【創作怪談】10編『キヨミ・オカルトガール』
ちょっと怖い話・10の短編集
創作怪談だって、読みごたえがあれば、いいでしょう?
タイトル「先輩だった人」
一人暮らしのミキは、いつも遅い時間に帰宅する生活を送っていました。
疲れた体を癒すために、帰宅するとテレビをつけ、ビールを片手にくつろぎます。
しかし、ある晩、彼女は異様な体験をしました。
テレビを見ながらウトウトしていたとき、突然身体が動かせなくなりました。
金縛りに襲われたのです。
目を開けても、動かすこともできず、ただ身動きが取れませんでした。
その時、自分の周りで足音が聞こえ始めました。
足音は近づき、遠ざかる、そして再び近づいてくる。
ミキは恐怖に震えました。
その足音には、かすかに見覚えのある匂いが混ざっていました。
それは、先月自ら命を絶った女性従業員のものだと気づきました。
彼女はミキの中学の先輩であり、同僚からその事実を聞いたことがありました。
なぜ彼女が直接自分にそのことを話してこなかったのか、ミキは不思議に思いましたが、その時は気にしませんでした。
金縛りが解けると同時に、足音と匂いは消え去りました。
しかし、ミキの心には不安と恐怖が残りました。
ミキはその夜、眠ることができませんでした。
そして、それ以降も、彼女は、しばしば同じような体験を繰り返しました。
彼女は自分が何を見ているのか、そしてその女性従業員から何を求められているのか、理解できないままでした。
タイトル「呪われた歯ブラシ」
東京に憧れ、上京したミユキは、キャバクラでの華々しい生活を楽しみました。
彼女は容姿端麗で、ナンバー1の売り上げを誇り、忙しい毎日を送っていました。自分の家は安い家賃で2DKと広く、沢山の洋服やお気に入りの家具で彩られ、快適な生活を送っていました。
少し前から、彼女の生活に異変が起こっていました。
ある日、オトコが自宅に遊びに来た時に、彼は洗面台に置いてある歯ブラシを見つけて不機嫌になり、そのまま帰ってしまいました。
彼女はこの歯ブラシに見覚えがありました。
以前、他のオトコが置いていったのだと思い、すでに捨てていましたが捨てたはずの歯ブラシが、再び戻ってきたことに気づいたのです。彼女はその歯ブラシを何度も捨てても、いつの間にか再び現れることに怯えました。
LINEでそのオトコに「ごめんね」と伝えましたが、「他のオトコの歯ブラシがあるなら、捨てておけよ」と言われました。
慌ててその歯ブラシを、もう一度捨てましたが。また戻ってくるんだと、確信していました、その思いの通り、その歯ブラシは戻ってきました。
ミユキは精神的に追い詰められ、ついに地元へ帰ることを決意しました。
彼女は安堵のため息をつき、心の負担から解放されたように感じました。
東京での体験は一生の思い出となりましたが、彼女にとっては地元での静かな生活が、本当に必要なものだったのです。
母親の顔には、少しシワが増えていました。
翌朝、母親と共に食べる朝食は、少し恥ずかしいものでしたが、、母親の「ねぇ、あんた、なんであんな汚い歯ブラシ持って帰ってきたの?」と言う言葉に、彼女は絶望を感じました。
タイトル「帰り道」
その夜、アスカは疲れて帰り道を歩いていた、慣れないパンプスの感触がキライだった。
近所に住む、おばあちゃんの孤独死の知らせは、突然で不気味なものだった。
家の電気がついたままだったことが、彼女をさらに不安にさせた。
しかし、彼女はまだその道を通らなければならなかった。
月明かりが林の間から差し込み、道は暗闇に包まれていた。
アスカは急いで歩き、不安な気持ちを振り払おうとした。
しかし、何かが彼女の背中をつつくような感覚があった。
振り返ると、何もなかった。
ただの風だろうか?
彼女は歩みを早め、おばあちゃんの家に近づいていく。
そのとき、彼女はふと気づく。家の中から、かすかな声が聞こえる。
それは、誰かが泣いているような、嗚咽のようなものだった。
アスカは足を止め、耳を澄ませた。
声は確かに家から聞こえている。
しかし、おばあちゃんはもういないはずだ。
誰が泣いているのだろうか?
恐る恐る家の玄関に近づくと、そこからはじっと見つめる視線を感じた。
まるで誰かが彼女を見つめているかのようだった。
しかし、周りを見渡しても誰もいない。
不安に駆られながらも、アスカは勇気を振り絞り、玄関の扉に耳をつけた。
その時、玄関が少し空いていることに気付いた。
玄関のドアを、横にガラリと引くと・・・
家の中から濡れた様な温かい風が吹き出してきた。
そして、その風に混じって、ひとつの声が彼女の耳に響いた。
「あら、こんばんわ・・・」
優しく玄関に響くその声は、確かに、おばあちゃんのものだった。
タイトル「ベランダ」
イクミは彼氏の家での半同棲生活を楽しんでいた。
ある日の夜、ゴールデンウィークで遊び疲れた彼女は、部屋でくつろいでいた。
不意に、カーテンが揺れた。
イクミは「あれ?窓、開けてたっけな?」思い、少し不気味な気持ちにもなった、
ここに住んでいる彼氏を不安にさせたくなかったので、気付かれないように様子をうかがった。
そして、外の空気を少し吸いたいと伝え、カーテンを開けると、そこには思いもよらない光景が広がっていた。
ベランダには、ビッシリと子供たちが立っていた。
彼らは無表情で、じっとイクミを見つめていた。彼女は驚きのあまり、口を開けるが、声が出ない。
彼女の目に映る子供たちの目は、どこか異様で、生気を感じさせなかった。
彼女は悲鳴を上げようとしたが、その瞬間、子供たちは一斉に指を唇に当てて、静かに「シー」とジェスチャーをした。
そして、一斉に消えてしまった。
イクミは身震いしながら、カーテンを閉め、部屋に戻った。
彼氏がいつものように寝ている姿を見て、彼女は出来るだけ早くこの日を忘れようと思った。
だって、この部屋には、私と彼氏しか、いないんだから。
タイトル「村の風習」
キヨミが幼い頃、おじいちゃんから聞いた不気味な話があった。
それは、まだ土葬の文化が残っていた時代の出来事だった。
物語は、何もない田舎の小さな村で始まる。
そこでは、家族が亡くなると、その家族は土葬を済ますまで食事をしてはならないという風習があった。
この風習は、亡くなった者の霊が成仏するまで、家族が食事を我慢するという信仰に基づいていた。
ある日、キヨミのお爺ちゃんの曽祖父が亡くなった。
とても厳格な人間で、村人からの信頼もあつく頼りにされる人柄だった。
おじちゃんはまだ幼く、とくに悲しさの実感もないので、親の目を盗んで菓子を食べていた。
彼は理由を知らずにただお腹がすいていて、食べたかったからだった。
しかし、その夜、村は不気味な静けさに包まれた。
おさなかったおじいちゃんの家の周りには暗闇が広がり、どこかで不気味な物音が聞こえた。
おじちゃんは怖くなり、布団の中で震えながら眠りについた。
翌朝、家の前には村人たちが集まっていた。
彼らは何やら話し合っており、不穏な空気が漂っていた。
コッソリ音をたてずに外に出てみると、家族が亡くなった者の霊が成仏できない理由を、盗み聞きする形で知ることになった。
おじいちゃんは「僕が、おまんじゅう食べたからかな?」と正直に告白した。
家族は恐れおののきながらも、その日から食事を我慢し始めた。
しかし、土葬を終えても、霊の怒りは収まることはなく、村はますます不穏な状況に陥っていった。
おじいちゃんとその家族は、食べ物を土に埋めることを欠かさなかった、そのうち、状況は回復し、日常へと戻っていった。
キヨミは、その恐ろしい話を聞いて以来、土葬の風習や霊の恐怖について考えるようになった。
タイトル「シンクの音」
キヨミは一人暮らしをしており、気楽にハイボールを飲みながら昭和時代の心霊番組をYouTubeで観るのが日課だった。
その夜も、古い動画を再生しながら、リラックスして過ごしていた。
突然、キッチンからシンクの中に何かが落ちる音がした。
彼女は不思議に思いながらも、キッチンに向かい、シンクの中を覗いた。
しかし、何もなかった。
再び部屋に戻り、番組に集中しようとしたが、同じような音が聞こえた。
キヨミは面倒くさいと感じながらも、自分をなだめ、シンクの中を調べた。
しかし、何も見つからなかった。
すると不気味な油が焼ける臭いが部屋に漂い、彼女の心をさらに不安にさせた。
酔いも回り、明日も仕事だし、そのまま眠りについたキヨミは、翌朝目を覚ますと。
母親からの着信があったのを知る。
心霊番組に夢中になっていて、気づかないまま寝たらしい。
弟がバイクで事故に遭ったという内容だった。
さいわい、弟の命は助かったという。
お見舞いに行くと、包帯だらけの弟が笑顔で彼女を迎えた。
病院の食事は美味しいけれど、「ペヤングが食べたい」と笑いながら話した。
キヨミは、その夜の不気味な出来事と、弟の事故がどう関連しているのか考えた。
そして、心霊現象と現実の間には、時に不可解なつながりがあるのかもしれないと思い、
明日、友達に話そうと思った。
タイトル「公衆トイレ」
甲府の夜景を楽しみながらドライブするリサと仲間たち。
車を止めて、小さな休憩所に立ち寄ったとき、彼女はトイレに行きたくなった。
休憩所には自動販売機と公衆トイレがあるだけで、周りには何もなかった。
女友達のキヨミがトイレに行っている間、リサは自動販売機で缶ジュースを買って待っていた。
一方、男友達は煙草を吸っていた。
すると、トイレからリサの声が聞こえた。
笑いながら「やめてって!」と叫んでいる。
キヨミたちは何もしていない。
「マジ、笑えないって!ドア壊れちゃでしょ!」と言いながら出てきたリサは、怖がるというより楽しそうだった。
男友達は混乱した表情でリサを見つめ、キヨミは男友達の反応を待っていたが
ただ「脅かせてごめんね」とだけ言った。
車に乗って走り出すと、キヨミは、「そうそう、この前、うちの弟がさ・・・」と言いながら、先日の話をして
車内の雰囲気を、盛り上げようとしていた。
その後、男友達は、リサたちと、遊んでくれなくなったらしい。
タイトル「本物の霊能力者」
その女は、「サナちゃん」と言う源氏名で風俗店で働いていた。
ラブホテルや自宅に行く、デリバリータイプだ
所謂売れっ子ではないが、一定数のリピーターはいた。
その中の原田と言う常連客は、いつも「俺は霊感がある」と言っていた、普段はその話をあまり本気にしていない。
霊能力を魅せるために原田は、サナちゃんの部屋を透視すると言った。
玄関から入ってトイレ浴室と、原田は次々に当てていった。
凄いと思ったサナちゃんは「じゃ、私の寝室のクローゼットには何が入っているの?」と聞いた、
原田は得意げに「任せろ」と言って数秒、サナちゃんの顔をじっと見てから、
「俺、今日もう帰るわ」と言って、時間を残したまま帰った、
その日から、原田は姿を現さなかった、サナちゃんは、「あの人は、本物なんだなー」と思った。
タイトル「隣人」
田舎町の繁華街から外れた古いアパートの一室に住んでいるヒロミの隣の住人は、瘦せ型の男だった。
挨拶もしっかりする人の良さそうな外見。
フリーライターをしているヒロミは、夜遅く帰宅をし、不規則な生活をしている。
夜中にシャワーを浴びる音が、隣にも聞こえているんだろうなと申し訳なく過ごしていたが
隣の男は、イヤな顔もせず、うまく、おとなりさんでいられた。
ある日、男から「僕、ちょっと二週間くらい仕事で部屋を開けるので、猫の世話をして欲しい」と言われて、少し、面倒だとは思ったが断れなかった。
ヒロミも猫を飼っているし、お隣さんの猫にも興味があった、
借りた鍵で部屋に上がると、
その部屋の中は、ヒロミの部屋と全く同じだった。
奇妙な感覚が彼女を捉えた。
自分の部屋と全く同じ配置の家具や装飾品、そして同じ絵画が壁に掛かっている。
全てが完璧にコピーされたようだった。
ヒロミは一瞬自分が夢を見ているのではないかと疑ったが、冷たい床と現実感のある空気は彼女に現実であることを確信させた。
見覚えのある箪笥の上には、写真立てがあった、その中に写るのは、今よりも少し若い時のヒロミだった。
しかし、自分でよくみると、それはヒロミではなく、ヒロミに瓜二つの別人だった。
逃げ出したい気持ち、警察に通報した方がいいのか?
ヒロミは迷ったが、どうしても自分から本人に聞きたい気持ちがあり、
二週間、待つことにした。
隣人の猫は自分の部屋に連れていき世話をした、とても可愛らしい、自分が飼っている猫とも仲良く、まるで昔から、同居している様だった。
こんなに穏やかな猫を飼っている人間が、自分の部屋に、たまに侵入して、家具の配置まで模倣しているとは、とても不気味だが、同時にとても興味ぶかい。
そして、二週間が、たった。
自分の部屋に猫がいない事で、ヒロミが、自分の部屋で猫を世話してくれているのだろうと思って、男はチャイムを鳴らしてきた。
ヒロミは、「あ、帰ってきたんだな」と思い、チェーンをかけたまま、ドアを開けた。
男は、爽やかな笑顔で「どうも、中村です、うちの猫、ありがとうございました!今は、そちらにいますか?」と、ただ普通の挨拶をしてきた。
呆気にとられたヒロミは、「あ、、、はい」と言いながら、チェーンを開けようとした、
その時に飼い主が帰って来たことに気付いた猫は、ヒロミの足からスルリと抜けて、男に近寄った。
「どうも!本当に助かりました!」と男は、何か紙袋を持っている、
少し警戒をしながらドアを開けると、男は「え?!!」と、驚いていた。
「え?あれ?あれ?」
男は、自分の家の玄関ドアを見たり、ヒロミの家の玄関を、上から下まで、遠慮もせず、見まわした。
「え?なんですか?これ?ドッキリですか?え?なに?何コレ?」と、男は、子供の様に動揺していた。
ヒロミは、「え?・・・」と、次の言葉が出なかったが、男が、「これ、僕の部屋、真似してるんですか?」と、苦笑いしながらも、まだ、ヒロミの部屋の奥の方まで見まわしていた。
その男が、何かの冗談や、自分の行いを隠そうとして、演技をしている様子でないことは、ヒロミの玄関をみた瞬間に、自分の猫をしっかりと腕に抱いて、防御姿勢をとっていることから、判断できた。
ヒロミは、まだ言葉が出ない。
男は、「えーーー、なんだろう、これ、、、」と怪訝な顔をして、「あ、、、、いや、どうも、本当に有難う御座いました!」と言って、
多分、お土産であったはずの紙袋はヒロミに手渡されることなく、男は自分の部屋に戻っていった。
その瞬間にヒロミは声を出した。
「あの!部屋の事ですよね!」
男は、振り返らずに、立ち停まった。
ヒロミは、そのまま続ける。
「写真立て! そうそう、あの写真立ての女の人って、誰なんですか?私にソックリですよね?だから、私、あなたが、私のストーカーなのかな?って思って、ずっと怖くて、でも、猫ちゃん可愛いし、そんな事する人じゃないって思ったし、、、あの人、誰なんですか?」と、一気にすべてを言った。
男は、振り返り、
無理矢理に笑顔を作って「僕の部屋、来ます?」と言った。
ヒロミは、無言で頷きサンダルを履いて、男の部屋に入った、勿論、毎日見ている景色だった、移動した感覚はない。
男は、猫を部屋に離して、写真立てを手に取りながら
「これ・・・誰なんすかね・・・」と言った。
「え?誰か、わからないんですか?」
ヒロミは、職業柄、もう怖さはなくなっていて興味だけで、いまこの部屋にいる。
男から聞いた話の内容は、こうだった。
ある日、玄関ドアに備え付けてあるポストに写真が入っているのを発見した。
直ぐに、隣の女の人だと思い。
なんだろう?気持ち悪いな、と思った、玄関で挨拶するヒロミは、いつも寝不足そうで髪も整っているのを見たことがない、しかし、写真の中のヒロミは、薄い化粧をしており、ともて美人に見えた。
「あの人、本当は美人なんだな」と思ったらしい。
その後は、お互いが知る様に挨拶をしていた。
「俺の事好きなのかな??」と思ったりもしたが、写真をポストに入れてくる、と言うのは少し異様で、かと言って、その写真を見ていると、何時間も観ていられるようで、捨てる気にはならなかった。
普段の買い物のついでに、写真立てを買った。
男は、その写真立ての女性を、キヨミと呼んでいた。
キヨミは写真立てに入れてから、数週間たつと、夢に出てきた。
夢の中で、二人で過ごす部屋は、自分の部屋だった。
ただ違うのは、食器や家具だ、
この部屋で、二人は生活をしていた。
男が、目を覚ませば、いつもの男臭い部屋だった。
そうすると、キヨミがいなくなってしまう気がした、目を覚まして、写真立てを確認し、キヨミがいる事に安心した。
それから、夢を見るたびに、夢の内容は鮮明になっていき、キヨミと生活している部屋に、どんどん似せて言ったという。
その頃になると、男は、写真の女が、隣に住んでいるヒロミでは無いことを理解していた。
ただ似ている、すごく似ている、それだけだと思った。
けれども、本当に似ているので、現実の世界で会えないキヨミが自分の部屋の隣に住んでいると思えば、深夜に帰宅してきた時の鉄の階段を上ってくる音や、シャワー等の生活音など、全く気にならなかった。
夢から目覚めた後も、キヨミに会えると思えば、おのずと挨拶もしっかりできた。
ヒロミの事を、どうにかしてやろうかと思う時もあったけれど、キヨミとは別人なのだと、冷静な気持ちはあった。
そして、さっき、ヒロミの部屋を見て、もの凄く、驚いているのだと言う。
男は、写真立てをヒロミに渡しながら、「これ、、、、誰なんですかね?」と、、もう一度確認した。
タイトル「キヨミ」
キヨミは、不思議なことが好きだった。
宇宙人や、オバケ、なんでもいると信じていたし、そういう話をしている時が一番楽しかった。
小学生の頃、おじいちゃんから聞かされた、村の風習の話は今でも覚えていて、自分が死んでしまったときは、土に埋めてもらいたいと思っていた。
焼かれてしまうと、自分がオバケになれない気がした。
キヨミは自分が死んだら、オバケになって、色んなところを旅したいと思っていた。
中学生の頃、両親が離婚した。
キヨミと四つ下の弟は、母親についていった、
二つ年下だった妹は、父親が引き取った。
高校生に上がると、地元から早く離れて東京に行きたいと思っていた。
東京に行けば、なんでもできると思っていた。
上京した後は、キャバクラで働いた、
「幸せ」と「希望」を合わせて、ミユキと名乗った。
東京の生活は、順風満帆とは言えずに挫折し、地元に戻ることもあった、
地元での生活は、ゆったりと楽しかったが、実家で暮らしていると、
大好きだった妹や、怒りっぽいところはキライだったけど、たまに優しく褒めてくれる父親の事を思い出すのはイヤだったので、
また東京に戻った。
その頃、精神的に病んでいたキヨミは風俗店で働いていた、キャバクラで働いていた時より、15キロも太ってしまっていたので、
キャバクラの頃とまではいかないけれど、そこそこ人気のあるオンナだった。
その頃、風俗店の客との間に子供が出来てしまった、たった一度だけの客だったが「10万円あげるから中で出させてくれ」と言う要望に応えてしまったせいだ。
中絶も考えたが、生むことにした。
自分の体から、生命が誕生すると思うとワクワクした。
けれど、育児は、簡単に出来るものではないし、父親の事も考えると、その赤ん坊を見ていると、気持ちが悪くなったので、育てるのをやめた。
大きいクーラーボックスを買ってきて、その赤ん坊はしまっておいた。
キヨミは、「ちゃんと死んだんだから、私の前にオバケになって出てきてね、友達も沢山作るんだよ」と願いを込めた。
今度の東京の生活は楽しかった。
風俗も辞めて、昼の職場に勤めていた。
友達もできたし、彼氏も出来た。
その彼氏とは、結婚することはないなと思いながら付き合っていたので、その彼氏には、自分をイクミと名乗って、偽名で付き合うスリルを楽しんでいた。
いつバレても良かった、愛しているというより、独占欲で付き合っていた。
その男と付き合ている時に、たぶん初めてオバケを見た。
自分の赤ん坊だ。
幽霊になっていても、元気に育っている感じがした。
やっぱり幽霊って、いるんだなと思った。
キヨミは、楽しく生きていることより、
早く死んでオバケになりたいと思った。
死んだら、何をしようか?と考えながら生きていた人生だったから。
今まで、生きている人間にあまり興味がなかったキヨミは、誰かを恨んでいることもなかったが、
考えてみると一人、すぐに思い浮かんだ。
中学生の頃、両親が離婚したのは。
近所に住むミキのお母さんとの、父親の浮気が原因だった。
二つ下の後輩で、妹のヒロミとよく遊んでいたミキと言う女がいる、彼女も上京していて、今では同じ職場で働いている。
ミキは自分の事を覚えていなかったが、父親を奪った女の子供、自分よりも、自分の妹と仲良くしているのが、気に食わなかった。
思い出そうとすれば、ムカつく程度で、普段、同じ職場で接するには、ミキはいい同僚だった。
冷静に考えれば、ミキは何もしていない。
けれど、自分がオバケとして出るには、ちょうどいい存在だった。
これから、自分の命を絶つわけだから、母親に出ていくのも申し訳ない。
かと言って、弟は心霊の類を全く信じていない。
弟の前に出て行っても、あいつには見えないだろうと思った。
他には、ヒロミの前に出てやろうかと思ったが、ヒロミには、別の方法で実験することにした。
キヨミは、自分がオバケになる準備を始めて、身辺整理をした。
キャバクラで働いていた時、自分の人生で一番キレイだった時の写真があった。
自分で見ても、この頃はキレイだったと思う、薄い化粧、暖かい日にとった写真、誰に撮ってもらったかは忘れてしまった。
この写真に呪いをかけようと決めた。
何か決まった方法を知っているわけじゃない、親の離婚の為に会えなくなってしまった妹ヒロミに、この写真を渡してから死のうと思った。
私の写真を見れば、妹はきっと思い出す。
妹の夢の中に出て、私はオバケでいいから一緒にまた遊びたいと思った。
ヒロミがどこに住んでいるか、仕事は何をしているかは、すぐに突き止められた。
以外にも近く、電車で30分位の所に住んでいた。
ヒロミの家の前の玄関に到着すると、「また一緒に暮らそうね」と願い、ポストに投函した。
自宅に帰り、身辺整理をしている頃から、畳を持ち上げて掘っていた、自分のお墓の中に入って、座り、
マグカップに入っている、オバケになれる薬を飲んだ、少し難しかったが、自分で畳を閉じる。
お母さん、ありがとうねと、暗闇の中で、キヨミは生きてきた時間に感謝をした。
タイトル「エピローグ」
まだ、13:00だと言うのに、フリーライターの仲間から、電話があった。
布団にくるまれながら、ヒロミは着信に応答する。
「お!ヒロミ!寝てた!ちょっと面白い事件があってさ、あ、いや事件って言うか、変な死に方した女がいてさ」
ヒロミは、特に返事をしなかったが、仲間は、続けた。
「その女さ、ヤマノベ キヨミって名前らしんだけどさ、お前の姉ちゃん、なんかキヨミって名前じゃなかったっけ?
姉ちゃん地元帰ってるって言ってたよな?まさかなと思うけど、変な姉ちゃんだったらしいじゃん?
変な事言ってるのは分かってるんだけど、ちょっとなんかザワっとしたから、電話したんだよ、起こしちゃってごめんな、
一応、詳細、送っておくわー、朝からごめんねーー」と一気に言われて電話を切られた。
ヒロミは、眠気が飛んで、跳び起きた。
冷静ではいられなかった。
先日、隣の男が持っていた写真は、お姉ちゃんだと、ヒロミは思っていた。
いつも変なばかり言って、気持ち悪い姉だったが、オバケの話をしている時や、おじいちゃんの話を聞いている時。
自分の姉ながら、可愛い女の人だなと思っていた。
冷蔵庫にあるペットボトルから、直接、水を飲んでから、サンダルを履いて
隣の男、中村の家のチャイムを押した。
中村は、猫を抱きながら出てきた。
「あ、どうしたんすか?キヨミさん!」と、中村は、無邪気な冗談を言う。
「今日もね、キヨミさんの夢、見たんすよ!!」
「今日はね、ヒロミさんも、いたんす!!僕、キヨミさんもいるし、ヒロミさんもいるし、マジ天国って感じでしたよ!!」
「起きたくなったけど、まぁ、ヒロミさんがいるからいいかなって!なんか、すいません!テンション上がっちゃって!」
「って言うか、どうしたんすか?ヒロミさんから、僕の家来るなんて・・・」
ヒロミは、写真の女が、自分の姉だと説明し、どうにか譲ってくれないか?と説明した。
さっきまで笑っていた中村の笑顔は来たが、笑顔を作り直して「いいっすよ!勿論、あげます!」と言ってくれた。
中村は「その変わり・・・なんすけど、たまに、ヒロミさんの部屋に泊まりに行っていいすか?」と無鉄砲な要望を突き付けてきた。
ヒロミは「え??」と困惑するが
慌てて中村は「いや、そういうんじゃないです!!」とキッパリ言った。
僕、ヒロミさんの事、勿論キレイだと思うし、素敵な女性だと思うけど、僕が愛しているのは、キヨミさんなんで!!絶対キヨミさんを裏切ったりしないっすから!!
もう愛してるっていうか、、、本当の事、わかっちゃうと、僕、、、キヨミさんに取り憑かれているって事っすよね?と笑ってくれた。
ヒロミが返答に困っていると、中村の腕の中で、猫が「ニャー」と鳴いた。
「こいつは、悪い男じゃないぞ」と言っている気がした。
ヒロミは「そ、、、そうですね、私も猫ちゃんとまた遊びたいし、、、たまになら、、、」
言い終わる前に中村は、ありがとうございます!と言って、写真をヒロミに渡した。
「こちらこそ、ありがとうございます」と言って、ヒロミは自分の部屋に戻った。
ベッドの横に置いてあるスマホには、事件の詳細が送られてきており、ちゃんと見れば見る程、お姉ちゃんなんだなと思った。
自分の気持ちが理解できないまま、ベッドに横になりながら、お姉ちゃんの写真を見ていると、
ふと、テーブルの方から、人の気配がして、パっと見ると、久しぶりに会う、お姉ちゃんがいた。
お姉ちゃんは、優しく笑いながら、
「ね、オバケって本当にいるでしょう?」と言いながら、手に持ったマグカップを、色の無い唇に近付けた。
今後も引き続きよろしくお願いいたします。