9、討伐と手当
剣術を誰に教わったのか、20年生きてきて一番聞かれた質問。
他の人から見たら俺の剣技は魔法を疑う程に卓越した線を描くという。
だけど毎回俺はその質問をされる度に少し憤りを感じる、なぜなら答えをそいつらは口にしているからだ。
【この世界は魔法が全て】
ということは剣を極めるような奇人は俺しかいない、仮に俺が師匠と呼べる人に合えばその人が剣の第一人者として剣術指南なり剣聖なりを拝命しているはず。
だけど俺はその俺より先に剣聖になった人を知らない、多分質問をしてきた輩も同じ。
俺の剣術は全て俺が試行錯誤の末に到達した未開の剣術。
誰に教わるでもない、誰にも真似ができない唯一の至高。
剣を極めるという無駄を突き詰めた意味のない剣技、それが俺の歩んできた道。
「ギャァァアアア!!!」
空中に飛び散る魔獣の肉片。
森林の時は大雑把な力しか扱えなかったけど今ならもう少し流れを志向できる。
剣に腕に足に力を乗せ磨いた剣術の一端でも付与魔法で昇華させる。
小物は首を落とし絶命させ、大型の魔獣は四肢から削ぎ落とし機動性を無くしたところを絶命。
牙を持つヒースクレストは剣と体で受け流し関節筋を断つように切り込み体を切り落とす。
「どうだヒスイ、これが散々馬鹿にされてきた「無駄の剣」だ」
「すごい……よ」
「なんか踊ってるみたいな、すごい軽い動きだった」
岩陰から出てきたヒスイは周りに転がる死骸を見て感嘆。
そこまで素直に褒められると少し恥ずかしいけど、普通に嬉しい。
踊っているか、まぁ毎日欠かさず動きを積み重ねてきたから間違ってはないかも。
「痛みとか大丈夫?」
「まぁ怪我の功名というか前の最大出力のおかげで思った程の痛みじゃないな、まぁ痛いけど」
「剣も振れるし動けないこともないな」
「それは良かった、とりあえずヒースクレストの牙取って帰りましょ」
「また背負うのか?」
「私をここに置いていくつもりなの?」
そういう意味じゃないけど、まぁこればかりはなれる他ないか。
冒険者の討伐クエストの完了は対象魔獣の指定部位を持ち帰り終わる。
魔獣ヒースクレストは牙、鋭利な牙を剥ぎ取り迷宮を出る。
「大丈夫かヒスイ、牙重くないか?」
背負うヒスイは持ってきたカバンに牙を爪背負っている。
俺は付与魔法で感じないけどヒスイは生身、走ってる途中で首が締まったりしたら大惨事になる。
「この距離だし大丈夫だよ」
「よし、じゃあ帰るか」
行きは1時間弱かかったが付与魔法のおかげで数分で迷宮を脱出した。
こんくらいの手間で奥地まで行けるなら最初からそうすればと思ったが現実問題はそう簡単じゃない。
馬車に乗った瞬間に全身から力が抜け荷台に倒れた。
「悪いなヒスイ、どうも力が入らん」
「あとは任せて、馬車は私が操縦するから」
全身に振動を受けながら辿る帰路。
ヒスイが言うに今回は最小出力の少し上との事、動けはしたもののその後の疲労は健在。
多分明日から筋肉痛で動けないんだろうな、1週間は長引かないだろうけど。
「ねぇアレス、少し休んでもいい?」
「そうだな」
馬車は草原の木陰に止まり小休憩。
迷宮から30分くらい経った頃に手足が動くように。
荷台にの後方に寝転がり晴空を見上げる、下級魔獣なら1人で倒したことはあるけど、初めての達成感。
1人で倒した時も嬉しかったけど今日の方が活路が見い出せた感じがして気分がいい。
「そういえばヒスイはどこ行ったんだろう」
馬車を止めて数十分、ヒスイはどこかへ行ったきり帰っていない。
魔獣はいなかったから大丈夫だろうけど他の要因でもしものことがあるかもしれない。
重い体を動かし辺りを捜索、ヒスイは付与魔道士、近接に持ち込まれたら危険。
「ヒスイどこだ!」
「ヒスイ!!ヒス……」
言葉を失った。
馬車を止めた木から少し離れた岩陰にヒスイはいた。
上半身が下着姿の状態、肩に浮かぶアザと共に。
「あはは……バレちゃったか」
恥ずかしがる素振りもなく苦笑いを浮かべるヒスイ。
肩には水が染みたタオルがかけられている。
「肩のアザ……どうしたんだよ、まさか戦ってる最中に何か当たったのか?」
「違う違う!戦ってる最中じゃなくて牙を肩にかけた時に少しね」
「牙って、重さでアザが出来たってことか」
「私ね……少し体が弱いみたいなんだよね、ごめん」
「謝ることは無いけど、なんで黙ってたんだよヒスイ」
「そうなら俺が持っていったのに」
「だってさ、アレスが自分の体を犠牲にして戦ってるのに私だけ楽してたらずるいと思ってね」
「大丈夫かなって思ったけどやっぱり無理だったみたい」
肩のアザを見るに圧迫による内出血か。
断続的に肩への負担がかかり起こる症状、付与魔法の効果で空気抵抗は無かったはず。
であれば普通に肩にかけた重みで出血をしたと、相当に体が弱いのか。
「隠れて手当でもしようとしたのか?」
「そうしようと思ったんだけど、肩が上がんなくて無理だったよ」
「なら俺がやるよ、肩を貸してくれ」
「いいの?」
「いいから、気付かなかった俺の責任でもあるし恐らくだがヒスイより俺の方が手当が上手い」
「まかせろ」
ヒスイの手を取り手当をする。
昔から怪我を人一倍してきた俺は治癒魔道士を除いて世界一の自負がある。
薬草を練りこんだ塗り薬を肩に塗り包帯を巻く。
「なんかいいねこういうの、本当にパーティになったみたい」
「みたいじゃないだろヒスイ、これから何回でも手当してやるが無茶はするなよ」
「うん、ありがとうアレス」
ヒスイの手当をしクエスト完了報告のため王都へ戻る。
付与魔法の特性を完全に理解は出来なかったが付与魔道士ヒスイの事は少し分かった気がする。
今日みたいに少しずつ分かっていけばいい、まずは緑級冒険者を目指そう。