7、階級と暗闇
迷宮とは上級魔獣が作った巣穴の総称。
難易度は多岐に渡り新人が受注できるものから冒険者区分最高位の星級冒険者。
以下冒険者のランク
白級ー緑級ー赤級ー銀級ー金級ー星級
俺はもちろん白級冒険者。
ヒスイは5年前に冒険者になったらしく経験としては先輩、階級は緑級冒険者。
本人が言うには金級冒険者の実力はあるのだとか、本当かどうかは分からない。
そんな新米二人が向かうのは王都から北にある迷宮。
「それにしても白級の冒険者証は見ていて寂しいな」
「星級が持つ証とは大違いだ」
「アレスは星級の見たことあるの?」
「まぁ星級は宮廷魔道士と同列だから王城へ出入りする際に少しだけ」
「警備兵をしていた時に本人確認のために証も見た事があるけど、顔写真の横の魔法ステータスと下にある星の紋章はカッコよかったな」
冒険者証は階級が上がると素材とステータス下の紋章が変わる。
白級の証は硬く白い板、紋章は白い四角の図形のみ、緑級はそれを緑にしただけの簡素な作り。
銀級以上になると素材も上級魔獣の牙が使われ紋章もアイラード王国に伝わる八英雄が掲げた紋章をそれぞれ使っていて豪華。
「アレス、私達も星級冒険者になって魔王戦線に殴り込む」
「今日はその第一歩よ!!」
「星級ね……」
階級を上げるにはギルドより指定された魔獣討伐をこなす必要がある。
金級までは上級魔獣の討伐で上がるのだが星級となると相手は元素魔獣、ゆえにアイラード王国の星級冒険者は8人、グループで言うと4人1組の合計2組になる。
最後に星級認定されたのが4年前、4人で元素魔獣を倒したと聞いた時は耳を疑ったが、俺たちはそれを2人でこなさないといけない。
仲間になってくれる物好きに望みをかけるがギルドの好奇な視線を見るに望みは薄い。
「そんな心配な顔しなくたって大丈夫よアレス」
「私とあなたが力を合わせれば最強、前の実証で証明されたはずよ」
「まぁそうだな、どんな無理難題も目先からコツコツやるしかないもんな」
「そうよ、その勢いで行きましょ!」
少しは自信有り余るヒスイを見習うとしよう。
剣聖の一件を経て少し弱気になっている節がある、思い出せあの森林を薙ぎ払った感覚を。
あれがあれば星級も夢じゃないはず、まずは魔獣ヒースクレストを討伐し弾みにしよう。
「迷宮ってこんな暗いんだっけ?」
山肌にぽっかりと空いた大空洞。
入り口は魔石で光っているが奥は奈落、地下に下がっていると思うけど先が見えない。
これ本当に道は続いているんだよな?
「まさかアレス初めて?」
「まぁ前に何度か行ったことあるけど、こんな暗い所は初めてだ」
「足踏み間違えて転げ落ちたら死ぬんじゃないかこれ」
「ねぇねぇアレス、私の目を見て」
「え……」
人と視線を合わせるのは少し苦手なのだが、目の前に立たれては逸らす方が変。
身長は同じくらいなので正面を向くと自然と目線が交差する。
ヒスイの大きな瞳はこちらを向き青色の目が俺を映す。
女性の目をまじまじと見たことは無いけど、心なしかまつ毛や瞳が輝いているように見える。
「どう?」
「どうって……目が大きいなとしか」
「そうじゃなくて、私の瞳の奥に何かない?」
「もっとよく見て」
なんだその怖い質問は。
言われるがままに瞳の奥を見てみると。
「なんか俺の顔に赤い光がある?」
「まぁアレスの顔にじゃないけど、これは「光眼」っていう魔法でね」
「冒険者の中で密かに流行してる迷宮の暗闇がバッチリ見える魔法なの」
「今は照らせる魔道具があるけど冒険者は金がないからね魔法で代用ってわけ」
ほぉ……それはすごい。
暗視の魔法がある事は知っていたけどそれを使っている所を見た事がなかった。
確かに今は魔道具で夜道を照らすことは出来るがこの魔法を持っていたらさぞ便利な事。
「てことだから、私が先頭で後をついてくれば安心なのよ」
「それでも不安ならつかまっててもいいから早速奥に行きましょう!」
「……つかまるってどこにつかまればいいんだ?」
「服の裾に決まってるでしょ……どこ掴もうとしてんのよ変態」
そういう意味で言った訳じゃないんだけど。
まぁ本人がいいなら服の袖を掴むとしよう、俺は何より暗所が苦手、1人取り残されたらと思うとゾッとする。
ヒスイを先頭に白の衣服を掴み後を歩く。
「アレス……あまりこんな事言いたくないんだけど、こんな状況で戦えるの?」
「私の服掴んだままあんな森林吹き飛ばしたみたいな攻撃しないでよ」
「安心しろ……俺は……やればできる」
「言葉と声色が合ってないんだけど」
「本当に大丈夫だ、付与魔法にかかったら基礎機能全てが研ぎ澄まされる」
「それなら暗所でも視覚は戻るし、何より崖下に放り出されて1人になっても力で壁をこじ開ければ外に出れる」
「すごい脳筋な考え方ね」
脳筋でもないよりはマシ、以前の付与魔法を体感した時に感じた全てが研ぎ澄まされた感覚。
あれは人間基礎機能を拡張している、あの時は五感だけだと思ったが巨大な衝撃波を生み出しても壊れない体を見るに筋組織などの基礎機能も大幅に強化されている。
それなら暗所でも平気だと信じている。