4話 アウトドア・ガール
<登場人物>
・ルナ:月から来た魔法使い。月年齢で十歳
・葵星:異世界転移した在宅ぼっち。地球年齢で三十歳+α
・ピコ:持ち運びも可能な球体の投影機
<前回のあらすじ>
山の上のプラネタリウムに引きこもる葵星とルナは、サブスクという最強の引きこもりアイテムを手に入れた。
「今日も宣伝に行かなかったね」
「雨降りそうだったし。せっかくなら晴れた日がいいよね」
「分かる」
ポップコーンのバスケットと紙コップのコーラを併せたポップコーンセット。
それを一人一セット抱えて、葵星とルナは並んで座る。
「昨日の続編、来ないかなー」
「1呼吸挟んでからにしたくない?」
「私は続きがずっと気になってるの! 温存したって勿体無いよっ」
ピコが天井に白い光を照射する。
ジリジリと音を立てて、やがて光が像を結ぶ。
そこに映像が生まれる。
夜な夜な、葵星とルナはこうして映画やアニメを見ている。
すっかり日課になってしまった。
葵星もルナも、その姿勢のままいつの間にか眠りに落ちることとが多々あった。
☆彡
「いやー、これが感動ってやつかぁ」
声がして、葵星は目を覚ました。
ルナは隣で席を完全に倒してぐっすり眠っている。
気づけば前方の席に誰の後頭部が見えていた。
彼女がこちらを振り向く。
「どうもっ。誰も来てくれないから勝手に入っちゃいました」
「誰!? いつからいたの?」
「映像が流れ始める位から。面白い建物だねっ」
けたけたと笑う女の子。
パーカーを羽織った彼女は、機動性の高いラフな格好をしていた。
艶やかな髪は灰色で服装も灰色。けれど彼女からは不思議と暗い感じがしない。
何故か、コーラとポップコーンも所持していた。
「川口未心です。料金ならちゃんと払うので、怒らないでくださいねっ」
彼女が実質、プラネタリウムの最初のお客さん、ということになる。
「どうしてここに?」
「宣伝を見てきました」
「宣伝?」
「夜空の光が気になって来ちゃったんですよ」
「一人で来たの?」
「そうですよー」
「夜が怖くないの?」
「怖いけど、怖いだけじゃん?」
話しながらも未心はポップコーンをつまみ、「これ、止まらないですね」と笑みをこぼす。
大人っぽさと子供っぽさが同居する彼女は、恐らくまだ未成年だろう。
星空に惹かれて、夜を出歩いてしまうのだから。
「あの光って、何だったんですか?」
「星空だよ」
「”ほしぞら”……」
知らない言葉を発音するような、ぎこちない言い方だった。
星空のないステラの住人なのだ。
「おじさんは、ここで働いているんですか?」
「”おじさん”……」
葵星もまた、自分のことを指している言葉とは思わず、絶句した。
「お兄さん呼びとおじさん呼び、どっちか迷いどころだったので、僅差でおじさん呼びになりました。お名前、なんて言うんですか?」
「あ、あぁ、永瀬葵星だよ」
「葵星さんですねっ」
「こっちで寝てるのがルナ」
「娘さんですか?」
相も変わらずおじさん扱いをされてしまう。
とはいえ、この子のことは何て説明すればいいのだろうか。
熟考の末、葵星の出した答えは。
「館長だよ。俺は雇われてるんだ」
「ふぇぇ。幼いのに、逞しい」
いわば葵星はスカウトされ雇用された身。
下手に親戚だとか嘘をつくよりも、ありのままを伝えて正解だっただろう。
「ということは、ここで働いているんですか?」
「そうだよ。今はまだ開業準備中なんだ」
「どんな施設なんですかっ?」
彼女は食い気味に、未知の物に対して興味を示す。
ステラの住人は皆願いごとを失っているというが、彼女のような活発な子でも同じだというのだろうか。
「ここは、プラネタリウムなんだ」
「”ぷらねたりうむ”……。さっきみたいな映像を映す場所なんですね!」
「それだとただの映画館になってしまうな」
「”えいがかん”……」
「映画館も知らないの!?」
「劇場はある? 演劇とか、お芝居とか、人が演じるもの」
「え、ええ……。あると思いますよ。私は子供の時に一度だけ見たことがあるだけですけど、王都とかに行けばあるんじゃないかな?」
「そっか、あるにはあるんだね」
「つまんなくて長いくせにやたらと値段が高いっていう、あれですよね?」
あぁ、良くない段階だ。
古典や伝統を重んじて格式ばった文化、といったところだろう。
元いた世界でも、入り口がそういった舞台のせいで、世の中にはエンタメやエネルギーに全振りした、スッキリと気持ちの良い舞台も沢山あるというのに、興味を持たない人は知ることなく終わってしまう。
演劇業界では有名な劇団が赤字で解散してしまうほど、向かい風な文化だった。
「演劇のような物語をいつでも気軽に低価格で見れるようにしたものが、映画館なんだ」
「話も面白かったですしねっ」
女児向けアニメは、彼女に刺さったようだ。
星空を広めるよりも、アニメを見せて回った方が、ルナの目的は簡単に達成出来るのではないだろうか。
「そして、プラネタリウムっていうのは、投影した星空を見る場所なんだ」
「昨晩のようなちっちゃな光を眺めるのか」
自分で説明して改めて思う。
プラネタリウムよりも映画館の方がやはり魅力的だ。
「それって、素敵ですね」
未心が言った。
「この世界に足りないものがここにある気がします」
「ステラの人たちは皆、何かが足りないって感じてるの?」
くすり、と未心が笑う。
「なんだか、違う世界から来たみたいな言い方ですね」
「いや! えっと、その、僕たちは旅をしていて……」
「納得できますよ。あの光は、そういう輝きでしたから。ほんのちっぽけでも、暗闇に輝きが現れたんですよ?」
彼女はきっと、暗闇から目を逸らさずにいたのだ。
願いと呼べるほどの輪郭を持っていなくても、土壌のない希望の種を捨てずに大事に持っていた。
星が星を呼び、希望が希望を呼ぶ。
ルナのやろうとしていることは、きっとこの世界を救う。
この瞬間、葵星はそう思った。
「未心ちゃんは、まだ起きてられる?」
「えぇ、目的があれば」
「せっかくプラネタリウムに来てもらったんだから、星空を見てもらわないと」
葵星はコンソールに移動して、ピコに呼びかける。
気まぐれなピコとの対話も葵星はだいぶ要領を得てきた。
球体の彼女に文脈は関係なく、気分が乗っている時に話しかけることがポイントだった。
お客さんの存在に気がついて、ピコはきっと張り切っている。
「あのー、私はどうすればー」
「座って、倒れ込んでるといいよ」
「倒れ込む……?」
未心は席につき、恐る恐るといったように背中に体重を預ける。
バタンと倒れる音がした。
「うわ! なんだこれ!」
座ることも寝ることもできる椅子もまた、未心にとっては新体験だった。
「わー、なんだ、これ……」
ピコが仕事モードに切り替わる。
夜の帷が降りた投影室に、ピコが星空を創る。
そこに浮かぶちっぽけな星は、これまでと同じく、二つだけだった。
☆彡
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