓の外には、桜の花びらが舞っていた。

 十八歳の春のように、美しく、そして儚く。



***

リリアーナはその後、もう誰の妻にもならなかった。


 ただ小さな庭園を開き、若い娘たちに言った。



 「“いつか”と言う人を信じてはいけませんの。

  “今、君がいい”と言える人を信じなさい」



 春の風が吹くたび、

 リリアーナはかすかに笑った。







「いつか、またあとで、別の人紹介する」

が口癖の男。


結婚は今すぐできるものなのに、しない男性には嘘があります

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