第19話(1) 継ぐのは我らか
Scene-21(屋外)荒れ地脇 - 真夜中
夜にポッと閃光が奔った。
次の瞬間、ずっと後ろに建っている廃病院から爆発の炎が立ち上る。
「たーまやー! かーぎやー!」
「なんだ、それ?」
ボロボロのウレリトが、広場の奥で荷物を覆っていたブルーシートを取り除く。
中から小型の大衆車が現れた。
資材に見せかけて偽装していたらしい。
「日本では爆発が起こった時、そういうらしい」
カシュっと空気圧が抜ける音が響き、ザーチが首から注射器銃を放した。
生々しい傷跡があったが、応急処置だけはされている。
おそらく自分たちで――
「ああ、日本人の掛け声って奴か。――どういう意味なんだ?」
「花火屋さんの屋号だよ。玉屋さんは知らんが、鍵屋さんは十七世紀からずっと営業してる。去年お前と一緒に行った花火も鍵屋さんだ」
「格式と伝統、それに歴史か。ううん、いいねえ」
二人はしばらく無言のまま炎を眺めていた。
爆発箇所は建物の反対側だったので、病院の小さなシルエットが逆光に染まる。
紅蓮の暴力は、しかし成長しきらなかった。
炎を食い破るように不可視の渦動が二つ生まれ、やがて一つに混じり合い、二重の螺旋で炎蛇をねじ切っていく。
炎は天空へ向けて螺旋を描き、やがて大気に溶けるように消えていった。
火災自体が収まったわけではないようだが、すくなくとも爆発は最小限に抑えられただろう。
見終わったザーチがパチパチと拍手する。
賞賛は本物だった。
「ドラゴン退治の伝説にあんなシーンあったな。――格式と伝統、それに歴史を感じるぜ」
「まさか《吸血鬼》を名乗るモノが、アレを使うようになるとはなあ。まったく、優秀な後輩たちだぜ」
ウレリトが小さく笑い、つられたのかザーチも一緒に笑った。
二人とも怪我の痕は消えていた。
目だけは反転した色彩のままだが、現代社会では普通の範疇になっている。
「戻ったらボスから怒られるんだろうな。やーれやれ、だ……」
「そろそろ行こうぜ、そのボスが報告を待ってる。――ザーチ、オレが頭から喰われたら立派な墓を頼むぜ?」
「オレたちの墓ならもうある。一次大戦の戦没碑に書かれてるだろ」
「そりゃ生前のだ。今の俺たちはザーチとウレリト――だろ、相棒?」
ゴツンと拳が打ち付けられる。
やがて車がどこかへと去って行った。
入れ替わるように、朝日の気配もまだ遠い深夜に赤いサイレンが響き始めた。




