1、不遇と追放
10歳で現実を知った。
魔法選定と呼ばれる体内魔力を図る儀式で俺アレス・バルトに下された判定は「最下層」
母は泣き父は悲しんだ。
そんな絶望の中、1人の魔道士が俺にこう言った「10歳にしては筋力がずば抜けている、何も世界を救うのは魔法だけじゃないよ」
心が踊った、初めて自分を褒めてもらって嬉しかった。
世界を脅かす魔王軍から人類を救うのに魔法が必須なんて誰が言った、まだ俺にはこの体がある、魔獣も魔人も魔王だって心臓に剣を刺せば死ぬ。
魔法選定を受けた10歳から俺はひたすらに剣を振り続けた、他の奴らが魔法を極めている間に俺は剣と身体を極めてやる。
「アイラード王国始まって以来の「剣聖」の称号を授ける」
20歳になり俺は剣聖になった。
理由は武闘大会で上級魔獣相手に剣1本で切り伏せた功績を称えてとの事。
ようやく認められた、これで剣聖として最前線に行き人類のために剣を振れる。
意を決しアイラード王国兵団作戦参謀殿に作戦参加の許可をもらいに行ったが。
「最前線に配属?無理だよそんなの」
「え……剣聖と宮廷魔道士の序列は同じと聞いたのですが」
「あぁ……まぁあれだ、剣聖ってのは君の「剣技」を陛下が認めたもので戦力になるかはまた別の問題なんだ」
「それに君も分かっていると思うが最前線に行って剣だけで何ができると言うんだ」
「この世界は創世記より神に与えられた「魔法」が全ての世界、生活だって魔法を蓄えた魔石で動いている、分かるねアレス、この世界は魔法が全てなんだ」
「……はい、失礼…しました」
10歳で見たはずの現実は20歳になり再び現れる。
魔法が全て、そんなの分かってるけど諦めきれないから剣と体を磨いた。
今なら上級魔獣なら一人でも倒せるほどに成長、それなのに……なんで誰も認めてくれない。
「おい聞いたか、剣聖アレスが魔王戦線に出して欲しいって参謀殿に直談判したんだってよ」
「勘違いするにも限度があると思わないか?」
「まじか、あれは遊技的な意味合いだってのに気がつかないもんかね」
「まぁでも可哀想だよなアレスの奴、魔法が無い世界だったら最強だったろうに」
人の悪口を兵団本部の廊下で喋るなよ。
もし聞かれたらと想像できない貧相な輩がいる場所なんてこっちから願い下げだ。
昨日までの浮かれた感情はどこへ行ったのか、やるせない感情が襲いくる。
「もう一杯くれないか」
「まだ余韻に浸ってるのかお前は、昨日散々祝勝会やったばっかだろ」
小さい頃から通っている酒場。
父親の友人ベーグルが経営するこの酒場で意識を飛ばすくらいに飲みたくなった。
「いいから頼むよベーグル、金ならあるから」
「大丈夫かアレス、何かあったら言ってみろよ」
別に話すつもりはなかったのだが、ベーグルに聞かれると不思議と口を開いてしまう。
剣聖というお遊びの称号と剣だけ使う無能なアレス・バルトの話を聞かせる。
「アレス、その影口言った馬鹿二人の顔をおぼえてるか」
「え……何するきだよ」
「半殺しにしてやる、アレスがこの10年間どんだけ努力したのか知りもしねぇで軽口叩く奴は」
「俺が許さねぇ」
「やめてくれ、俺のためにあんたが牢屋にぶち込まれたら死んだ父ちゃんに顔むけできねぇよ」
剣の道を最期まで応援してくれた父を悲しませるようなことはしたくない。
それにベーグルなら相手が王国兵士でも関係なく半殺しにしそうで怖い、それを実現出来る力はあるから冗談に聞こえない。
「心配はいらないよベーグル、俺は俺の道で頑張ってみる……何も王国兵団にいなくても冒険者とかで魔王軍と戦う機会はあるさ」
「それに馬鹿にされるのは慣れてる、正直その悪口を聞いても何も響かなかったよ」
「そいつらはただ正論を言ってるだけ、俺が戦場に立てないのは事実、それで終わりおしまいなの……で……」
視界が揺れる中俺は床に頭を打ちつける。
10年間という長い年月を俺は無駄に過ごしてしまったのか、誰からも期待されず誰からも相手にされなかったけど剣という道を信じて進んできた。
その成果がようやく認められたと思った矢先、戦場に出られないなら剣なんて極めるんじゃなかった。
「ようやく起きましたか、剣聖と聞いて真面目な人かと思いましたけど」
「とんだ大馬鹿さんですね」
重い目をこじ開けると目の前には大杖を持った赤い髪の女が席に座っていた。
周りを見渡すとベーグル酒屋の2階にある寝室という事が分かったが、目の前の女に心当たりがない。
確かベーグルの息子は漁師になるって言ってたし、他の子はいないはず。
そもそもあんなハゲ親父からこんな目がぱっちりしている子が生まれるはずがない。
「誰だか知らないけど、用があるなら明後日にしてくれ今は頭が痛すぎて喋れそうにない」
「剣聖アレス・バルト、あなた魔法適正が最下層とお聞きしたんですが合ってますか?」
「そんな意地の悪い確認は辞めてくれ、胃の内容物が戻ってくる」
「剣一本で上位魔獣と戦える実力を持ちながら魔王戦線から外されたって本当ですか?」
「馬鹿にしたいなら明後日にしてくれ、そうしたら聞いてあげるから」
「剣術を見た人からは剣速が目で追えないと評されながらも生き物が持つ「魔法外殻」を破る魔力が無くそもそも戦いにならない」
「世界が違えば最強の不遇な剣聖と昨日から密かに呼ばれているのはあなたで間違って……」
「なんなんだお前は!!」
「うるさいんだよさっきから、なんだ、人の傷口を塩で固めてそんなに楽しいかお前は!?」
「そうだよ、俺が剣しか取り柄のない不遇な剣聖だよ!!これで満足か!!」
「はい!!大満足です!!!」
俺の怒りはこの女には届いていないらしい。
自虐混じりに遺憾の気持ちをぶつけたがこの女は俺の手を掴み目を輝かせる。
こんな熱狂的なファンがいたなんて知らなかった、普通に迷惑だけど。
「はぁ……で、何か用か」
怒る気持ちは冷め目を輝かせる女の話を聞く事に。
女は壁に立てかけてあった杖を持ちその先の帽子を被る。
「私は付与魔道士のヒスイと言います」
「訳あって先日冒険者パーティから追放されましたがそれも運命」
「剣聖アレス・バルトさん、私と組んで魔王を討ち私達を馬鹿にする下郎を見返し再起を図りましょう!」
大きく手を差し出す付与術師ヒスイ。
何が嬉しくてそんなに笑顔なのかはわからないが嘘をついている風には見えない。
まぁどんな巡り合わせで人生が変わるかは誰も知らないし。
その巡り合わせが行きつけの酒場で飲みつぶれた翌日でもおかしくはない。
「気持ちはありがたいんだけど、流石に魔王は殺せないんじゃないかな」
「だって俺魔法使えないし」
「だからいいんだよ!」
急なタメ口。
満面の笑みで皮肉を言うとは中々肝の座った人だ。
俺が言うのもあれだがこの世界で魔法が使えなくて良かった事なんて一度もない。
この人は知らないんだろうな魔法適正で最下層を受けて母親が泣き出すあの最悪を。
「なんで良いのか聞かせてくれるか」
「私の付与魔法はね、魔法を使う人に付与するとその人を暴発させちゃうの」
「だから魔法を使わない剣聖のアレスと相性が良いってわけ」
それが本当なら理にかなっている。
付与魔法は本来、対象者の魔力を上げたり敵の属性魔法に対して有利属性で仲間を守る役割。
無論、俺も付与魔法を掛ければ魔法攻撃はできるがそれは微量。
付与魔法は対象者の魔力量によって効果が大きく変わる、普通の人間で暴発するなら俺でちょうど良い効果が得られると言うこと。
「相性が良いのは分かったけど、なんで俺なんだ?」
「最下層の奴なんて周りにいるだろ、それこそ俺に会いに来なくても良かったんじゃないのか?」
「それなんだけどね……前に最下層の人に付与魔法をかけたら」
「四肢の骨が折れちゃって戦い所の騒ぎじゃなかったんだ」
「……は?」
「じゃあ俺に声をかけた理由は、骨が丈夫そうだからって事か?」
「そう、その通り!」
「俺の骨が砕けない確証はあるのか?」
「それはない!!」
自信満々に胸をはる付与魔道士ヒスイ。
あまり人を早計に判断したくないのだが、今の会話の流れでこの人がパーティから追放された理由の一端を見た気がする。
多分だけど、この人は協調性に欠けている。
「アレス……どうかな、やっぱダメ?」
巡り合わせは突然。
昔父がそう言っていた気がする、なんで今それを思い浮かんだのか分からないけど、この巡り合わせが俺にとって一生物だとしたら乗ってみるのも悪くないか。
どうせ暇だし。
「まぁ……骨くらいいいよ別に、剣の修練で骨折なんて日常的だったし何より……」
「俺も馬鹿にしてきた奴らを見返せる可能性があるなら協力させて欲しい、君が言う再起を図るってやつを」
「ありがとう!!」
こうして欠点ある剣聖と追放された付与魔道士はそれぞれの弱点を補い合い再起を図る。
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