6、冒険者と証
目を開けると木組の天井が目に入った。
ベットから上体を起こし辺りを確認するとタンスや机が並べられる普通の部屋。
ただタンスの上など所々に夜動き出しそうな奇妙なウサギの人形が置かれている。
「目が覚めたみたいね」
扉から出てきたのはヒスイ、水入りのおけを手に入室。
「悪いなヒスイ出過ぎた真似をした、なぜか君と会ってから気を失ってばかりいるな」
「迷惑をかけてすまない」
「確かに会ってから失神ばっかだけど、迷惑とは思ってないから気にしないで」
「それにしても下級魔法で半日も気絶するなんて最下層でも1時間で起きるわよ」
下級魔法でも俺にとっては致命傷になる。
一つに最下層と言っても上下の幅は広い、俺は最下層の中でも最下層に位置する人間。
俺の魔法選定を受け持った魔道士は10回くらいやり直し魔道具の故障と最後まで疑っていたほど。
俺も4回くらいまでは故障かと思ったけど後半になるにつれて泣きそうになった。
「ここは広場の管理室かなにかか?」
「ここ私の部屋」
「あまりにも起きないから持って帰れって言われちゃって、あなたの家も知らないから仕方なくね」
「そうだったのか……それにベッドにまで寝かしてもらって、本当にすまなかった」
「もし俺の寝た後が嫌なら新品の物を渡したいのだがこの後時間はあるか?」
「いいよ別に、私そんな潔癖じゃないし」
「私のために失神したみたいな物なのに何もしないと気が引けるからここに寝かしただけ、大した事じゃないから」
まぁそう言われるとこれ以上何かを言うのは失礼に値する。
ここはヒスイの優しさに甘えるとしよう。
「ねぇアレス、あのフリークが言っていたことが本当だったら私とパーティ組むのやめる?」
フリーク……あの丸刈り冒険者の事か。
ヒスイが味方殺しの異名を付けられ前にも病院送りにした過去、確かに悪意でそんな事をする輩は厳正な処罰を受けなければいけないと思うが、ヒスイに悪意は無いと思う。
悪意がある奴は罪悪感も無くのうのうと生きている、だがあの場のヒスイは自分が犯した事を悪行と反省し口を閉じた。
なら言うことは一つだけ。
「過去の事は過去、今大事なのは自分がやった事に責任を持つことだ」
「過去を忘れず今に生かすことがヒスイが持つべき責任、その魔法で誰かを傷つけたならその魔法で誰かを救えばいい話だと思う」
「だから俺もそれを手伝わせてほしい、最終目標は魔王征伐で世界を救うってことでいいか?」
「うん、ありがとう」
「だけど過去に傷つけてしまった人には直接返さないとダメだ、両者合意を成せば他者が介入する余地もなくなる」
「分かったよ、前に魔法を使って病院送りにしちゃった人に今度謝ってくる」
「それと魔王を私達が倒すってこともね」
まだ謝ってなかったのかと言いたい所だけど、まぁ分かってくれたなら何よりの事。
正直直接ヒスイの魔法を体感しなかったら付与魔法で病院送りという文言だけでは取り合わない要件、多分王国兵団も字面だけ見ていたずらか何かと処理をしたのだろう。
その者達もヒスイの付与魔法を喰らえば分かる、結構しんどいぞ。
「じゃあ今日はもう遅いから明日また広場で練習って事でいい?」
「それなんだけどさ、広場に行くとまた厄介ごとに巻き込まれるかもしれないだろ」
「だから最初に前受けた下級魔獣討伐みたいなクエストから始めないか?」
「実践は何よりの経験っていうし、どうだ?」
「いいね!!」
ヒスイの合格も貰えたので付与魔法の幅を調べる場所は広場から実践へ移された。
下手に我々を知る者達より何も知らない魔獣の方が安全。
それにヒスイのあんな顔はもう見たくない、なんか昔の俺を見ている気がする。
次の朝、そもそもの話で俺は王国兵団をやめた今「無職」扱いになり王都を出れない身分だった。
冒険者ヒスイのパーティ申請はしたのだが個人登録がまだということでギルドへ。
受付のお姉さんから鉄板をが手渡されそこに魔力を込めると登録された情報が明示される。
この鉄板を王国兵団入団時にもやったので見覚えがある。
「え……すみませんもう一度やり直しますね、魔道具が故障してしまったみたいで」
「いえ、これで合ってますよ」
このお姉さんの苦笑いも見覚えがある。
魔道具とは魔石を練り込んだ代物、魔力に呼応し組み込まれた回路が作動する。
発明者したウェールダリアは「賢者」と呼ばれ教科書にも載るくらい世界に革命をもたらした人物。
多分誰でも知っている世界共通認識。
「魔力値1って逆にすごいんじゃない?」
俺の冒険者証を眺めながらパンを食うヒスイ。
ギルドには来た事があるが食堂も併設されているとは驚いた。
それに食べているパンはなかなかの味、普通に美味い。
「良かったのかヒスイ、あんまここに長居したく無いだろ」
丸刈り冒険者程ではないがうっすらと視線を感じるギルド食堂。
クエスト受付の真横というだけあって人通りも多い、その7割くらいがヒスイを見てほくそ笑む。
「いいのよ別に、噂を面白がってる奴らは好きにさせとけばいいの」
「私が謝るべき人たちはしっかり覚えているからその時に頭を下げるだけもちろん誠心誠意ね」
まぁ本人がこうなら俺がいうことでもないか。
「そんな事より今日受けたクエストはこれよ!」
「ヒースクレスト討伐か、急にレベルを上げたな」
ヒースクレストとは鋭利な牙が特徴の四足歩行魔獣。
先日倒したウェートと同じ下級魔獣だが俊敏性と筋力が上級魔獣と遜色はなく下級に分類されているのは知性が乏しいという点だけ。
新人がよく勘違いする下級だから余裕を蹴散らす典型的な穴、それがヒースクレスト。
「私たちって魔王を倒すじゃない?」
「だから初手ももう少し高く見積もってもいいかなと!」
「意気込むのはいいけど、前みたいに力むなよ」
「もちろんだよアレス、もう君を1週間も寝かせないよ!」
不安の文字が頭を支配する中、新米冒険者アレスと意気込む付与魔道士ヒスイはヒースクレスト討伐のため王都から北にある迷宮へと馬車を走らせる