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202、力殺と同族

「もう少し遅いかと思ったぜアレス」


水上へ上がると洞窟の中央に立つ羊飼いと三色の羊に囲まれ拘束されたマーズ。

マーズを拘束する三色の縄、相当な魔力が込められている。

暴走状態のマーズでさえ解けないほどに頑丈。


「やっぱ本気出してなかったんだな、羊飼い」


「お前ら相手に本気出したら速攻で殺しちゃうだろ」


やはり最初からこいつの狙いはマーズだったのか。

だが妙だ、マーズが鍵なら族長ではなくマーズを捕まえていたはず。


「多分あいつはマーズの暴走した魔力を使う気よ。アレス、私がマーズの縄を解くから時間稼いで」


隣に立つヒスイ。

解けた後の事を考えると少し危険だが、そんなこと言ってる場合じゃないか。

最優先として羊飼いに英雄の力を奪われない事。


「頼んだぞヒスイ」


「うん、任せて」


「盛り上がっている所悪いけど、もう戦うつもりはない。俺はね」

「ー羊眠スリープー」


羊飼いの周りに立ち込める白煙。

その中に現れる四方を囲む木の柵、その中に立つ人影。


「あなたが族長エンリッヒなのか……」


柵の中に立つのは顎髭を蓄えた老人。

体は筋肉が隆起するほどに強靭、身長も変身前のマーズより大きい2mほど。

立つエンリッヒに違和感。


「なんで外傷がないんだ」


立つエンリッヒの体に一つとして傷はなかった。

俺の言葉を聞いて羊飼いは笑みをこぼす。


「それはそうだろ、だってバルトレアを壊滅させたの俺じゃなくてこいつなんだからな」


「は……何だって」


「アレス!!」


ヒスイの叫び声と共に飛来する剛腕。


「よく受け止めた」


剣で受け止めたその腕は先程まで柵の中にいた族長エンリッヒ。

まだ魔法を使っていないのにこの強さ、戦闘部族の族長とはよく言ったもの。

だが、今はそんなことどうでもいい。


「あんた、何を思って同族殺しなんて重罪を犯したんだ」


受け止める拳の向こうに見える顔は無。

何を考えているのかまるでわからない。


「お父さん!!」


マーズの魔力が跳ね上がり洞窟を揺らす。

父の魔力を前にして何かが外れたのか。


「おいおい、もう少し落ち着けよ」


三色の羊がマーズの周りを跳ねる。

洞窟に波及していたマーズの魔力は収まるがマーズは依然として父を呼び続ける。


「羊飼いの嘘なら撤回したらどうだ、息子の前で嘘はつくなよエンリッヒ」


「黙れ!!」


激しい連続攻撃を剣で弾き空いた腹部に斬撃を打ち込む。

力は強いがマーズ程ではない、それにさっきまでの乱戦を基準にしたらこいつは満たしていない。

腹を抑える族長の魔力が徐々に膨れ上がる。


「小僧にはわかるまい、力の前には全てが無力」

「世界を導くためには力が必要なのだ、同族の命を引き換えにしてもな」


「意味わかんねぇぞ、クソジジイ」


「ならわからせよう、力でな」

「ー因果エフェクトー」


エンリッヒの皮膚から漏れるまばゆい光。

身長はみるみる縮みそれに比例して魔力が増大していく。

これがマーズが言っていたエンリッヒの元素魔法。

若返り力を増す魔法。


「それがあんたが同族を殺して得た力か?」


マーズと同様に少年の姿になったエンリッヒ。

右手を開閉し体の調整を見ている。


「まさか、これはほんの入り口に過ぎない」

「貴様もそうだろ」



上体を逸らし正拳突きを回避。

速さがさっきの比じゃないが避けられない速さではない。


「そんな力に取り憑かれて虚しくはないのか」


「この世界は力でしか得られない世界なのだ」


エンリッヒの拳は地面を貫き舞い上がる土煙。

パワー重視かと思いきや煙の中に微量な魔力を混ぜて感知阻害。

やはり族長だけはある。


「力こそ全て、力こそ正義なのだ!!」


「だからそれを虚しいって言うんだよ」


右横から来るエンリッヒの拳、左足を軸に周り剣を振り上げ拳を弾く。

マーズもそうだったが剣を当たり前のように素手で弾くなよ。

煙の中に消え再び現れるエンリッヒ、力もそうだが流れを作るのが上手い。

剣のリーチも把握して拳の最速と俺の反撃を上手く合わせている。


「マーズを前にしても力が全てだって言うのかあんたは、自分の恐怖に打ち勝って亡き同族とあんたのためにここまで来たんだぞ。その覚悟はどんな力よりも強いんじゃないのか!!」


「笑わせるな小僧!!そんな蛮勇は一過性のもの、力は永遠、力がなければ蛮勇も無駄に終わる!!」

「ー重撃ポンド・フィストー」


右手の皮膚が赤く染まる。

確かにエンリッヒの言う力はある、それこそ魔王級の力を持てば世界を変える事もできる。

だがそれ欲しさに大切なものを犠牲には出来ない。

それこそ仲間の命と引き換えに得られる力は全て無意味。


「なら俺もわからせてやるよ、お前が切り捨てた仲間がどれだけ強い力だって事をな」


回復した今なら部分強化を打てる。

右手に手を当てヒスイに部分強化の合図を……。


「アレス!!マーズをお願い!!」


ヒスイ魔力を込めるの腕ではなく足。

それを見て俺も足に魔力を込める。


「ー転足てんそくー」


「遅い!!」


咄嗟の回避も間に合わずエンリッヒの拳は左腕を直撃。

その痛みを押し殺し、ヒスイが言ったマーズの元へ駆け抜ける。

エンリッヒを置き去りにしても目の前には杖を構える羊飼い。


「正気に戻すにはまだ早い」


「ー重力グラビティー」


力に引っ張られた羊飼いは左方へ吹き飛ぶ。


「お兄さん……お願い!!」


洞窟の岩陰から顔をだすユウラ。


「あぁ……任せろ!!」


暴走したマーズの魔力を利用する気なら正気に戻すほかない。


「マーズ、助かったよ。正気に戻ってくれ」


マーズの体に光の剣が突き刺さる。



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