6.ウソ
――僕は下駄箱に向かうために階段をおりていると、駿が前に歩いていた。「一緒に帰ろうよ」と声をかけて駆け足になった途端、彼が持っているなにかに目線が止まった。
彼は声に気づいて振り返る。
「職員室に寄ってからでいい?」
「どうしてお前がそのお弁当袋を?」
それは、数時間前まで自分が持っていた莉麻ちゃんのお弁当袋。
「さっきそこで拾った。名前が書いてないから職員室に持って行こうかなぁと思って」
「受け取るよ。持ち主を知ってるから」
「えっ、どうして知ってんの?」
「いつも弁当を作ってくれてる子のものだから」
「あぁ〜。昨日一緒に飯を食ってた髪の長いクールな雰囲気の子ね」
「そ、だから返しておくよ」
僕は手を伸ばして駿からお弁当袋を受け取った。
袋は手作りだから、彼女のものに違いない。
「あの子美人で有名な1年生だよね。いつ知り合ったの?」
「2週間くらい前かな。正式には」
「なんだよ。正式にって」
「実はインスタで知り合ったんだ。だから、実際はそれよりも前だけどね」
「ふぅん。同じ学校なのに出会いはインスタか。なぁんか変な話」
彼女が待ち合わせ場所に制服姿で現れたときは本当に驚いた。こんな偶然あるのかと。
「母の思い出の料理と同じものが彼女のインスタに載ってたからコメントしてみたんだ。そしたらお弁当を作ってくれることになって」
「世の中は狭いねぇ……。しかもあんな美人に弁当を作ってもらえるなんて最高じゃん」
「別に顔は関係ないよ」
「はいはいはい! なるほどねぇ……。すみれ柄のお弁当袋なんて大人っぽくてあの子らしいよねぇ」
僕は彼女にウソをついている。
本当のことをいつ伝えようか悩んでいるうちに2週間が経過してしまった。お陰で罪悪感だけが募っていく。
彼女はウソを知らないままお弁当を作ってくれているというのに……。
――帰りの電車内で、彼女にインスタのDMを送った。
『今日もごちそうさま。学校にお弁当箱を忘れてったでしょ』
『わわわっ、どうしてそれを? 実は無くして困ってました(汗』
『友達が拾ってくれたよ。花柄だったからすぐにわかった。明日返すね』
『ありがとうございます!! 助かります♡』
文面だけ見ると、元気いっぱいな雰囲気で莉麻ちゃんっぽくないというか……。
まぁ、そんなもんかな。
でも、いつ本当のことを伝えよう……。
もし彼女が本当のことを知ってしまったら、僕のことをなんて思うかな。