6話 意識高い系は休日に山を嗜む
<登場人物>
・ルナ:月から来た魔法使い。月年齢で十歳
・葵星:異世界転移した在宅ぼっち。地球年齢で三十歳+α
・未心:初めて出会ったステラの住人。ステラ年齢で十七歳
・ピコ:持ち運びも可能な球体の投影機
<前回のあらすじ>
アウトドア系女子の未心によって、インドア系の葵星とルナはついに、山を降りてこの世界と関わる覚悟を決めた。
「気持ちいい天気だねぇ」
足取り軽く未心は行く。
「また折り返し!? 何回騙せば気が済むのさ!」
足取り重く、ルナはついていく。
葵星は若者のペースについていくのに精一杯で、二人の間を取り持つ余裕はない。
「誰も騙してないって。一息つくための場所なんだから」
「休んだら疲れる」
山道は真っ直ぐな一本道という訳にはいかず、くねくねとした道にならざるを得ない。
折り返し地点は道を譲り合う場所にもなるのだが、ルナは折り返したびに不満を垂れた。
ルナは見るからにへばっているのだが、決して未心の言う通りに休もうとはしない。
落ちゆくペースに耐えかねて、未心はルナのリュックを取った。
「重っ!」
「勉強熱心なんだよね」
「魔法でもっと軽くできないの?」
「初めて使った魔法なんだから、上出来でしょっ。小屋を丸ごと入れたんだよ。ってか返せっ」
「ほい、頑張ってー」
まだ未心の方がペースは早く、ルナは必死に後を追いかけた。
開けた道には電柱が設置されていた。
山にまで行き届いたインフラ整備には感服する。
おかげで山頂にまで電気が供給されていたのだ。
「あ、団子屋さん!」
「本当!?」
「は閉まってました」
団子屋があるから頑張ろう、と未心はここまで発破をかけてきた。
口をすぼめながらも、ルナは団子という食べ物を楽しみに来てしまった。
期待が裏切られた。これが絶望か。
「朝早いからぁ。未心ちゃんのバカぁ」
「あははー、次のポイントに着く頃には開いてるから、もう少し頑張ろう」
「うぅぅ、帰りたい」
「ほら、魔法で飲み物を出せるんでしょ?」
「やだ。負けた気がする」
「水分は必要だって」
ルナの魔法なら、山からふわりと飛びおりることも出来たのではないだろうか。
けれどルナは、山を降り始めてから一度も魔法を使おうとはしなかった。
遅れてきた葵星はパンパンになった足に鞭を打ち、ルナの前で屈んでみせた。
「次の団子屋まで運んであげよう」
「あおくん、無理は禁物だよ」
「この山はパワースポットなんだろうね。さっきからパワーが溢れてくるんだよ」
「あははっ」
ルナはからっと笑い、手を差し出した。
「手、つないでっ。それだけで十分」
「う、うん」
葵星はルナと手を繋いで歩く。
再び細い山道が続く。
滝の水が届いているのだろうか。
水の流れる土砂道は濡れて滑りやすく、転びそうになるルナを何度も支えた。
大きな階段が現れる。そこで未心は立ち止まっていた。
「この階段を一人で抜けると、パワースポットボーナスが二倍だよ」
ルナの力に元気が戻る。
「手、離して」
未心の説明を鵜呑みにしたらしい。
パワースポットよりも不思議な力に満ちた少女だというのに。
続くチェックポイントで、未心はルナの元気を一気に取り戻した。
「団子ー! やー!」
「結構大きいけど食べられる?」
「美味しい〜」
「くぅ、可愛いやつめ」
無邪気に団子に齧り付くルナに、未心は心を満たされる。
団子一つでだ笑顔になる心をずっと大切にしてほしいと切に願う。
「お、お待たせ……」
「はい、私たちはアイスにしといたよ」
未心は二人分のアイスも買っていて、静かにバテているおじさんに奢ってくれた。
「全部、セルフサービスなんだね」
「このご時世に時山登りするような物好きはいないからね」
「さっきの団子屋やお土産屋さんは」
「勿論、全部セルフサービスだよ。セルフとはいえ、営業時間通りにお店は自動で開くし、自動で閉じる」
ルナが微笑ましく頬張っている団子も、未心が焼いたものだ。
団子屋には材料と団子を焼く炭火と俵が用意されている。
支払いは電子決済で、未心は腕時計を端末にかざすと、串にささった団子が現れ、炭に火がついた。
長閑な景色に懐かしささえ感じていたが、細かなところにファンタジー要素が散りばめられていた。
☆彡
「五、七、五で言うと、名言感が出るんだよ」
まだまだ続く道中、登山者を飽きさせないために看板が点在していた。
「たとえば?」
「葵星さん、どうぞ」
「山登り、踏みしめる足、パンパンだ」
「「あっさ!」」
豆知識が書かれた看板も所々に立っている。
「標高によって葉っぱの色が違うんだって」
「全然見てなかったよ!」
ルナは元気に反応してくれるので、看板を立てた人も報われるものだ。
麓が見えてくる頃になると、文明の力も如実に頭角した。
ケーブルカー乗り場だ。全自動で動いており、無人の列車がちょうどこちらに向かってきている。
「ルナちゃん、乗りたい?」
「乗りたい! もう歩きたくない!」
「足がぶらーんってするんだけど」
スキーリフトなんかで見る形状で、安全バー以外に身を守る壁はない、
前のめりになったら落ちてしまう。
ルナは青ざめた顔で、登山道に軌道を戻した。
「あれ、乗らないの?」
「歩く」
「いいの? まだ結構歩くけど」
「怖いよりマシ!」
最後の登山道に差し掛かった。
「ルナちゃん、調子どう?」
「……」
「お、また折り返し地点だ」
「……」
再び、折り返し地点が続いた。
ルナはもう、文句を言わなかった。
歩くことに集中し、己の体に神経を研ぎ澄ましている。
そして……。
「到着!」
「やったー!」
「あれ、ルナちゃん、元気じゃん!」
「慣れたら大したことないねっ」
「アウトドアの楽しみが分かったようだね」
星降り山の麓で、少女が二人、万歳をしていた。
遅れて、葵星が降りてくる。
「ひぃ、ひぃ」
「おじさんもお疲れ様」
「あぁ、おじさんだよ俺は」
「まだまだ若いって、葵星さんは」
そこは、郷愁すら感じさせる街並みだった。
住宅街に囲まれて、広場が開けていた。
屋台や食事処なども賑わっている。
大きな看板には、複数の登山コースが示されていた。
「それなりに人気のあった登山スポットだったんだよ」
未心の説明は、街の雰囲気と合致した。
「ようこそ、在宅の街へ」
☆彡
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