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12.食べられなくなってしまったお弁当



 ――朝の登校中、僕がいつものようにインスタを開くと、バイオレットのユーザーネームが消えていた。

 最初はなんらかのトラブルに巻き込まれてしまったのかと思っていたけど、やっぱり見つからない。

 検索もしてみたけどヒットせず。

 ユーザーネームが消えるなんて、一体どうして……。昨晩までちゃんと開けていたのに。

 まぁ、直接本人に聞けば済む話だけど。



 ――ランチタイムの時間を迎えると、僕はいつも通り屋上に向かった。

 彼女の到着を待っている間、もしかしたらユーザーネームが復活してるかもしれないと思って再び検索をかけたが、やはり見つからない。


「新汰先輩、おまたせ〜」


 いつもと変わらない笑顔で現れた彼女。まるでなにごともなかったように……。

 僕は彼女が腰を下ろしたタイミングで聞いた。


「インスタのユーザーネームが消えてるみたいだけど、なにかあった?」

「えっ、うそ……」

「今朝から検索をかけてるのにヒットしなくて。昨晩はDMを送れたから、いきなりどうしたのかなと思って」


 送ったDMにはいつも通り返信があった。だからこそ、なにか問題が起きたに違いないと思うように。

 すると、彼女は不自然に口を動かす。


「あーー、そうだ……。間違ってアカウントを消しちゃったんだった」

「……え、間違って消した? どうして……」


 中学生の頃からお弁当やお菓子の画像を毎日載せているインスタグラム。上手くできた日は素直に喜んで、失敗しても隠すことはなかった。

 掲載当初は、彩り無視で好きなものばかり詰め込んでいたお弁当は、いまや商売ができるほどのレベルに。

 彼女の歴史そのものと言っても過言じゃないほど料理と投稿に力を注いできたのに、間違って消すとは考えにくい。


「そんなことはいいから! 今朝は5時に起きてお弁当を作ったんだよ!」


 ”そんなこと”……? 僕にとっては大事件だったのに。

 自分とは対照的に割りきってお弁当袋を差し出してきた彼女。

 ところが、それを目の当たりにした瞬間、疑いはさらに深まる。


「いつもと違うお弁当袋だね。このまえ同じものを何枚か持ってるって言ってなかったっけ?」

「あー……。昨日使ってたのは汚しちゃって……。他のはちょっと見つからなかったの。そんなのいいから早く食べて食べて!」

「……あぁ、うん」


 僕はお弁当袋を受け取って、見たことのないお弁当箱を開く。

 もしかしたら、またお弁当箱を紛失してしまったのではないかと思いながら中身に目をやると、そこには彼女らしからぬ配列が。


「あの……さ。もしかして、昨日なにかあった?」

「どうして?」

「正直に言ってくれない? ちゃんと話を聞くから」

「なにもないってばぁ~。先輩こそ変だよ」


 思いの外、あっけらかんと答えられたので一旦話を区切る。

 この時点で心に波風は立っていたが、本当に疑い深くなったのはここから。

 ラップを開いて白米のおにぎりをかぶりついた瞬間、違和感を覚える。


「ごめん……。作ってくれたのになんだけど、このおにぎりだけは食べれない」

「えっ、どうして? 紀州の梅干しだから美味しいよ」

「……」


 先に梅干しが苦手と伝えていたから、絶対に入れないと思っていたのに……。

 ところが、気を取り直してしらす入りの卵焼きを口にした途端、疑いはいよいよ確信へ。


「……いままでのお弁当は、莉麻ちゃんの手作りじゃないよね」


 僕はお弁当を眺めたまま真顔でボソっと呟く。

 すると、彼女は急に早口に。


「な、なに言ってるの? 全部あたしが作ったお弁当だよ?」

「わかるんだ。今日のお弁当は作った人が違うってね。味覚や嗅覚が作った人の感覚を覚えてるんだ」

「そんなわけない! あたしはちゃんとレシピを見て……」

「100人が作ったおにぎりが並んでいても、僕はたった1つの本物を見つけられる。それほどあの味に惚れてたから」

「やっ、やだぁ……。全部あたしが作ってるんだって。昨日も今日も」

「……悪いけど、もう食べたくない」


 数週間毎日のように食べていたお弁当。食べ続けていたからこそ、忘れられないなにかが僕を引き止める。

 僕はお弁当箱のフタを閉じてから立ち上がり、屋上扉の方へ足を進ませた。


「ちょ、ちょっと……、新汰先輩っ……新汰先輩っっ!! 待ってよ……」


 彼女の声が聞こえないわけじゃない。ただ、気持ち的に振り返られる状態ではなかった。



 ――消えたユーザーネームに、いつもと違うお弁当。

 僕はこの時点でバイオレットの異変を感じていた。

 それと同時に、昨日まで当たり前のように食べていたあの味が恋しくなっている。


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